占わなくても解る。これは、時間が経てば経つほど拗れる問題だ。
だから、早く爆を探し出さないと。
気ばっかり焦って、実際より早く時間が流れているように思える。
(チクショウ!)
自分のもつ、ありとあらゆる技や術を持って、爆の居場所を探る。常に留まり続けている訳じゃないので探し出すのは結構苦なのだ。おかげで夜を徹してしまった。
(とりあえず、このあたりの筈なんだけど……)
商店の多い町だ。案外、必要な物を買い揃えているのかもしれない。
もう一度気配を探ってみる。手当たり次第やればいいというものでもないのだが。
心を平らにし、少しの異変でもキャッチする。
爆の気配は稀有だ。他人より解り易い。
輝くようなものを感じ、そちらへと瞬間移動した。
「爆っ!」
叫ぶ声に、振り返る。
目を見開いたのが、自分でも解った。
「爆、あのな、この前の、っ!?」
ジャキン、といきなりバズーカが構えられる。
「お、おいちょっ、」
顔を青くして止めようとするが、無力だった。
ズドン、と発射され、衝撃に吹っ飛ぶ。
いってーとか起き上がると、爆はもう居なかった。瞬間移動したのだろう。
「…………」
直後の今なら、まだ気配を追えた筈だ。
でも、ここまで徹底的に拒まれたショックの激に、そんな気力は無かった。
激はショック状態だが、爆もまた困難して呆然としていた。
激の顔を見た途端、攻撃してその隙に……逃げた。
逃げた。
このオレが。
どうして?
なんで?
適当に移動した場所は、何処かの国の原生林。
爆を邪魔するものは何も無くて、暫くその場に留まっていた。
答えを出せないまま。
ぴんぽーんとチャイムが鳴る。それに出るのはハヤテだ。だってチャラは植物だし、残りは雹しかいないし。
「はいはーい、って、カイかよ」
なんだ、とか用を問う前にカイが切り出す。
「すいません……ちょっと非難させてください」
「いや、その前に自首しろ」
師弟揃ってろくでもない印象しか与えてないようである。
「そうじゃなくて!あの、実はかれこれもう3日、家にひたすら鬱を周りに振りまいているのがいるので、もうこっちも参っちゃいそうで……」
「もしかして、それはお前のお師匠さんか」
「……今は師匠だと認めたくないです。あの鬱製造マシーンを」
色々大変そうだな、とハヤテは思う。
「え、激?激がどうかしたの?」
愛しい人の名前と憎き人の名前にはとても敏感な雹である。
師匠の天敵に出会い、ちょっとひく、と引き攣りながらも事情を話す。だってそうじゃないと自分の命が危うそうだし。
「あー……ちょっと、今激しく落ち込んでいるみたいなので、そっとしておいた方がいいかなと私がここに来ている訳です」
カイ、上手い事を言う。
「落ち込んでいる?あいつが?あのヒロトとかいう弟子に関する蟠りが無くなって、シリアスの要素何もないあいつが?」
それはお互い様なんじゃないかなぁ、とカイとハヤテと、植物なチャラまでも思った。んでもってチャラはあれの発端は貴方が意地汚くナレノハテから鎖かっぱらったからではないだろーか、とかも思った。まぁ遅かれ早かればれたとしても。
雹は信じられない、という顔をしたが、すぐにニヤリと笑って。
「それは是非カメラに納めて後の世に残さないと!じゃ、ハヤテ、僕出かけてくるからね〜」
言うやいなや、ばささっと羽ばたいて空に吸い込まれるように消えてしまった。さすが元GSというか、その速度はハヤテよりうんと速い。
「…………」
「…………」
2人は飛び立つ雹を黙って見送った。確実に被害に遭うだろう激に何もしてやらなかった、という方がニュアンスとして正しいけど。
「あぁ、師匠……!何も出来ない愚かな私を許してください……!!」
「いや、そう思うなら悲痛な表情で沈痛に言葉吐いてないで、行ってやれよ」
「それは出来ません」
「出来ないのかよ」
そんなやり取りばかりするだけだった。
で、激の家に着いた雹。
デジカメ片手に颯爽と乗り込んだ。
「おらー、激ー!!ずっと引き分けだったお前に今こそ優位な立場に立ってやるぞー!!!って、うわぁ」
そこは室内にも関わらず、そして昼だというのに黒い靄というか、多分それが瘴気と呼ばれるものではないだろうか、というものが澱んでいた。それの中心には、当たり前に激が居た。
「おーい、激ー?何やってんだよ」
うりゃうりゃ、と靴の爪先で頭を小突く。
「あー……?雹かよ、ほっといてくれよ……」
影というか闇を背負って呟く激。その声色は墓場では聞きたく無いものだ。
「いや、今の僕にはこの姿を明確な記録として残し、みんなに広める義務があるから」
「あーそう?じゃ、撮っとけば?心底惚れてる相手に近寄る端から片っ端に逃げられた男の末期ってのをさ……あはは」
あれから激、何度か爆との話し合いを試みたらしい。
でもって、その度に逃げられたらしい。
最初は落ち込み、次にキスぐらいでそんなに怒んなくってもいいじゃん!と怒り、そして仕舞いにはこうして無気力になってしまった。
(俺の馬鹿馬鹿。なんであの時我慢しなかったんだ!一時の快楽の為にその後永遠の苦しみが待っていたんだぞ!)
