隠喩の挿話





 おうおうお前ら元気だなぁ。
 遊び転がるのもいいけど、ちょっとたまにゃ物語でも聞いてごらんよ。




 あー、うんと、そうだなぁ。やっぱりここは昔々で始めるのがセオリーってやつかなぁ。
 あ、いやいやこっちの話だ。
 えーと、とりあえず昔々、竜神様がおりましたとさ。
 竜神様と言ってもまだまだ下っ端で、それなりの事は出来てもまぁ、やっぱりそれなりな訳だ。
 んで、そんなそれなりの竜神様もとある人間に恋した訳だ。
 でもその相手の周りにゃいっつも誰かが居て、とても入り込む隙なんてあったもんじゃなかったんだ。
 そしたらその竜神様、とんだ暴挙に出やがってな、何したかったっつーと、そいつの住む村にそいつを人身御供として捧げなければ災いを振り起こすってなもんでよ。
 そりゃ村人達だって抵抗するさな。相手は村一番の、いや世界で一番心が綺麗なヤツだもの。竜神様が欲しがるのは最もだけど、はいそうですかってあげられる訳もねぇ。
 でも、結局はそいつは生贄にされたんだ。他ならぬ本人の意思でな。
 うん?どうしたお嬢ちゃん。あぁ、可哀想だな。でも、話はまだ続くんだよ。
 ある日、村人の1人がこっそり竜神様の棲家まで行って、中を伺って来たんだ。
 そいつは目を疑ったね、何せそこには生贄にされた筈の人間が、とても幸せそうに微笑んで暮らしていたんだから。
 その内、こんな噂が流れてな。
 先に好きになったのは、実は人間の方で、竜神様は言い出せないそいつに代わってわざと泥被るような真似したんじゃねーかって。
 どっちが本当かは訊けば解るだろうな。でも、どっちが先に好きになったのかなんて、もうそれは2人でも解らないのさ。
 は?今度は何だよ。
 竜神は1人2人て数えないんじゃないのかって、その年齢で可愛くないツッコミをするんじゃありません。
 いや、話はこれでおしまいなんだ。
 まぁー付け足すとしたら、その竜神様にゃ術を教える師匠がいたんだよ。
 師匠はその恋心をいち早く知って、あれやこれやからかって遊んでたけど、いい加減ずっと2人が幸せそうなもんだから馬鹿馬鹿しくなってあちらこちらを放浪してるそうな。
 別に怒ってねぇよ。苛立ってもねぇし。
 竜神様?さぁ、俺は実物見た事ねぇから、いるかどうかは知らねぇな。
 でも、とんでもない力技で、意中の人を見事ものした薄腹黒なら居るんじゃねぇの?
 例えば、どっかの山の天辺とかにな。




<おしまい>





こういう第三者からの話って好きなんですがねー。読むのも書くもの。
さて、語り手は誰で、誰と誰を暗示したのでしょう、ってもうわかってるだろうからあえては書かないよ。
見に行った村人は多分ハヤテで「曲者が!」とか言われて何かにざっくり刺さったと思う(死んでる?)

まぁ、元ネタは草原殿の某絵から。
あれは何度見ても生贄にしか見えん。多分カイが神谷スマイルだからだと思う。