大抵、とんでもない日というのは、どうって事ない日常から始まる。
「カイ、元気か?」
「はい、爆殿もお変わりなくぅぅぅぅぅううううううう!!!?」
カイが目ン玉飛び出るくらいに驚いたのは他でもない。
爆に、ネコみたいな耳や尻尾が生えていたからだ。
一体これは如何した事なのか!
毎度毎度、ピンクの家で不定期にみんなが集まって、飲んで食べてどんちゃかして、そしていつも通りやっぱり爆が遅れて。
爆がアニマルになってて。
何でだ-------!!
カイは頭を抱えてごろごろしたい気分で一杯だったが、硬直状態でそれどころではなかった。多分、それで良かった。
「ば、ば、ば、爆殿ッ……!」
「どうした」
アニマルな爆はフツーにフライドポテトを食べている。美味しいのか、耳や尻尾がふやふやと動いている。
何だこの光景は。
自分に嬉しすぎる光景は。
「あの、ちょっと、その……!こちらへ!」
「おい?」
カイはとりあえず爆を洗面台、鏡の前へ連れて行き、自分の現状を把握して貰おうと思った。
その後、多分パニックになるだろう爆に「どうするか一緒に考えますから」とか言って上手い事この場を抜け出そう。
「あの……何があっても、大声は出さないで下さい」
「何なんだ?本当に」
かなり不審がりながらも、カイに促されるまま、鏡を覗き込む。
で。
「……ソースか何かでも、ついているのか?」
爆はやっぱり思いっきり平常だった。
「へ?い、いや爆殿!そんなソースだとかミクロな問題より、もっと大きい事があるでしょう!?」
「いや、何も無いが?」
「そん………!!じゃぁ、そのネコの耳と尻尾は、どうしたんですか!?」
「はぁ?」
爆は思いっきり呆けた声を出したが、ややあって涙が零れるくらいに悲愴な表情に変った。
「……前から、コイツ少し正常じゃないかもと思った時があったが……ここまで進んでいただなんて……」
「爆殿ー!哀しむのは止めて下さい!!いやもうホントマジで!」
しかしこれはどうした事なのか。
異常があるのは自分か相手か……しかし、爆にこんな美味しいオプションがついていたら、周りの人たちが例え爆が来てから今までの数分とは言え、見逃す筈が無い。
て、事は、自分に……?
確かに、そりゃ爆にネコな耳と尻尾があったらな、と、思わなかった訳でもない(痛い男だ……)。
かと言って、それが現実になるとは露とも思わなかった筈だ。そこまで理性を捨て切っては居ない。
とは言え、それは表面だけの話で、深層意識の最下層ではやっぱりそうなる事を望んでいたのだろうか……
「どうしたぁー、オイ。吐くか?吐くのか?」
適度にアルコールの入った激がやって来た。そういう彼こそ、吐くのではあるまいか。
「激………」
爆が哀しそうに言う。
「カイが……ついに壊れた。オレにネコの耳や尻尾があると言うんだ……」
「ほう、それはだね、爆」
激が言う。
「さっき俺がカイが飲んでいたジュースにある種の幻覚剤を飲ませたか・ら☆」
「そんなウインク付きの軽いノリで済ませると思ってるんですか------!!」
「……実は……さっきお前が飲んでいたジュースに、入れたんだ………幻覚剤を……」
「別に重々しく言ってくれなんていってません!何が面白くてこんな事したんですか!」
「いや、面白いだろ」
「面白くありません!!」
「あっはっは、面白ぇー」
「笑うなー!!」
師弟喧嘩が勃発し、原因が判明したので爆は「時間を損した」と軽くキレて居間に戻った。
カイ、踏んだり蹴ったりである。
「もう……いい加減、私で遊ぶのは止めて下さいよ」
カイは涙眼である。
「ばーか。昔、弟子入りした時点でお前は一生俺に遊ばれる運命なんだよ」
あの日に遡れたら、カイは幼い自分に「止めろー!」とタックルするだろう。
「にしても、何でこんなふざけた……」
「真面目な物で遊べる訳ねぇだろ。
ま、解毒剤もちゃんとあるから、今でも戻れるぜ?」
ほら、と小瓶を出す激。しかし。
「……いえ、もうちょっとこのままで居たいです」
「お前なら、きっとそう言うと思った」
師匠の熱い信頼に、応える弟子。
そうも取れなくもない、けれど絶対に何かが違う光景であった。
「で。今、お前がそんなに締まりの無い顔をしてるのは、爆にネコの耳や尻尾が生えているように見えているからなんだな?」
「あぁ〜可愛いなぁ………」
微かな声で囁くようなセリフでそう呟くカイに、、ハヤテは「危険人物」というが点滅して見える。
いや。それより。
「……じゃぁ、俺にもお前の目にはアニマルなオプションがついているって事か………?」
青ざめでじりじりと後ずさるハヤテ。
「いや、何かの脳内分泌物で反応するとか言う代物なんで、好きな人にしか症状が出ないそうです」
「うわぁ、ご都合だなぁ」
煩い、チキン野郎。
「ところで、その〜……その、薬って?」
さりげなさを装って、不自然に聞いてきた。
「はい、余分があったので貰って置きました。貸しは今度デッド殿へのアリバイ作りでお願いします」
ハヤテにとっては命の交換に等しい代価である。
とはいえ、ネコな耳や尻尾が生えたデッドを見てみたいのも事実。
結局、薬を貰う事にした。結局は欲望に忠実な単細胞であった。
ごくん、と飲み干し、早速デッドを探す。
「お、いたいた」
「やっぱり、ネコですか?」
カイが聞く。
「いや、ネコじゃねぇな。てか、耳でもねぇ……
んー?ありゃ角か……? で、尻尾は黒くて細くて長くて、何か時計の針みた……い………」
「……………」
「……………」
「…………………………」
ハヤテは、その後数日夢で魘された。
その時、「あ、悪魔……て言うか、魔王………?」とか呟いていたようで、雹に煩いッ!と気絶させられていた。
<END>
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