それはとても長い1日





 さて。
 無事赤ん坊にミルクを与える事に成功し(この間の皆の苦労を書くとまる1話分使いきる勢いなので削除)、その次にすることと言えば!!
「母親を探し出して慰謝料や養育費の相談ですね」
「ですからー!私じゃないんですってば!!」
「貴方であるという確かな証拠もありませんが、無いという確証もないんでしょう?」
「ぅ……………」
 そうなのだ。
 カイはこの件について灰色なのだ。俺達は黒でも白でもないグレイだとかいうカッコイイものじゃないけども。
「まぁ貴様の容疑についてはさておき、母親は見つけないとならんな」
「そうだな。一方的に赤ん坊置いていくなんて、酷すぎるぜ」
 ハヤテが憤慨するのは、やはり身の上の事情からだろう。
「でもよ、探し出すにしたって、手がかりはあるのか?」
 あるのは赤ん坊が入っていた籠と、手紙のみ。
「まぁ、状況から分析するに、相手は少なからず武道の心得がある人物が----当人ではいにしても、身内にいるヤツだろうな。
 オレ達は普通に此処に来ているが、厳しい岩場が沢山あるこの山は一般人にはキツい」
「なるほど」
 ハヤテが頷く。
「では、僕とハヤテが聞き込みに行きますから、貴方と爆くんは赤ん坊をお願いします」
「……って、私が行ったほうがいいんじゃないですか?土地勘もある事ですし」
「いえ、貴方はここで爆くんとゆっくり話あっててください。この後の、身の振り方とかね………」
 ぞっとするような笑みを残して、デッドとハヤテが外へ出る。部屋には、カイと爆と赤ん坊が居る。
「…………………」
 沈黙。
 いつもだったら、爆と2人きりなんて地に足が着かないくらい浮かれるというのに。
(あぁ、2人きりじゃないんですよね……)
 カイは横目で今は再び眠りについた赤ん坊を見る。
 まさか、自分に隠し子疑惑が浮上するなんて……
 人生、何があるか解らない。嫌という程身に染みる。
「あの………」
 カイは恐る恐る口をきく。顔は怖くてとても見れたものじゃないので、心持伏せているが。
「本当に、その時の事は覚えてはないんですが……私は、私である以上、爆殿を裏切る事はしないと、そう信じています」
「………………」
「信じているというか、そうだったらいいなという願いというか……まぁ、あの、」
「……もう、いい」
 一瞬完全に見放されてしまったのかと思ったが、反射的に見上げた眼に飛び込んだのは、柔らかく苦笑している爆だった。
「オレだって、本気で思ってる訳じゃない。まぁ、最初は、少しびっくりしてついあんな事をしてしまったが………」
「……それって、ヤキモチですか?」
「なっ………」
 カイがそう言うと、爆の頬が明かりが灯ったみたいにぱっと赤くなる。
「あ、ヤキモチなんですか」
 カイが途端にへにゃ〜と嬉しそうに笑う。デッドが居たら藁人形でなく、カイに直接五寸釘が打ち込まれただろう。
「う、煩いな!!」
「爆殿、あまり大きな声を出すと赤ん坊起きちゃいますよ」
 あ、と爆は手で口を塞ぐ。その仕草がとても子供っぽくて、溜まらず噴出すと、ゴインととても痛い拳骨を食らった。
「………あまりふざけた事を言うな」
「はい」
 脳震盪を起こしたみたいにぐわんぐわんする。手加減はされなかったみたいだ。
 痛いけど、それだけ遠慮が無いのは、ちょっと嬉しい。妙な幸せに浸っていると、爆がぽつんと漏らした。
「……本当に、信じていいんだな?」
「…………………」
 あぁ、なんだかんだで、爆も自分と「同じ」なんだ。
「はい」
 と、すぐに頷けば、爆がほ、と息を吐いて眼を細める。
「でも、爆殿と一緒にこの子を育てるのもいいですよね」
「……貴様やっぱり、一度埋まってみるか」
「あぁぁ、爆殿、ジョークですって、ジョーク!」
 カイが慌てて取り繕うと、赤ん坊が眼を覚ました。
「マーマ、マーマ」
「……オレは、ママじゃないというのに」
 眼が覚めて、すぐ求めるのが母親で、しかしその本人は居ないというのが何処かもの哀しい。
 仕方ないので、抱っこしてやると、小さい手できゅぅ、と爆の服を握る。それに、カイはムカ、とした。恐るべき心の狭さである。
「爆殿、腕が疲れるでしょう。私が抱っこしますので」
「いや、このくらい、平気だぞ?」
「いいですから」
 と、爆の手から赤ん坊を手渡されて。
 赤ん坊が大泣きしたのは、言うまでも無い。




