目を逸らせない感情





 目の前で本を読んでいる爆の横顔がめちゃくちゃ可愛いので、思いっきり抱き締めてやりたい。
 でもそんな事したら殴られているのは解りきっているので、しない。




「……しないのに何で殴るの」
 殴られた頬を押さえ、うるうると(まぁ、本人ジョークでやってんだが)目を潤ませる激。
 そんな激に、爆は怒り心頭に、
「してはないが思いっきり口に出してただろーか!このアホ!」
 え、そーなの、と気まずそうに笑う激。無自覚で溢れてしまっていた事らしい。
「ちぃぃ、ばれちゃしょうがないや。て訳で抱き締めて良いですか」
「……今のパンチで解らないか……?」
「あー、いや、うん、だめってのは解ってるけど、でもちょっと言ってみたかったんで、爆、バズーカー仕舞って」
 発射へのカウントダウンを始めそうな爆に、ストップをかける。さすがにこれは食らったらやばい。
 全く、と憤慨して読書に戻る。怒った顔もまたイイんだよなぁ、と懲りない事を激は思っている。
「いーじゃん、抱き締めるくらい。それだけ。絶対それだけだから!」
 とか言うが、非常に信じがたい。前科の数は両手では足りないのだから。
 爆が拒むのはその辺に理由、というか原因があるのだが、激は解ってまだなお言うのか、そうでないのか。爆としては、そんな事を正直に言えるわけもないから、ひたすら突っぱねるだけだ。
「ねぇー、爆、いいだろー?」
「………あぁもう煩い!やかましい!嫌だといえば嫌なんだ!!どうしてもしたいなら、別のヤツでも相手してろ!!」
 激の甘えた声に、ちょっとくらいならいいかな、とか思ってしまった自分を恥じるみたいに、爆は言った。
 一瞬の沈黙。
 すぐに返事が無い事に、爆は、ん?と訝んだ。
「……そっか」
 元気の無い激の声。
「そんな風に、思われてたんだ」
 爆がはっとして振り返っても、その時はすでに扉が閉まった時。
「激……!?」
 本を放って、扉へと駆け出す。
 と。
 ばふ!
「っ!?」
 何かに当たる。
「へへー、捕まえたーv」
 それは当たり前に激で。もう、「いつも」の激だった。
 実質胸に飛び込んで来たような爆を、そのままぎゅうと抱き締める。
「こんなんに引っ掛かるなんて、爆もまだまだだな」
「…………」
 からかうように激は言う。
 が。
 爆は違うと解る。さっきのが、激の本心だ。
 いつもこうなのだ。本音を戯言で包んで、それに誘発されたような売り言葉や買い言葉に、酷く傷ついて。
 まるで、リスト・カットみたいだと、思う。自虐行為甚だしい。
 死んだ事で生きていた事を立証するみたいに、嫌われた事でそれまで好かれた事を確認したいのだろうか。
 馬鹿馬鹿しい。なんて、馬鹿馬鹿しい。
 いっそ哀しいくらいだ。
 自分は激に嫌われたら、と言うか、そんな事考えたくすらないのに。
 この、馬鹿。口には出さずに相手にぶつける。
 それとは関係ないとは思うのだが、激が離れた。
「5発くらいで勘弁してくれねぇかな」
 はは、と乾いた笑いをして、手を5本広げる。
 報復の事を言っているのだろう。
 激をじぃ、と見上げる爆。いつにない反応に、な、何?と激の挙動も不審になる。
 そして驚きに変わる。
 体格のいい胴に、出来うる限り腕を伸ばして抱きつく爆。
「……貴様の分は終わったんだろう。なら、オレの番だ」
 何が”分”だ、何が”番”なんだ、と自分へ突っ込みをいれているが、それでも手は離さない。
 本当に、抱き「締める」といった感じのその抱擁は、例えるなら激が宙に浮かんで行ってしまっても、大地へと引き止められるくらいに力強く、必死に。
 どれくらいそうしていただろうか。
 「ありがとう」と。




 激が、言った。




<END>





こんな真面目風味な激描いたの、何時ぶりだよー!?
激は大らかに見える小心者。特に、大切な人には。てのがワタシのイメージ。
色々前例あるからなぁ。犬だって3回殴られれば懲りるんだよね。