琥珀色の誘惑





 遊びに来た時、現郎が寝ていたりしていたら爆がどうするかと言えば、勝手にやっている。それはもう、勝手に。
 陶器で出来た冷蔵庫の役割をする棚を除いたり、そこにある材料で料理やお菓子を作ったり。
 そうしていると、いつの間にか起きていた現郎がお茶を淹れてくれる。紅茶を淹れるのは現郎の方が上手い。だから、現郎もハーブティーに凝ったりして、淹れてくれたりはしないだろうか、と密かに思う爆は最近ハーブティーがお気に入り。
「ん?」
 と、何かを発見した爆は、それを取り出す。
 小さな瓶で、エメラルドグリーンの王冠で封をしてある。ラベルは一応貼ってあるが、異国の言葉で爆には読めない。中は薄い琥珀色の液体で、気泡を次々と浮かびあがらせているところを見て、ジンジャエールだな、と決める。
 丁度喉も渇いていた事だし、飲んでみよう、と蓋を開けた。シュワシュワという音が、ますます喉の渇きを煽る。
 ごくん、と一口飲んだ。




 ん?、と異変を感じ、現郎は起きる事にした。
 異変とは、この場合の対象は爆にある。
 来た事も、室内に居る事も知っているが、何だか気配というか様子がいつもと違う。
 目覚める前に、顔の横にふわふわしたものを感じた。……髪?
「……爆?」
 のそ、っと起き上がると、傍らにソファに背中を預けて座る爆が居た。なんか、座っているというのに、左右に揺れているように思う。
 更に身を起こし、爆の全身を見届けると、この異変の原因と思しき物が眼に入る。それは爆の両手のひらに、大事そうに包まれていた。
「爆………」
 どこか力が抜けたような声になったしまった。その声に反応して、爆が現郎を見上げる。
「現郎、大変だ、病気になった………」
 顔に赤みがさしていて、眼がぼんやりしている。
 その様子を見て、あー、と額を押さえた。
「どうした。そんなに、オレは酷い常態か」
「違う。オメーは至って健康体」
 冗談ではなく、本気で心配しているような爆に言う。
 でも、と爆は。
「体が熱くて眩暈がして、頭がなんだかぼんやりする」
 そして、上手く歩けない、と症状を訴えた。
 だからな、それは、と現郎。
「酔ってんだよ」
「?」
「オメーが飲んだのは、酒」
「………?」
 何を言ってるんだ、こいつは、みたいに見られる。
「嘘だ、オレが飲んだのはジンジャエール……」
「そう見えるけど、酒なんだよ。ほら、オメーが後生大事に抱えてるそれ」
 と、言って取り上げようとすると、爆が食い下がる。
「あ、何をする!それはオレのだぞ!」
 いや俺のだ……と、言おうとしたが、止めた。酔っ払いに何を言っても通じないのは、これの父親で身に染みて解っている。
「返せ、うつろー!!」
 発音がそろそろ危ない。
「まぁ、寝れ」
「うー、うー」
 強引に添い寝させ、抵抗するのを封じる。
 爆は暫くじたばたしていたが、やがて襲った睡魔(と、言うか動いたため酔いが回った)に、素直に眠りに落ちた。
 これ以上無いくらい顔を近づけると、普段には無い、爆からかすかなアルコールの香りがした。
(あーあ、うっかり忘れてたなぁ……)
 爆が飲んだあの酒は、少し前、ひょっこり来た真が、ひょっこり置いていったものだ。当人が当人なので、今回こうなると解った上での行動の可能性は大だ。
 そんな事は知らず、爆はとてもすやすやと寝ている。とても安らかだから、悪い酒ではないみたいだ。
 だからどうだという事も無いんだが。
 起きたばっかりだというのに、眠った爆を抱いて、現郎もまた眼を綴じた。




 爆は眼を覚ました。
 眼を覚ました時点で、うん?と思った。何時の間に眠ってしまったんだろうか、と。
 そして、間近の現郎。何時の間に、どうしてこうなったんだ?ハテナマークだけが爆の頭を占める。
 もう一度、現郎を見る。まるで子供みたいな寝顔だ、と見る度に思う現郎の寝顔。
「……………」
 寝癖を直し、キッチンへ向かう。
 とりあえず、さっきの続きをしようと。
 その横で、緑色の王冠が、きらりと光を弾かせていた。




<END>





酔っ払いネタはよく使いますなぁ、自分よ。
この後現郎が腹減った、と起きてきます。