 ほどなくして、2人が帰って来た。
 去年から今年にかけて、行方が知れなくなった者を重点に探したのだが、ぱっとした情報は掴めなかった。該当する人物は、皆、夫婦揃って幸せそうだった。
「こうなりゃさ、俺達で育てちまおうか?デッド」
「新しい呪があるんですが、かかってみます?」
 わぁ、同じ事やってる、とカイが思った。
 その時。
「狭いながらも楽しい我が家……ってマジ狭いな」
 こんな不躾な言葉を吐いて家に入るのは、1人しかいない。
「師匠。久しぶりですね」
 久しぶり、の所を強調して言った。
「まぁな。赤ん坊はどうした?」
 激がさらりと言ったので、皆一瞬、何の事かが解らなかった。
「…………ふふふふふ、謎は全て解けた………!!」
 どこぞの名探偵の孫みたいなセリフは、カイである。
「今から思えば当たり前過ぎる事ですが、それが盲点になったという事ですか!!」
「爆ー、相変わらずちっこいなーv」
「師匠------!!話を聞いてください爆殿から離れて下さい!!
 て言うか!この赤ん坊、師匠の子だったんですね!!!」
「馬鹿言え。爆が居る俺が、どうして他のヤツを相手にせにゃならねぇ」
「しらばっくれないで下さい!そして!爆殿は私のでぐぶふぉッツ!」
「誰が貴様のだ---------!!」
 騒ぎ合い、どつき合う光景を何と思ったのか、赤ん坊はきゃっきゃと手を叩いて面白がった。まぁ、泣いてしまうより余程いいだろう。……多分。
「では、この赤ん坊は誰のですか?」
「ん?行きつけの店での顔馴染みのヤツの子だよ。
 久しぶりにデートしたいっつーから、心優しい俺が預かったって訳だ」
 預かって、そして、弟子に世話を押し付けた訳だ。
「ならば、この手紙は?」
 デッドは、ある意味1番の騒動の種であるそれを激に見せた。
「あぁ、それは」
 激はケロっとして。
「俺が書いたの」
「何だと------------!!!」
 14行上で爆のスクリューパンチで向こうの壁まで吹っ飛んだカイが復活し、弟子の立場を忘れて叫ぶ。
「何でこんな真似を!!」
「いや、面白い事になるだろうな、って思って」
「私は……!!私はもう少しで信頼全部失う所だったんですよ!?」
「何を言うんですか、カイさん。元から無いものは失いようがないですよ」
 デッドが諭すように言う。
「……で?こいつの親は何時頃迎えに来るんだ?」
「もー少し経ったら来るぜ。……って、やけに爆に懐いてんな、コイツ……」
 爆に抱きついている赤ん坊を見て、激が眉を顰める。弟子も弟子だか、師匠も師匠だった。
「あぁ、なんでも、母親が爆に似てるそうだって」
 ハヤテが説明した。
「……………………」
 どうしてか、激が非常に難しい顔で沈黙した。
 誰かが聞く前に、激が呟く。
「……俺がそいつと顔馴染みになったきっかけ、解るか?」
 そんなもん、解るわけがない。
 皆のそんな意見を受け止め、激が続けた。
「顔がな、現郎そっくりだったんだよ」
「………………………………………………」
 そーゆーオチで来るかい、と、1番重い沈黙のカイは、思った。
 その時の爆の表情はどんなものだったかなんて、カイは、とても怖くて見れなかった。




<END>





こういうオチで締めてみました。よっしゃオッケ!!
炎に似ている、というオチも捨てがたかったんだけどね。
カイに似ている、ってのは悔しいから大却下だ!!(これ以上ヤツに幸せを噛みしめされてなるものか!!)

なんかもう、普通にカイ爆書くとおまけとしてデッドとハヤテがくっついてくんなぁ……
くそぅ、これでは草原殿の思う壺だ………!!
人の裏かいてこそのワタシだろうが……!!