などと炎と爆が話している時、実はその外ではこんなだった。
「っだぁぁぁぁぁ!!コンチクショー!!」
ピンクが雄叫びあげていたりする。
なぜかと言うと、爆の家へ入れないからだ。正確に言えば、近づけない。周囲1メートル、ぐるりと結界がある。
激が誰かと見たと呟いて、雹とちょっとした決闘をし終えた後、もしかして爆だったのかも、と言い出したのだ。
それから、ここに来たのなら自宅に帰ってるかも、って事でこうしてみんなでぞろぞろとやって来た訳だ。その前に雹がどうしてそれを早く言わないんだよ、ってまた血の雨が降りそうになったり、ハヤテがそれに巻き込まれたりで余計な時間を食ったが。
そして来て爆の気配を確認したのはいいけど、中に入れなくてどうしようって困っている最中だ。まぁ、こうして細工されているということは、中に誰かが居るという確信になるのだが。
何だか結界のようなものが張られていて、中に入れない。入ろうとしても、文字通り見えない壁にぶつかってしまう。触れるともれなく電撃ショック、というオプションは無いらしい。試されたハヤテがよく解っている。
爆にメールを送るが、返事は無い。それはいつもの事とピンクは思ったが、実は今、爆自身の手で電源が落とされていたりするのだった。
「何でここまで梃子摺るんだ」
苛立たしげにジャンヌが言った。
「仕方ねぇだろ。元からあった上にさらに張られてより複雑になってんだ。絡まったコード解くようなもんだよ」
激もまたイライラしながら言う。
そしてさらに解いた後、それを無効化しなければならないのだが、それがまたややこしい。
「強引に力技で壊すとか」
「出来ん事もねぇけど、爆の家も吹っ飛ぶ」
「あの、」
とダルタニアンが言う。
「と言う事は、前から爆さんの家には結界みたいなものがあったという事ですよね?どうして、そんなものが」
「それはね、留守の時も爆の滞在中も、懲りる事無く侵入する輩から自分の領域を守る為なのよ」
と、ピンクが優しく説明している横で、アリババと雹と激が一体誰がそんな事だろうねぇ、と無邪気な顔をしていた。
それはともかく。
「……ふと、思ったんですけどね……」
今度呟いたのはデッドで。
「……元ある物に上乗せするという事は、結構な技術を使うのでしょう……?」
「あぁ、まあな」
いきなり何を言い出すのかと思いながら激が答えた。
「貴方は、爆君の張った結界の上に、自分のものを掛けられますか?」
「爆が協力してくれたらな。でなかったら、弾かれて………」
そこで激のセリフが止まる。
状況下からして、この結果を張った人物が、中に居るとみていいだろう。
更に、爆が問答無用で誰も近づけなくなる結界を張ることを許すとは思えない。
それだけの事が行える人物。尚且つ爆が家に招くような人物と言えば。
「炎!!!!」
誰とも言わず、声が轟く。
「で。何しに来た」
と、爆はとても静かに言った。腕を組み、半壊した玄関にみんなを正座させ。
最善に座らされた、実際の責任者でもある激が恐る恐る言う。
「来たら来たで顔出してくれればいいのに、帰っちまうから、気になってこうして家に……」
うんうん、と後ろの皆もシンクロして頷く。
爆は、淡々と言う。
「他に何か言う事は」
「……すいません」
がっくりと項垂れるように激が頭を下げた。
そう、中に居るのが炎の可能性が高い、と結論を出した後、突然激が術だか技だかを繰り出し、結界をぶっ壊したのだった。本人が言った通り、その破壊は結界に留まらず、爆の家も容赦なく襲った。
それでこれだけの被害ですんだのは、とっさに威力をセーブしたのと、中の炎と爆が防御壁を張ったから他ならない。
「とにかく」
爆は腕を組み、
「激は玄関の補修!そして、残りは、」
皆がごく、と息を呑んだ。
爆はふと、顔を和ませて。
「……理由はともあれ、折角来たんだ。茶でも飲んで行け」
そのセリフに、皆はわぁっと歓声を上げて表情を輝かせる。
「爆殿!人数が多いですからお手伝いします!」
「あぁ!何抜け駆けしてんのよ!あたしも!」
「爆くーんv僕も手伝うよーv」
「ウチも!」
「アタシもー!」
「そんなに手伝いは要らん!!」
仲間に囲まれて、わいわいしながらお茶の準備をする爆を、炎は悠然と笑みを浮かべて見ていた。
一つの人影が、そっと賑やかな家屋から離れる。
その人物は、最後にとその家を振り返り、そして、
「挨拶もなしかよ。礼儀がなっちゃいねぇな」
「激か。土方作業姿が似合いな」
「うるせぇ!」
激は怒鳴る。こればっかりは手作業で行わないとどうにもならないのだ。
「とにかく、きちんと爆にさよなら言ってから帰れよ」
「盛り上がっている所を邪魔したら悪いだろう」
「……言ってけよ。爆が気にするだろ」
「…………」
炎はそれには答えない。肯定するように。
「別に、もう爆を自分の側近にしたい訳じゃねーんだろ?……だったら、何が目的だ」
「目的……か」
笑みを浮かべる。かつて、皆が英雄と持て囃し立てたあの笑顔だ。
「それはお前が一番よく解ってるんじゃないか?」
いや、むしろ。
「お前と、同じだよ」
「……………」
「いいか。激」
『次』は無いぞ、と、炎は最後にそう言い残し、消えた。
「………クソ、」
激は苛立たしげに、つま先で地面を抉るように蹴った。
だいたいの作業を終えて、爆にそれを知らせる頃には激を除く全員は自分の国に戻っていった。じゃ、お先にと笑顔で帰って行ったあいつらの顔を、激は一生忘れない(特にカイ)。
「何かいー匂いだな」
「あぁ。さっき皆とシチューを作ったんだ」
爆は、とても嬉しそうに言う。楽しかったのだと。
大勢の人が居た室内はがらんとしているが、その名残にキッチンに大鍋が出ていた。
「貴様の分もあるぞ。さすがに腹が減ってるだろ」
「あぁ、………」
シチューを温めなおしている爆の後姿を見て、激はふと思い出す。さっきの炎の言葉。
『次』は無い、と。
……あの時感じた気配が爆のものだとしたら、いや、そうだから今回のような事になったのだ。
タイミングが悪かった。あのシチュエーションは、明らかに爆のトラウマに触れた。
昔、爆は周囲から浮いていた。自分の信念故に。
そこに現れ、そんな爆の道をはっきりと示したのが炎だった。だから、爆の世界は炎から始まったと言ってもいいのではないだろうか。
「あの時」の炎は焦燥だった。やり方があまりに稚拙で強引過ぎた。しっかりと自分を持った爆が、それに従う訳がないのだ。
でも、もし。やり方を間違え無ければ。
あるいは。爆は。
それは「あの時」に限った事じゃない。今もこれからも、ずっとだ。
そこまで考え、ぞっと寒気が襲った。ついさっきまで、とても危険な状況だったのだ。
「出来たぞ」
トレイにシチュー、サラダを乗せた爆がやって来た。
いつか来てしまうのだろうか。爆が、この世界を見限り、炎の元へ行く日が。
「……渡さねぇから」
「……激?」
「絶対、渡さないからな」
「……………」
カチャ、と静かにトレイをテーブルに置いて、
「激………。腹を空かせているのは解るが、そんなに真剣な顔しなくても、別にオレは取ったりしないぞ?」
「………………………………」
俺も言う場所とタイミングと内容間違えちゃったかな、と突っ伏すように頭を抱えた激だった。
<END>
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