爆の第一印象はとんでもなく尊大で、不躾でゴーイングマイウェイな人物にしか取れないが、関われば関わるほど、それと真逆のものも持っているのだなと思わせるときもある。まぁ、爆に限った事ではないが。
いきなり何を言うかと思われただろうが、つまりはピンクは、ちょっと天然で無防備な所のある爆を、カイの魔の手から守るのに一生懸命なんだよって言う事だ。
「ですから!そんな事しませんって!!」
「はいはい、アタシは今法律を勉強してるから邪魔しないで」
勿論ピンクがそんな勉強してるのは、いざって時に牢屋にぶち込めるようにだ。誰をかは言わないでも解って貰えるだろう。
「あのですね………」
カイは、額を押さえながら言う。
「確かに、私は爆殿に対して特別な感情を持ってますが、そんな相手の心境を無視した真似は絶対しません。そんなの、ただの支配欲じゃないですが」
「ふーん、じゃ、今からのアタシの質問に即答出来たら、その発言信じてあげるわ」
「えぇ、そのように」
「そんじゃあね。
他に誰も居ない室内で爆が酔っていたりのぼせていたりでいい感じに身体上気させて肢体投げ出してベットの上で横になってたらあんたどーする?」
「……………えっ?」
「やっぱり。即答できないって事はやましい事を隠すいい訳を考えているのね!!」
ピンクは探偵が真犯人を指すようにカイにズビ!と人差し指を向けた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!普通、そんな事質問されたら誰でも固まりますって!!」
「そう?じゃ、ゆっくりでもいいわ。
はい、眼を綴じてー、想像してー」
別にそうしろとは言われてないが、カイはピンクの言う通りに眼を綴じて想像してみた。他に誰も居ない室内で爆が酔っていたりのぼせていたりでいい感じに身体上気させて肢体投げ出してベットの上で横になっていたら。
「………………」
にやり。
「何笑ってんのよ!」
「あー、いえ!今のは唐突に頬がかゆくなっただけですからー!!」
「んな訳あるかー!!
「何だ、2人とも早いな」
ガチャと爆が登場するなり、今にもカイに殴りかからんとしていたピンクは、何故か瞬時に椅子に座ってテーブルの上で指を組み、その上に顎を乗せて優雅なポーズをとっていた。何故か。
「そうでもないわよ。今回はあんたが茶菓子担当なんだから」
「何だか賑やかだったが、何を話していたんだ?」
「糠床に釘を入れると何で野菜の色が鮮やかになるかって話よね、カイ?」
「はい。そうです。絶対に、そうです」
ピンクの笑顔を見て、カイは感じた。此処で頷かないと後が危ない(主に自分の命が)。
「で、お茶菓子なーに?」
ピンクが無邪気に尋ねる。無邪気というか食い気たっぷりなんだが。
「饅頭だ。桃のが餡子で、兎のがカスタード」
竹を編みこんで出来た箱を開け、1人一個ずつだぞ、と言う。
「あ、」
「どうしたの、カイ。あげないわよ」
「いえ、そうじゃなくて……爆殿、これ買ったのって」
「あぁ、貴様が言ってた店だ。其処にしてみた」
「えー、2人だけ先に食べてたの?」
と、ピンクが不満そうに言うが。
「いや、カイが美味いと褒めていたからな」
それを聞いただけで、自分も食べるのはこれが初めて。
ふぅん、と頷いておいて、横目でカイを窺う。
カイは、何だか照れているような戸惑ったような顔をしている。何気なく言っただけの事を覚えていてくれて、その上参考にしてくれたのがとても嬉しいのだ。
手を頭にやったり首の後ろにやったり。そんな風にうろたえないで、ここで一発気の効いたセリフでも言えばいいのに、とか矛盾したような事でピンクは不機嫌になる。
ピンクは爆の事がとても大事で、何があっても傷ついて欲しくはない。その役目を果たすのに、カイはとても相応しいとは思えないけど。
爆の隣にカイが居なかったら。
それに違和感を覚えて仕様が無いのだろうな、とも思っている。
(犬も3日飼えば、情が移るって言うしねー)
長い間共に旅をした誼も有るし、しかし何より一番は、横にカイが居る時の爆の雰囲気のせいだ。
認めるのは悔しいが、和んでいるのが解る。爆がゆっくり眠れるのは、きっとカイの横だけ。
(ま。足りない所は足せばいいしね。幸い、鍛え甲斐のあるヤツだし?)
そう、にや、と笑ったピンクの表情はスパルタな祖母を彷彿させる。カイは原因不明の寒気に辺りをキョロキョロと見渡している。
「さ、お茶を入れようかしら。饅頭だから、香りがきついのは避けた方がいいわよね」
「そうだな」
そうしてピンクはお茶を淹れる為に席を立つ。淹れている間、カイと爆は特に会話もせずに待っている。別に2人だけで話盛り上げてても、拗ねる程子供じゃないわよ、と言いたいのだが、言わない。
一緒に、と考えてくれている事が嬉しいし、会話なんかしなくてもただ横に相手が居るだけでいいという2人の様子がとても穏やかだからだ。
それを見守っていたくて、ついついお茶を淹れるのがゆっくりになってしまうピンクであった。
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