未来はミルクティー色





 アンティークというよりは、単に年期が入っているソファに腰掛け、午後の優雅なティータイム。
「んー、美味い。爆の淹れるミルクティーが、俺は一番好きだな。てか世界一だよ」
「何をおおげさな……」
 と、言って爆も自分の入れたミルクティーを啜る。まぁ、決して不味くはないと思うが。
「や、でも俺もたまに外で頼んだりするけど、やっぱり爆のが美味ーもん。
 爆は紅茶淹れるの美味いし、俺はコーヒーが得意だし、いっそカフェでもやろーかな。この家無駄に広いし、一角改造すりゃさ。きっと出来るよ、」
「…………」
 馬鹿に明るい笑顔で、身を乗り出して激が言う。
 爆には、全てが解った。
「激………スランプなんだな?」
 明るい笑顔のまま、激はだばーと涙を流した。




「ダメだー。俺ぁもうダメだー。このまま朽ちて枯れていくんだー」
「あぁもう、泣くな落ち込むな。スランプって、どっちなんだ?」
 爆の膝に顔を埋めて、さめざめと泣き言をほざく激の背中を優しく撫でてやりながら、聞く。他のものが見たら、そんなに優しくしてやることはないよとか言われそうだ。雹とか真とかに。
「……生活費の方」
 ぐす、と鼻を鳴らして起き上がる。激は生活費の為、成人向きの話を書いている。激が本当に書きたいのは、読んでる最中はわくわくして、読み終わった後はほんわか出来るような、そういう冒険ファンタジーだ。
 最初こそ、アダルトのみだったのだが、爆に背中を押され自分の書きたい物も徐々に世に出している。それの評価はそれなりに高いと前担当の現郎が言っていた。
 とは言え、それだけではまだ食っていける程でもないし、何より金目当てとはいえ愛着が芽生えたようで、そっちも両立させていた。
 のだが。
「スランプって、どういう風なんだ?」
 なんだか幼い子供に話しかけてるみたいだな、と思いながら爆は問う。
 と、何だか激は急に顔を赤くして。
「? どうした?」
「あー……ま、まぁ、これは俺の問題だから、爆にはさ、ほれ」
 とか適当な事言いながら、退散しようとする。
 爆は勘が鈍い方ではない。
 自分から遠ざかろうとするのだから、自分に関わりがあるのだと、去ろうとした激の服をがっちり掴んだ。
「言え。さもないと、怒るぞ」
 本気の爆に、う、と激は言葉を詰らす。
 スランプの原因を言ったら、多分爆は怒る。が、今言わなかったらそれ以上に激怒する。
(……ま、そのうちバレちまうんだろーけど)
 爆には嘘はつけない。
「じゃー、その……あんま怒んないでね?」
「善処する」
 じゃあ言うけど、と激はそろそろと話し出す。
「だから、ね、前は俺は恋人とか居なかったんだけど、今は爆が居るじゃん?」
「だからなんだ」
「……つまりさ、爆が、居るんだよ」
 これとしが言いようがないと、激は同じ事を繰り返す。が、爆にはわけが解らない。
「だから、それが………」
 問い直して。
 はた、と気づく。
「…………」
「…………」
 続くのは沈黙。しかし、その間に爆の顔の温度は限りなく上昇していった。
「……なるほど………」
 真っ赤になって睨む爆の前には、鏡の前の蝦蟇みたいに汗を垂れ流している激が居る。
「そういう訳なら、オレは当分此処へ来ない方がいいな」
「わー!ちょっと待ってちょっと待ってってー!!!」
 席と立つ爆に、必死に追い縋る。
 だから。
 つまり。
 激は。
 以前は欲求不満を小説を書く事で解消していたようなものが、今は爆が治めてくれるので、その必要が無くなってしまったのだった。
「お前の顔見れないんじゃ、そっちの方が俺はよっぽど死活問題だって!」
 とりあえず、座りなおす爆。まだ、顔は赤い。
「と、とりあえず今後の対策としては、そこまですっきりしないように気をつけ……ぶげ!」
 激の顔面に爆のパンチが決まる。
「……わざわざ言わんでもいい」
「……はい」
 鼻血を出したまま、激は頷く。
(って気をつけるとか言った側からいきなりしたくなっちゃうし……あぁもう、見てるだけて美味しそうだよな。やっぱり、脱がすのは上から、ボタン外して露になった首筋に、)
 ってのが、全部実地に流れちゃうんだよはぁ。うーん。
「……ま、それもいいかもな」
「へ!?何が!!?」
 今の不埒な考えと爆の呟きが合っているとは思えないが、いいタイミングだったので戦く激だ。
「カフェの話だ。オレが紅茶で、激がコーヒー淹れて。菓子類は母さんが得意だから、届けてもらうか、なんならオレが教わってもいい」
 その様子を思い描いているのか、爆の目が光を浴びたビー玉みたいにきらきらしている。激は、それを至近距離で覗き込んで。
「………な、爆」
「うん?」
「それって、プロポーズ?」
 一瞬きょとんと呆けた顔をしたが、すぐ馬鹿者、と怒鳴る。当然、顔は赤くて。
「んー、折角の申し出だけど、やっぱあれ無しな」
「どうしてだ?」
 だって、と激は言う。
「爆の紅茶飲めるのは、俺だけでいーの」
 そして軽く頬にされたキスは、ミルクティーの香りがした。




<END>





カフェ話やるなら、店長は激が一番合うと思う。カイは主って柄じゃないし、現郎はものぐさだし(でも2番目はこいつだと思う)。
雹や炎も合いそうだけど、激のほうが適当に客を捌けそうだわ。
カフェの衣装も好きなのよねぇ。白×黒でエプロンの形が可愛いのがいい。カラフルのも好きだけどね。
こじんまりとした店だから調理とウエイター兼任で、爆にちょっかいかけるともれなく激が飛んで来ます。
書きたいなー、カフェ話。