はふぅ、とカイは他人から見て非常に鬱陶しい溜息をついた。
理由は勿論、爆の事だ。
爆に、会いたい。
しかし、行こうには自分にはその力量が全然足りないって事は、他ならぬ自分が一番良く知っているので、カイとしてはこうして会いに来てくれるのを待つしかない。
いつ来るんだろう。
こうなると、いっそ神にでも頼ってみたい。
ちょっと、占ってみようか……
「来る……」
ぶちっ
「来ない……」
ぶちっ
「来る………来ない………」
ぶちぶちっつ
「………------て、何をやってんだテメーはぁぁぁぁぁあッッ!!」
転寝していて眼がさめたハヤテは驚いた。だって隣のカイが自分の羽をぶちりぶちりと引き抜いているのだから。
「あぁ、動かないで下さいハヤテ殿、今大事な事決めているんですから!」
「バッキャロー!!決めるなら花びらでも毟ってろ!!!」
「だって、こんな健気に生えている花を毟ったら可哀想じゃないですか!」
「羽毟られた俺は可哀想じゃねぇのか-----!!」
「いいじゃないですか、減るものじゃないですし」
「明らかに減ってるだろ-----!!もっとよく見れよ足元に散ってる俺の羽!!」
「でも、また生えるんでしょ?」
「そんな訳………!!ん?でも生えるのか?まぁ、体と一緒に成長はしてるみたいだけど……いやしかし……」
「来る、来ない、来る、」
ぶちり、ぶちり、ぶちり、
「人の考えてる隙に続きすんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あーやっべー、危うく全部毟られる所だった!(たぶん、カイはやっただろう)。
こんな事なら、ロココ調な服を着せられるのから逃れて此処に来るんじゃなかった。とは言え、あのまま雹と一緒に居た方が、とは思わないが。絶対の絶対に思わないが。
ハヤテに距離を取られ、対象が無くなったカイは、また、はぁ、と溜息をした。ハヤテはそれを非常に鬱陶しいと思った。
「俺はこれっぽっちも関わりたくないんだけど、たぶん俺が訊くまでずっとこの調子だろうから訊くけど。
一体何を占ってんだ?人の体の一部を損傷しといてろくでもない事だったら本気でバトルぞ」
「ろくでもない事とはなんですか。爆殿が、今度はいつ会いに来てくれるかなって占ってたんですよ」
聞いて、しまった、とハヤテは思った。
ここまでろくでもないと、闘争心も薄れてしまうのか……
「ハヤテ殿、今何かとても私に対して失礼な事考えてません?」
「いや、至って一般的な事だ。てか、そんな事なら占ってないで(それも俺の羽を毟りつつ)さっさと会いに行けばいいじゃねーか」
ハヤテがそう言うと、カイは力なく微笑んで。
「ふふ、ハヤテ殿はいいですね、簡単な生き方で……」
「なぁ、お前の方がよほど失礼じゃね?」
実際に口に出して言ってしまうあたり。
「それが出来たら、ハヤテ殿の羽なんか毟りませんよ(これを聞いて、ハヤテはカイが自分の羽を毟ったのは無意識での行動ではない事を知り、殺意が芽生えた)。今の私が爆殿の側に行ったって……」
「まぁ、良くて役立たず。最悪足手まとい、って所だよな」
「ははは、よく解ってるじゃないですか、ハヤテ殿」
「なぁ、カイ、棍棒は置こうぜ。今は必要ねぇじゃねぇか」
ハヤテのいう事を聞いた訳ではないが(ないのかよ)、カイは自分の得物を傍らに置き、また溜息をついた。
「一緒に行動できるくらいには、それなりの力も技も覚えました。……でも、私は、爆殿と居た事で、色んなものを貰いました。だから、その分爆殿にもあげたいんです。私と居る事で、何かを」
「うーん、それは多分無理じゃね?」
「今日はいい天気ですよね、ハヤテ殿」
「だから天候と棍棒握り締めるのは関係ないだろ、って」
ハヤテはカイから距離を取る。いつでも逃げれるよーに。
「……まぁ、こんな事を思う自体、おこがましいんですけどね」
「うんうん、本当だよな」
「……貴方って人は、本当に学習しませんね」
と、言うか、こういう人だからデッド殿と付き合えられるんだろうか、とカイは世界の真理を1つ見つけたような気がした。
「まぁ、とりあえず」
自分が酷評されるとは知らず、ハヤテは言う。
「何が出来るか出来ないかとして、爆には会いたいんだな?」
「……そりゃ、もう」
会いたくて会いたくて。そう願わない日は無いくらい。
「じゃぁ会いに行きゃいいじゃん」
どうしよう、この人本気でトリ頭だ……とカイは途方に暮れている。
でも。
「今こうして悩んでいても、爆に何も与えられてねーんだから、だったらどうせなら会いに行きゃいいじゃん」
「……………」
以前訪れた時に教えてもらった計画通りに爆が行動してるなら、今頃は此処、エイトンの奥地に居る筈だ。
海からの潮風のせいか、植物はそんなに密集して生えては居ない。かすかに潮の香りすらする。
……別に。ハヤテ殿に言われたから、って訳じゃないんだけど。そうじゃないんだけど。
と、言うかハヤテが悪い。
思わないようにしてた事だったのに、ああしてあっさり行ってくれたものだから。
会いたいって気持ち、抑えられなくなっちゃったじゃないですか
爆殿、爆殿、爆殿……
早足で歩く足音より、尚早くその名前を連呼する。
大切で大事で、何より護りたくて、役に立ちたくて。
それ以上に好きになってしまった、相手の名前、を。
棍棒にぶら下げたカンテラと、自分の五感で。
果たして、カイは爆に会えた。
「……………」
思いがけない所で思いがけないヤツに会った、というような爆の表情だ。
其処が今日の止まる場所なのか、集めた枯れ枝が傍らに置かれてある。
「………。
何しに来た?」
いつも通りに話すのは、本当にそう思っているからなのか、何かを隠してなのか。
「え、いや、あの、その………」
聞かれて、カイは言葉を詰らす。爆にそう言われるまで、それについて何も考えてなかったのだ。
いや、何をしに来たのか、目的は解らないけど、理由ははっきりしている。
「……ば、爆殿に会いたかったから……です」
「…………」
「……それと、」
カイのセリフは終わったと思っていたのか、爆の目が少し見開く。
「爆殿が、……私が側に居るのが、少しでも嬉しいとか、そういう風に思ってくれてるのなら、」
「……どうするつもりだ?」
爆が先を促す。
「そうなのなら、その。
このまま、爆殿について行こうか、と、思って、います」
「…………」
こんな事、言うつもりは無かった。でも、爆の姿を見たら、自分を見た時の、爆の顔を見たら。
……結局、この世界すら救ってみせた目の前の彼に、自分が何か与えられるとすれば。
それはもう、この、想いや気持ちだけだろうな、と、思う。
「あ、一応足手まといにはならない程度には、成長したと思……」
「……いつまで突っ立ってるつもりだ?」
爆のセリフに、カイが止まる。
「さっさと、座れ」
「………え、」
それって……やっぱり。
そういう?
「聴こえなかったか?」
爆がそう言うと、カイは首が千切れんばかりに首を振ってみせた。
そして、急いで爆の元へ駆け寄る。
隣に落ち着いたカイに訪れたものは、「おまえはいつも気づくのが遅い」という爆のセリフだった。
<END>
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