彼の名前は現郎。多分錬金術師。
多分、というのが付いてしまうのは、その職業をテレビで見て名乗っているからなのと、今までに何回か試みた中で、一度たりとも金の練成に成功しない事だ。
一応、してはいるのだ。けれど、出来上がるのは美味しいお菓子だったり、通販で売ってそうな便利グッズになってしまうのだった。
そして、今日は。
「鏡、だな」
爆は言う。目の前にあるのは、現郎の身長くらいの大きさの鏡。
「今回は比較的まともな物が出来たな」
良かったなと思う反面、詰まらないと正直に思って、言った。
ぼりぼりと頭を掻く現郎。
「ん〜、まともって言うか……あ、触るなよ?」
「ん?」
爆は今、まさに鏡に触れる所で。
「触ると、」
爆の掌が鏡面に触れる。
と。
まるで水面のように、手がずぶり、と埋まった。
「多分、過去に戻る」
「なっ?」
目の前の現象と、現郎のセリフとの両方に驚愕の声を上げた。
「どういう事だ?」
「だからな、ほら、」
ごとごとと、鏡を動かし、外の風景を映す。その光景に、爆は眼を疑った。
そこに映し出されている、大きな樹は。
5年前、住宅地にされたために切られたものだ。と、いう事は、鏡の中のこの風景は5年前、という事に。
なるんだろうか?
本格的に調べた訳ではないので、何とも言えないが。爆は基本的に自分で見たり聞いたりした事以外は信じない。
しかし、現郎の今言った事が真実だとすると。
「ここまで来たら、金の方が作るのが簡単だとすら思うんだが」
「あぁ、それは俺もそう思う」
なのに、金は出来ないんだな現郎。
まぁ、仕方ないか。製作者にやる気……というか興味が無ければ成功するはずがない。逆を言うと、出来てしまった「それ」が、その時一番現郎が欲しいとか思ったりしたものなんだろう。
となると、現郎は過去になんらかの興味があるんだろうか。
(思い出とか、そういうのをあまり引きずるヤツじゃないかと思ったんだがな……意外だ)
そう考えて居て、ふと思い出す。
「そう言えば、現郎」
「んー」
「オレは、昔ちょっと自分に霊感があるんじゃないかと思う事があったんだ」
「へぇ」
「何でかと言うとな、転寝している時に何かの感触を覚えたり、寝ていると誰かが其処に居るかみたいな気配を察するからで、」
「………………」
現郎は黙秘する。
「人の幼年期に潜り込んで何をしてるか」
さて何の事やら、といった具合に寝転ぶ現郎。
今度そんな真似をしたら、その場で捕まえてやろうと思うけど、多分それは無駄な事。
だって、全部、『昔』の事なんだから。
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