「激、犬の貰い手とか知らんか」
「んん?何がどーなってんの?」
ソファの横に座る爆に、腰に手を回そうかとする前にそんなセリフが出た。
「ダルタニアンの所で5匹産まれたんだ。で、今里親を探している」
「そっか。なら、適当にあたってみるよ」
「さすが無駄に顔が広いだけあるな」
「無駄に、って……」
「気にするな。素直なオレの感想だ」
めちゃくちゃ気になる事を言ってくれた。
まぁいいや。とりあえずこの件については終わった訳だから、さっそく……
「それにしても、生まれ立ての仔犬とは可愛いもんだな」
明らかにその気で顔を近づけている激には、これっぽっちも気づかずに、爆は話す。その時を思い出しているのか、とても嬉しそうだ。
「あんなに小さいのに、ちゃんと動いているんだもんな。まぁ当たり前なんだが。
都合が合えば、オレも飼ってみたかったな」
「…………」
機嫌がいいらしい爆は、腰に手をやっても殴ってこない。でも、機嫌がいいのは激の為でもないし、激のせいでもない。
「メスの方が飼い易かったんだったか?なぁ、激?」
「………。
わん」
振り返ってみた激は、とても憮然としていた。んでもって、突然「わん」とか言い出した。
「? 激……?」
「わん。わんわんわんっ」
「なっ、うわぁ!」
そのまま、がばっとソファに押し倒させる。
「ちょ……っ、おい!!」
がっちりと爆の身体をホールドして、鎖骨から首筋、頬にかけて何度も舌を往復させる。それこそ、犬がじゃれついているみたいに。
「馬鹿な事しているな!!」
「……んだよ、爆、犬が好きなんじゃねーの?」
「はっ!?」
むす、と拗ねたように……いや、確実に拗ねて紡がれたそのセリフ。激の一連の不可解な行動の理由が明らかとなった。
「あ、……あ、アホか貴様は!!!」
当然、爆はそう怒鳴った。
理由が解る前は馬鹿で、解ったらアホになるのか。なにか使い分けているのかな、とか激はちょっと呑気に思ってみる。
「急に何をしでかしたかと思えば、そんな……
比較する対象じゃないだろう!!」
「知らねーよ、そんなん」
激は言う。
「比較する対象だとか、そんなん思う前に、爆が気を取られてんのが俺以外はヤだ」
「……………」
眼を見据えて真正面に。
激はそんな事を言う。
「…………」
爆は、はぁーと長い溜息をついて、激を抱き寄せた。
「……怒んないの?」
てっきり殴られるのを覚悟で言ってみたのだが。
「……怒る気も失せた。全く、貴様は……」
普段飄々としている癖に、なんでこんなに執着心も独占欲も強いのか。
「……馬鹿」
ぽつり、と爆は言った。
「怒んないって言ったじゃん」
「貴様にじゃない………
それはそうと、早く退け。あぁもう、舐められた所がベトベトする!!」
「蹴るな、蹴んないでって!あー、やっぱり怒ってるー!」
「やかましい!」
なおもゲシゲシと蹴りながら、爆は激にさっさと退けと言う。
自分の顔が赤いのに、気づいてしまうその前に。
そうとも、馬鹿は激じゃない。
そんな激を、嫌いになるどころか少し可愛いと思ってしまった、自分にだ。
<END>
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