そう思っても、時すでに遅し、である。
「まー、でもあれだぜ、激。例え全部が失敗に終わっても、それでも成功するまで続けるこったな。それしかする事ないんだろ?」
確かに、現郎の言う通りだけど………
………って現郎?
「……現郎?なんでオメーが此処に居るんだ!!!?」
「いや、今から2時間ぐれー前から居たけど」
「え、激、知ってなかったの?煎餅食べたりお茶飲んでたり凄い寛いでたのに」
「あぁっ!テメー現郎!お茶葉新しいの開けやがったな!?こっちに封切ったのあったのに!!」
「知るかよそんなん」
「あーあー、上等なヤツなのにー。ったく、オメー何しに………」
……って。
現郎が此処に来る用事って。
そんなの。
炎の、付き添いくらいしか。
「……………」
ギ、ギ、ギギギ、と視線を茶葉から現郎に移す。
「……なぁ、もしかして、炎も」
「あぁ、居るぜ」
げごふ。と、気分としては5リットルくらい吐血した感じだ。
やばい。
いやもう。
やばいなんてもんじゃない。
いつだったか、炎が来た時、色々悪いタイミングが重なってしまい、危うく爆が炎の星へと行ってしまうかもしれない事態になった時があった。
どうにか寸前で防げたけど、その時。
炎は自分に言った。
-----今度、爆がこの星に居る事で気を煩うようなことがあれば、その時は、
爆、を
「………ッッッツ!!!!!」
激は勢いよく立ち上がる。そのおかげで、ちょっと立ちくらみもしたけど、構ってられない。
「激?何処に行くんだよ」
なんていう雹にも構ってられない。
爆の所へ行かなければ。
誤解を解くとか、そんなんじゃない。嫌われてもいいんだ。軽蔑してくれたって。
それでも、同じ星に居るって事だけで。
(爆------!!)
と、シリアスな表情決めて走り出した激だが、現郎にあっさり後ろの襟首掴まれぐぇぅ、と潰れたカエルみたいな声を出した。
「なっ……げほっ(襟が首に食い込んだ為咽た)何するんだよ、現郎!!」
「オメー、炎様と爆ん所に行く気だな?」
「そーだよ!!」
「なら、今は止めとけ。積もる話もあるだろうし、此処は若いモンに任せて歳よりは退散退散」
「俺、炎より若ぇよ!(多分)離せっ!離してくれ!何も俺は未来永劫金輪際2人きりにしてやらねぇって訳じゃねえんだ!でも!今はっ!今だけは-------!!」
今だけは2人でじっくり話し合われても困るのだ!迷子になった仔猫ちゃん以上に困ってしまうのだ!!
「それよりも、俺にちょっと付き合えや」
ちなみに、この時点で雹様は帰ってしまわれた。ていうか爆を探しに行った。激とは違う理由で同じ目的を果たそうとしている(「おのれ炎!爆くんと2人きりにさせるものか-----!!」)。
「今からセーブンの花街行こうぜー」
色々溜まってんだよなーと何も溜まってないよーな口調で言う。
「花街?花街っつーと、欲求を持て余した男どもが愛の代わりに金で女抱こうってのを配給している場所の事か?」
「まぁ、そんな感じだ」
「…………ア、アホー!!行ってられっかそんなもん!!行きたきゃ1人で行け!!」
「あーいう所はみんなでわいわい買いあさるのが楽しいんだろ」
「駄菓子屋か----------!!」
今すぐ爆の所に行きたいのに、首根っこ掴まれたままだから、駆け出してもその場駆け足になるだけで滑稽だ。純粋に力比べで負ける気はないのだが、掴まれた所が問題で勝負したくてもできない。
「離せ!俺には行かなければならない事が行けば行く時行ければ!!」
「まー、いいじゃねぇか」
「うっせぇ馬鹿!!この上女買いに行ってました、なんて止め刺してどうする!お前さては止め刺し屋かうわぁ恐ろしい!!!」
「まー、いいじゃねぇか」
「いい訳があるかー!あるものかー!!」
「まー、いいじゃねぇ、かっ!」
どごす!
「ぅげふ、」
ぐったり。
「……やっぱ、俺にさりげなくなんて無理だよなぁー」
ぐったりした激を引きずりながら歩く。
無意識にドナドナを鼻歌っていた。
<続く>
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