ドーリムメンタル・ジャーニー





 現郎は決して引きこもりではない。
 寝るのが単に好きな為、結果として出不精になるだけだ(と、いうことはやっぱり引きこもりかもしれないな)
 しかしその傍ら、紀行文やらそういう番組は結構好きだったりする。タレント等がはしゃいでいるのは好きではない。あくまで淡々とその地の特徴等を挙げるようなものが。「世界の車窓から」は起きていた時にはほぼ見ているし、見逃した時は背中ががっかりしている。
 そして今も、紀行文を読んでいる最中。
 読み終わったみたいだ。
「面白かったか?」
 オレが訊くとまぁな、と答えた。現郎語録ではこの場合「まぁな」は「とても面白かった」と変換される。
「何処のだ?」
「フランス。南フランスが中心だったな」
 その本は写真付きで、赤いレンガと白い漆喰の壁で出来た家屋が良かったという。
「で?」
「?」
「自分も行ってみたいなーとかは思わんのか?」
「えー、面倒臭ぇ」
「……貴様、オレがそこら辺の女だったら、その内刺されても文句言えんぞ」
「そうかー?」
 だからもう少しオレに感謝しろ、とか言いそうになったが、感謝する現郎というのがとても不気味だったので、言うのは止めた。




 現郎の行動範囲はとても狭いと思う。自動車やバイクの免許は持っているものの、率先して乗る気は全く無いようだ。
 それでも、激の影響あってか、時々旅行に行く事もあるが(それもオレが行こうと誘って)。
 滅多に外には出なくて、狭い世界の中、ソファで寝転がっているばかりの現郎。
 他人の眼から見たら、寂しいヤツと思われるだろうか。
 けど。
「爆、散歩に行こうぜ」
 のそっと起き上がって唐突に言う。
 その日はとても天気が良くて絶好の散歩日和……という事は全く無くて、むしろ曇っていた。曇天だ。
 でも、そんな事は関係無くて、雨の日でも出かけたりする。その内台風の日にも行くんじゃないだろうか、と思うが、とりあえず今までにそんな事は無い。
 オレは、現郎と散歩に出かけるのはあまり嫌いではない。
 正直、好きだ。
 ついて行く時は、何処へ行くんだという事は訊かない。その方が、もっと面白くなるから。
 今日の行き先は、何処かの小路。
「現郎、此処は何処なんだ」
「いつもの公園の裏」
 そう説明されて少し驚く。こんな道があったなんて。
 これだから面白い。
 普通、見逃してしまいそうな道を、現郎は見つけ、そこを通る。
 小さい世界だが、それを余すところ無く熟知している。いや、多分それの途中だ。
 そうして全部を把握できた所で、ようやく足を先に延ばす。
 それが現郎なりの、この世界の歩き方で愛し方。
 その世界にオレが入れた事を、少し誇りに思っていけど、これはオレの当分の秘密だ。




<END>





いや、久しぶりのPHですね。でもこの話好きだわ、やっぱ。
だらけているでもなく、騒がしいでもなく。

ワタシだけかもしれませんが、夢の中の光景というか景色って、何処か不思議なんですよね。
突拍子の無い建物がある訳でもないのに、何かが違う。普通に生活しているだけなのに、何処かが違う。
その雰囲気を、これで書きたいんだと思います。
だから、この作品の現郎が一番自分に近いかなって。
あんな薄腹黒いのじゃなくてサ。