これでも自分の性格は把握しているつもりだ。
頑固で。偏屈で。
人に絶対合わせようとはしないし、一度出した答えは頑として変えたりしない。
一言で言えば、そう、付き合いにくい人物。
なのだが。
「爆殿、一緒に帰りませんか?」
学年すら違う彼はひょっこり現れてはそう誘う。
……何で、こんなに懐かれたんだろうな。眉間を指で押さえて考えるが、思い当たる節がない。
目の前のカイに限った事ではなくて。
最近、自分は生活態度も性格も改めては居ないというのに、妙に人が寄る。
何でだろうな、と付き合いが一番長いピンクにふと漏らすと、
「そういう所じゃない?」
と要領のつかめない返事をされた。
まぁ、それはここでの問題ではなくて。
「……貴様も物好きだな。10回断られた相手に11回目で頷いてくれると思ったか?」
「あ、やっぱりだめですか」
参ったな、と苦笑して後ろ頭を掻く。何とも人の良さそうな、というかお人よしな仕草だ。
でも、この少年が底に熱いものを持っていて、普段自制しているという事を、爆は知っている。……と、言うかカイのその気性の溜めに自分達は出会ったものだ。
自分に挑んできて、その後翻したような態度をした者はここ数年多い。しかしカイ程態度を改めは者は居ない。
とても謙虚に、あくまで丁寧に。年下の、自分に、だ。
こうしていると、あの時の事は白昼夢だったんじゃないか、と思う事すらある。
しかし、それが現実なのはカイがこうして会いに来る事が如実に語っていた。
「じゃあ、オレは帰るぞ」
「はい、お気をつけて」
「……道中の心配をされる程、オレは子供じゃない」
「あ、すいません」
へこ、と謝る姿を見て、爆は帰路に着く。
やっぱりあいつは苦手だ。
断ると、何だか自分が悪者みたいに思えてくる。
昨日やって来たカイは今日も来た。だから、明日も来るだろうと思っていたのだが。
「…………」
「来ないわね」
言ったのは、ピンクだ。
「風邪じゃないのか?」
「へぇ、諦めたっていう発想は出ないんだ?」
「……そういう人を嵌めるような物言いは止めろ」
「折角だから、第三者の客観的な事実を教えてあげようかと思ったのよ」
ふん、と鼻を鳴らす。興味は無い、というように。
教科書をかばんに詰める。
そして、昇降口を潜る。帰る。
いつもと同じなのに、何かが違うような気がする。いや、何かではなくて確実にカイが居ない事が違うのだが。
(でも、それより前はあいつは居なかったんだぞ)
だから、これが当然。
背中が寂しいような気がするのは、気のせい。
そして3日目。
「…………」
日に日に眉間の皺を溜め込んでいた爆は、この日決意する。
「あ、行くのー?」
昇降口とは反対の方向へ行く爆に、言う。
「オレは無関係じゃないんだ」
「?」
「あいつが何か踏ん切りを着けたら、それを教えて貰う義務がある!」
そして足並み荒く歩いていった。
「……何、支離滅裂な事言ってんだか」
まぁ、3日ぶりに爆が爆らしくなったから、いいとしよう。
後からぽっと出のくせに、ちゃっかり居座ったカイについては、後日回復してから落とし前つけてもらうとして。
カイの学年とクラスは知っている。
他学年の校舎には、何となく入りづらいものがあるが、爆はそれを物ともしない。ただの建物だ。自分の校舎に入るのに、何の違いがあるだろうか、と。
でも、今日は少し緊張していた、と、思う。
カイのクラスの後ろ戸で、適当なヤツを捕まえて訪ねる。
「あぁ、カイ?風邪。インフルエンザだって」
どこか軽い感じのする黒髪で長髪のその相手は、そう言った。
「……そうか」
やっぱり自分の意見が正しかったんじゃないか、と誰に言うでもないのに、責めてくなった。
「あいつに何か用でもあったのか?」
どうやら、爆をクラブや委員の後輩だと勘違いしているらしい。
「え、いや………」
「ケータイの番号とか知らねーの?教えてやろうか?」
「そういう物は、本人の断りなく教えたりするものではないと思う」
ぴしゃり、と爆が言うと、相手は少し目を丸くしたが、やがて可笑しそうに腹を抱えた。
「……何だ」
「お前、面白いなぁー」
当然の事を言って、何で面白いと思われるんだろうか。
カイも解らんがこいつも解らん。と思っていると。
「じゃ、当人同士で話つけろや」
「え」
自分のを取り出し、ボタンを押して相手を呼び出す。
「おい、」
「あー、大丈夫か?何か後輩がお前に用だって」
人の話を聞け、と突っ込む間もなく、ほら、と電話を渡される。
渡した後、さりげなく距離を置いてくれた。
「……もしもし」
何を言えばいいのかよく解らなくて、出たのはそんな言葉で。
『えーと、誰ですか?』
そう言えば誰からだと名前を出した訳じゃない。このままじゃ不審人物だ。
爆が名乗ろうとした前に。
『……もしかして、爆殿ですか?』
「…………、」
『あ、違いました?すいませ、』
「……いや、オレだ」
『え。………えぇぇぇぇぇぇ!?やっぱり爆ど……ッ!!なっ、どうして!?!』
自分だと予想つけたくせに、それが正しいと解ると何故いきりなり動揺するのか。
「どうして、ってあれだけ頻繁に顔を出したヤツがいきなり来なくなったら、気になるのが人情というものだろうが」
『……すいません』
「謝らんでいい」
『あ、すいま、……あ』
慌てて口を押さえるカイが眼に浮かぶ。自然と、口に笑みが浮かんだ。
「風邪は酷いのか」
『今は熱だけですね。あともう3日すれば、学校に行けます』
「……そうか」
あと3日すれば、またカイが自分の所に来て一緒に帰りましょうって。
”いつも”の、日常に戻る。
「……楽しそうだな、お前」
「え、そうですか?」
そーだよ、という返事も虚しい。
「いいよな。一緒に帰ってくれる相手が居るってのは」
「人を羨むより、実行に移した方がいいんじゃないですか?」
「…………」
カイに悪気は無い……と、思いたい。
「俺だって色々してるんだよ!でもなぁ、連続5回も断られたんじゃ……」
はぁ、と肩を落とすハヤテ。帰り支度を終えたカイは、そのハヤテに言葉を掛ける。
「5回くらいでめげてちゃだめですよ、ハヤテ殿」
11回断られた後、12回目で叶う事もあるのだから。
<END>
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