家のソファで爆が寝ている。
カイは、それをじっと見ている。
「……………。
頂きます」
「頂くな」
一体どれが冗談なのか(多分全部本気だろうけど)、手を合わせてお辞儀するカイの後頭部をどがん、と蹴り飛ばすピンク。
大体此処は爆の家なのだから、ソファで眠ろうがそれがどうだと言うのだ。
「折角爆が寝ているってのに、下らない邪気飛ばして起こすようなまねすんじゃないわよ!」
「失礼な……邪気なんて飛ばしてませんし、爆殿も起きてないじゃないですか」
なんてカイが言うか、もし邪気を探知するセンサーがったら、カイにそれを向ければメーターの針は余裕で振り切ると思う。
まぁ、爆が起きずに居るのはカイが言う通りなのだが。
「………。これ、クロロホルムとか嗅がせてない?」
「……しませんよ。そんな非道な事」
人の寝込みを襲うのは真っ当な事なのだろうか、とピンクは疑問に思う。
「全く」
と、ピンクは爆に視線を移し。
「人を呼び出しといて、寝こけているなんてさすがいい度胸よね」
「あ、ピンク殿」
うりゃ、とピンクは無防備に寝ている爆の鼻を無遠慮に摘む。しかし爆はまだ起きず、むずかる赤ん坊のようにそれから顔を背けただけだった。
「ちょっと!そんな事をしたらよっぽど起きちゃうじゃないですか!あぁでも今の反応可愛かった………」
「……最近、廃棄処理ににも金が掛かる時代だけど、人はまだよねぇ」
ピンクが剣呑な視線をカイに向けた時だった。
ピンクの持っている通信機が音を立てる。何事かと思えば発信源は彼女の祖母で。
「うぇ!今から戻って来い!?」
何もこんな時でなくても、と頭を抱えるピンク。
「シルバ殿からですか?相変わらずスパルタですねー」
カイはぽやぽやと周囲に花を咲かせていたりする。そりゃそうだ、もうすぐ爆と2人きり。
「……何か変な事したら、ただじゃすまさないからね」
最後にひと睨みしてから、ピンクは消えた。
えぇ、変な事はしませんよ、とカイは居なくなったピンクに心の中だけで呟く。
変な事はしない。
でも、好きな人へする事はするつもりだ。
爆の寝顔はあどけない。どこか達観して老成しているが、その分違う箇所が実年齢より幼いのではないだろうか。最も、あの夢へ対する頑固なまでの真摯な姿勢も、角度を変えて見れば幼さ故と捉える事も出来る。
すうすうと肘掛の部分に頭の天辺をくっ付けるように、ソファの中上手い具合に縮こまって寝ている爆。器用な姿勢で、何だかとても気持ち良さそうだ。
(爆殿、可愛いなぁ〜〜)
面と言えば殴られそうだが、それでも可愛いのだから仕方がない。
大きな眼は今は綴じられていて、睫が綺麗に並んでいる。それが見取れるまでの距離にカイは近づいていた。
そっと頬を撫でれば柔らかい。
優しく顔の角度を変えて、あとは数センチの距離を動くだけで、唇が触れてしまう。
「……………」
(えーっと………)
いつもなら、ここまですれば爆は目覚める筈なのだが。
「……爆殿ー?」
本当にしちゃいますよ、とかなり無責任な事を言うが、爆はそれでも眠りの中。
触れている掌も気にならないみたいに。自分の一部のように。
ただ昏々と寝ている。
「……………」
カイはゆっくり息を吐き出した。
だめだ。無抵抗な人間は、襲えない。一見矛盾しているような、大宇宙の摂理だ。
(まさか、その辺解ってての上じゃないでしょうね)
だとしたら恐ろしいものがあるけども。
仕様が無い。今日は、仲間として接しよう。
見てみれば、爆はスペース内以上に身体を小さくしている。もしや、寒いのではなかろうか。
とは言え、毛布が何処にあるかよく解らないし、勝手に人の家を漁るのは気が引ける。
幸い、珍しく上着でも着てきたから、これでも掛けていようか。
ばさり、と脱いで掛けようとする。
すると、そこで爆は目を覚ました。
「……………」
「……………」
ふと目覚めれば、目の前に上着を脱いで自分に至近距離に迫っているカイが居る。
「…………-------!!!!」
爆の体温が上昇し切った頃、もれなくカイに聖霊が投げつけられた。
「なっ、なっ、なっ、何をしてるんだ貴様は!」
「違います爆殿!今日は違うんです!」
「今日”は”?」
「あっ、いえいえいえ、それは言葉のあやと言うか!」
「カイ!あんたやっぱり!」
「うわー!帰って早速私に不利益な発言しないで下さーい!!」
今日はみんなでお茶会する為に集まったのだが、それが果たされるのはもう少し先の事。
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