今日。うっかり食べてはいけない茸を食べてしまいました。
しかもそのうっかりしてた理由ってのが爆を思い浮かべていたからだ、っていうので救いようが無い。おまけに激にそれが解られたようなので「まぁ、長い人生1回くらい中毒になってみれば?」とか言われてしまった。そして実に呆気なく今が旬の魚があるからとエイトンまで旅立ってしまった。呆気なく。
まぁ、そう言ってくれるのだから、命に危険は無いのだろう。……多分。
そんな訳で今、カイは幻覚症状に悩まされている。
幻覚症状というか、視界の色彩がおかしい。全部赤色に染まっている……かと思えば青、なんて思う間もなく黄色、緑。おまけに各所各所が水にふやけたようにぶよぶよしている。治まった吐き気がまたぶり返しそうだ。
バンダナで目を隠し、今日は完全休養として横になる。
そうしていて、どれくらい経っただろうか。
視界が消えた分、聴力が増すのか、かすかな物音を耳がキャッチした。
気のせいだろうか?でも……
なんだか放っておけない気がして、のっそり立ち上がる。間取りの記憶を辿り、壁にぶつかる事なく歩いていく。
「誰か居るんですか?」
ありきたりな言葉を投げてみる。当然のように、返事は無い。
気のせいだろうか。なんて思って戻ろうかとした。
のだが。
ふと。
今のはもしや、爆だったのではなかろうか、という考えが浮かんでしまい。
そうなると、もういてもたってもいられない。
爆殿、と自分でも言ったのかすらも解らないくらい、慌てて駆け出す。
目隠しが邪魔だ、としていた理由も忘れ剥ぎ取る。
途端、幻覚に襲われる。
「う、ぁ………」
まともに当てられて、堪らず膝を着く。こういった方面でのダメージには、あまり耐性がない。
(吐きそう……!!)
口に手を当てて、嘔吐感と戦っていると。
「何をやっとるんだ、お前は」
焦がれていた声が、した。
見上げるのを躊躇った。
中毒症状で、爆まで可笑しく見えたらどうしようかと。おまけにそれで吐いてしまったら、いよいよ面目ない。
でも、姿を確認したいという欲求に勝てるわけも無く。
手を両手で覆ったまま、そろそろと見上げる。
と。
「……………」
「どうした、呆けた顔して」
「爆殿、」
「ん?」
虚ろの眼で爆の背後を指差し。
「羽、羽生えてます。ハヤテ殿みたい」
「……………」
激に。
カイがヤバい茸食ってラリってて面白いから、ちょっと見に来てみろよ。
別に面白がる為に来たのではないんだけども。
馬鹿な事して、と、渇を入れようかと思っただけで。
「あ、羽、抜けてる」
それを取ろうとしているカイの手を取り、立ち上がらせる。
「解ったから、ベットに戻れ」
「でも、」
「いいから」
ありもしない自分の翼を心配するカイが、可笑しいような、くすぐったいような。
「爆殿、」
「ほら、横になれ」
目を綴じさせる為に掲げた手が、ふと額に触れてその熱さに顔を顰める。
(命に別状は無いとか言っておったが……本当だろうな)
激の能天気な表情を思い出す。
「カイ、苦しいか?」
浄華で毒は消せる筈だ、と思いながら問いかけてみる。
「はぁ、でも」
気の抜けた声で、ふにゃりと笑って。
「爆殿に会えましたから、平気です」
「…………」
何が平気なんだ。
照れ隠しか、びしゃりと乱暴にタオルを乗せた。
次の日。
「……………」
(あ〜、頭がぼぉっとする……)
何とか自力で症状を克服したカイ。見える視界は正常だ。
(何だか……爆殿が来たような気がしたけど、気のせいかなぁ)
おまけに羽が生えてたような気がするし。天使みたいに。
それを思い出してえへへ、とだらしなく笑う。
そう言えば、結局昨日は着替えをしなかったな、と服を替え様としたら。
「あれ、違う……?」
全部脱ぎ終わってから気づいたというのも何だか間抜けだが。
と、その時。
「帰ったぞー!ってお前、何脱いでんだよ」
「おかえりさない、師匠。中毒で苦しんでいる弟子ほっといて、出かけたエイトンの魚は美味しかったですか」
「うん、美味かった」
あっさり言う。
そして、何かに気づいたみたいに。
「お前、首の所痒く無ぇ?」
「? いえ、別に?」
「…………」
そう答えると、激はすごく面白そうな顔をして。
「あぁ、そう。ふーん」
「……何ですか、その笑顔」
「べつにぃー」
なんだか腑に落ちないけど、とりあえず激はほっとこう。
とりあえずは爆だ。本当に来たのかどうか、次会った時に訊こう。
そうしたカイが、顔を真っ赤にした爆に吹っ飛ばされる訳だが、それはまた別の話。
<おわり>
|