咲き乱れる





 今日。俺はこの学校を卒業する。
 それ自体は全然大した事ないんだけど。
 問題は。
 明日から爆に会えないって事だ………
 それぐらいで落ち込むなとか言われそうだけど、とてもマインドをドント出来ない。
 会って1ヶ月くらいに意識し始めて、それから半月後に自覚。その後それとなく告白を図るも撃沈。
 卒業間近という状況に後押しされ、爆に、俺が好きだと伝えたのがちょうど3ヶ月前。返事を貰ったのが後日の放課後。
 実際、恋人同士って関係になってから、ちょっとの時間しか経っていない。……というかそれらしい時があったのかさえ。
 だってキスも無いし、ハグも滅多に無いし。休みに出かけたりするけど、それはこういう関係になる前からしていた事で。
 あぁ、俺って本当に両想いになったんかなぁ?もしかして、遊ばれてるのかなぁ。
 いやそんな筈はあるまい!爆はその辺の、男をキープだのゲットだのキャッチアンドリリースだの言ってる女とは違う!性別の話で無く!
 って爆、もしかして同情でオーケーしてくれたのかなぁ。あるいは、下手に断ってストーカーになられても面倒、だとか。
 相手は(つまり俺は)卒業間近。自然消滅は簡単に出来そうだ。
 あぁ、自分で言っててさらに落ち込んでちゃただのマゾだっつーの……
 膝を抱えた。




 同級生ないし下級生からのサイン攻撃を逃れ、中庭に来ていた。中庭とは名ばかりで、草茫々木は適当。かろうじて石階段で学校と繋がっているから、ここが校内だと解るくらいで。
 実際何の為にあるんだって場所だけど、俺はこういう場所が嫌いじゃない。むしろ好きだと断言出来る。
 なにせ、ここで爆と会ったんだから。
 知ってる事に驚き、来る事に驚き。
 そして気に入ってるのだというのが嬉しかった。何て言うか、言葉に出来ない事を解って貰えたような。
 意識したのは出会って1ヶ月、て言ったけど、もうその時から、最初に目に入れた時から俺は爆が好きで好きで、こんな所で膝抱えて考えこんで、落ち込んじゃうくらい大好きなんだ。
 あーぁ、爆ぅ……


「激!」


 凛とした、1本筋の通った声。
 俺の中で”特別”に分類するそれは。
「爆………」
 だった。




 石階段の上から、それの一番下に腰掛けている俺を爆が見下ろす。俺の方が爆よりうんと高いんだけど、俺はいつもこうやって見下ろされてる気がしてたよ。
 こんな風に今は、こんなにも近い。
 どんなに喧嘩していても、そしてお互いの事を知らない間にも、俺は爆と同じ所へ行っていたんだ。
 明日から、それが無くなる。
 無くなる……んだなぁ。
 携帯の番号も知らない。このままじゃ、本当にただの他人になっちまうじゃん。教えてって言っても、教えてくれないし……うう、本当に俺って爆の何?
「探したぞ。こんな所に居たのか」
 自分に探させた事を責めるような、そんな物言いだった。
「まぁ、とりあえず社交辞令でも言ってやるかな。卒業、おめでとう」
「はは……」
 これっぽっちも目出度くないんだけどね。うん。
「浮かれん顔だなぁ。もっと笑ったらどうだ。新しい門出の日だぞ」
 なんて爆は言うけど、新しい門出だろーと門松だろーと笑えねぇよ。


 だってその先にお前が居ないんだもん。


「……………」
「激」
 黙りこくっている俺に、爆が呼びかける。
「オレは常々、こうして階段の最上段に立つとやりたくなる事があるんだが、今、するぞ」
「へ?」
「だから、頼んだぞ」
「へ?へ?」
 何の事やらさっぱり意味不明。
 でも、一旦視界から消えた爆が、軽い助走して向かっているのが解ると、瞬間、というか反射的に理解出来た!てかマジかよ!
「おい、爆……!!」
 止めろとか本気かとか。
 そんな言葉が通じる相手じゃないのは、今更。
 どす、とジャンプして降りてきた爆を抱え、その重さにちょっとほっとする。





「…………ってぇぇ〜〜〜」
 草茫々に感謝した。ある程度のクッションとなって、堪らず倒れこんだ俺の身体に掛かる負荷を抑えてくれた。
 ったく、何を無茶な事してんだよ……
 倒れこんでいる俺とは裏腹に、その上乗っかっている爆は呑気に。
「ほう、さすがだな。もっと惨事になるかと思ったんだが」
「あのな、おま……」


 そして

 何が起きたのか

 俺の思考回路は遮断されて、ただ唇が熱いなと思うくらいで。


「…………」
 何か……何か音がしたような。ちゅ、とかそんな感じの。
 ………え?
 え?……え?
 えええ?
 そんな俺に、爆はいつも通りに不遜な笑み。
「何をそんなに悲しんでいる?世界は此処だけじゃないだろうに」
「…………」
 爆は何か言ってるけど、あんま頭に入って無い。
 え?え?つまり、え?
 今、俺、キ、えぇぇ?
「会いたいと思えばいつでも会える。……と、いうか」
 爆が立ち上がる。俺はまだ自分が返っていない。
「会いたいなら、会いに行けばいいだろう?」
 空も道も繋がっている、と。
 それだけ言い残し、爆は去って行った。
 気づいたのはそれから数分後。慌てて追いかけた時、気づく。
 ポケットにメモが。
 それには、おそらく。




<END>





何が書きたかったのか……
ただジャンプしたのを抱きとめる所と、膝抱えて悩みこむのが書きたかったんですね(人事のよう!)

膝抱えちゃうくらい大好き、てフレーズが今マイブーム。なんか可愛くね?(知らん!)