いい子にしていたら、神様がいいものをくれるのよ
下らない、と思う。子供の素行をきちんと躾けたいのなら、そんな抽象的でなく、はっきり因果を説明すればいいのに。
どこか馬鹿にされてるみたいで、信じられなかった。
そもそもいい子とは何か。訪ねて見たら、重い荷物に苦労している人が居たら手伝ってあげるとか、道にごみは捨てないだとか。
当然の事じゃないか、と思った。
それでいいものをくれるのなら、神様とやらはとても気前が良いのだろう。
タラノミ、コゴミ、ネマガリダケ。等。
「この付近でも結構山菜が生えているものだな」
今しがた摘んだ若芽をじっと見て、ふと爆が感想をもらした。
「生えるポイントがあるんですよ。そこを外したら、殆ど見つけられないんです」
産まれてから今まで、自分の村よりこの山での生活の長いカイは、当然その場所を知っていた。
「あ、そうだ。爆殿。山菜を取る時は……」
「全部根こそぎ取らない、だろ?」
「はい」
「昔、どこぞの弟子がそれを守らんで全部採って行ったら、その帰り派手にすっころんで籠の中、全部谷底に落ちたらしいな」
爆のセリフに、カイがぴしり、と凍る。
「ば、爆殿………?」
「情報源なぞ言わんでも解るだろう」
カイは無言だが、心の中で思いっきり「師匠の馬鹿ぁぁぁ〜〜〜〜!!」と頭を抱えてどんもり打ってるだろう。
そんなカイを余所に、爆は山菜を溜めた籠を持ち上げ。
「そろそろ帰るぞ。2人分にはこれくらいあれば充分だろう」
「……そうですね」
どこか憔悴したカイが、答えた。
2人とも勿論瞬間移動取得済みだが、足で地道に歩いて帰路を辿る。
途中、やや深い崖の横を通る。
「ここか。貴様が山菜落っことした場所は」
「もう、勘弁して下さい〜〜」
散々激に酒のつまみにされた覚えがあるのか、哀愁すら漂わせるカイ。
いい加減可哀想だから勘弁してやろうか、と爆が思っていると、カイが言い出す。
「あの時はさすがに神様の存在を信じましたね。母親によく言われたものです。誰も見ていないと悪い事をしても、神様がちゃんと見てるんだって」
「大人はすぐに神様とかおばけとか持ち出すな」
「その方が、子供がすぐに言う事をきくからでしょうね」
自分を思い出したのか、苦笑みたいな表情を浮かべる。
カイは、でも、と言葉を続けて。
「時々、神様は本当に居るんじゃないか、と思う時もあるんですよね。今でも」
「……そうか?」
「えぇ」
「どんな時だ?」
「え。」
とカイは一瞬言葉に詰って。
「え、えーと、ほら、四葉のクローバー見つけた時とか、卵が双子だった時とか、」
「何でそんなに挙動不審気味に言うんだ」
「そ、そうですか?」
あはは、と自棄みたいに笑う。頬が赤いのは運動したからだろうか。
「率直に言うと、オレはそんなもんは信じんぞ。全部の結果は自分のした事に責任がある」
何とも爆らしい発言である。
「……仮に居るとしたら」
少しの間を空けて、言った。
「そいつは、とても気前がいいんだろうな」
「……はい?」
話の前後からして「そいつ」とは多分神様を指すのだろうけど。
気前がいいとは?
「気にするな。特に意味は無い」
「はぁ………」
気にはなるが、カイに爆を追求するなんて事が出来る訳が無かった。
歩調を速めたような爆の後ろを、カイはついて行った。
貴方に出会えた事
こればっかりは、自分の努力ではどうにもならない
<END>
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