爆は基本的に占いは信じない。
例えば今日、彼の運勢は12星座のうちダントツにいいらしいのだが。
朝起きて、パンは保存の仕方が悪くてパサパサだったし、お気に入りの紅茶はぎりぎり分量に足らなくて。
庭に出て水遣りをやっていたら電話が鳴って、急いで室内に戻った途端に切れてしまって。
気づいたら3箇所くらい蚊に刺されていて。
景気づけにと図書館に行けば、シリーズものの読みたい巻が貸し出し中で。
隣には美術館があって行こうとすれば、改装工事の臨時の休みだった。
どかん、と一個大きな不幸があるより、こんな風に細々とついてないことが連続する方が余程堪える。
今日は、とても最悪な日だ。
暦が大安で、晴れ空なのがまた腹立たしかった。
まだ太陽も高いうちから、ソファに横になる。
何かそれば、それが全て嫌な結果になりそうで、もうこんな日は必要最低限しか動かない方が賢明だ。そう、決めた。
暫く何もせずに、ただ天井を見ていたらある程度は冷静になれた。
本当は、解っている。
今日、こんなに荒れているのはする事成す事ついてないからではなく。
カイが居ないから。
「…………」
カイは実家に帰っている。親戚の集まりがあるそうだ。
-----カイって、向うじゃ結構モテてるんだぜ。なぁおい。
-----ちょ、師匠!やめて下さいよ!
あの時のカイの「やめて下さいよ」は嘘を言わないで欲しかったのか、事実を言わないで欲しかったのか。それは本人にしか解らない。
べつに。
いいいんだ。そんな事は。
誰がカイの事を好きであろうが、カイは自分が好きだし、自分もカイが好きだ。まぁ、これは滅多に言ってやらないけども。
だから何とも思わない。
親戚の集まりなんか放り出して、自分の所に来て欲しいなんて、思わない。
カイは、明日帰ってくる。
何か気晴らしがしたいけど、いまいち外出をする気にもなれなくて。
いつもは紅茶を飲む所をコーヒーに変えてみた。
どうもあの濃厚な香りをあまり受け入れられないのだが、今は少し大人にないたいので、大人の嗜好品を嗜んでみたかった。
父親に淹れる為に、手順は知っているから難なく淹れる。
ふわりと漂う芳香を浴びて、一口飲んでみて、眉を寄せる。
ミルクも砂糖も入れたのだが、どうも苦い。これ以上ミルクを入れるとカフェオレになる、というくらいまで入れたのに。
父親も叔父もカイも、よくこんなものが飲めるものだ。
あぁ、またカイを思い出してしまった。
ふん、と無意味に虚勢を張って、それでもコーヒーを飲み干そうとした。
その時、カイからのメールが来た。
「今何処に居ますか」との事だってので「家だ」と手短に返事をした。
それの返信が来ないうちに、インターホンが鳴る。
誰だ、こんな日に、と思って迎えると。
「こんにちわ、爆殿」
突然お邪魔してすいませんと、カイが其処に立っていた。
「……………」
3回くらい瞬きをして、ようやく実物だと知る。
「……帰ってくるのは、明日の筈では?」
カイはあはは、と苦笑して。
「何だか、爆殿の顔が見たくて、居てもたってもいられなくて。
一足先に帰って来ちゃいました」
「…………」
お土産です、と手渡されるまま、受け取る。
「……あれ、誰か居るんですか?コーヒーの香りが……」
「……いや、暇だから自分で淹れてみた」
「へぇ、爆殿ってコーヒーも飲むんですか」
「……飲んだら、悪いか?」
「い、いえ、どちらかと言えば紅茶が好きそうみたいなので」
「あぁ、やっぱりオレの口には合わんかった」
だから、と続けて。
「……残りは、貴様が飲め」
「……え」
ぎゅ、と紙袋を握る。顔が、熱い。きっと真っ赤だ。
「……はい、お呼ばれします」
「じゃ、さっさと入れ」
いつまでも玄関で突っ立っているな、と、カイを急かした。
爆は基本的に占いを信じない。
今日、彼の運勢は12星座の中でダントツに最高だった。
爆は基本的に占いを信じない。
でも、カイが会いに来てくれた。
だから、例外にちょっと信じるようになった。
<END>
|