ときめいて下さい





「爆!お前に是非頼みたい事がある!」
「……何だ」
 爆はともすれば吐き出しそうな溜息をこらえ、そう問い直した。
 多分、ろくでもないことなんだろうな。予想で終わってくれない確実な未来だ。
 そんな爆を置いて、激が言う。
「俺をときめかせてくれ!」




「お前ー!武器はないだろ、武器は!!」
 真っ青に喚く激のすぐ横、数センチも無い横には爆の剣が振り下ろされている。
「だまれ!ちゃんと避けてやったんだから、感謝しろ!!」
「すげー理屈だ……」
「いかれた要求をした、貴様にそんな事を言われたくはない!!」
「いかれてねぇよ!確かに上だけなぞっただけじゃ電波な欲求だけどな!実はその裏に深い考えがあっての事だ!」
「ほぅ……だったら、その深い考えとやらを聞かせてもらおうか」
「うん。だから、その尋常でなく殺気だった目はやめてもらえねぇ?」
 とりあえず一旦(一旦?)この場は殺気を引っ込め、爆は激の話を聞いてやる事にした。
 激は勿体ぶって言う。
「なぁ、爆。お前は、何時俺の事好きになった?」
「は?」
「は、じゃなくて。何時、どのように」
 爆はこの手の話が苦手だ。極度に苦手だ。
 何故なら、勝手に顔が熱くなるからだ。それは毎回来るくせに、ちっとも免疫や耐性が出来てくれない。
「なぁ」
 真剣な激に、いつもみたいに知るかそんな事!と抉るようなパンチを繰り出す事も出来ない。
「し……知るか、そんな事……勝手になってたんだ」
 不本意ながら、小さい声でどもって言う。
 激は、だろー?と返事した。
「普通はそうなんだよな。いつの間にか知らない間に、ってやつで。
 しかし、俺は違うんだよ。明確な区切りがあって、「あぁ、俺、爆が好きだ」って思ったんだよ」
 好き、と直接な言葉を言われる度に赤くなるのもなんとかしたい爆だ。
「………で。それは何時どんな時の事だったんだ?」
 別に気になった訳じゃないぞ、と誰にするでもなく、いい訳じみた事を思いながら訊いた。
「いや、それがな」
 激が言う。
「どうにもこうにも、さっぱり思い出せなくて。
 だから再現してもらおーかなーって、爆!!どうした!何でまた剣を持つんだよ!?」
「黙れ!貴様というヤツは1度と言わず、2度も3度でも死んで来い!!」
「1回死んだら終わりだって!!」
 ブンブンと、空気を切って襲い掛かる刃を必死に避ける激。太刀筋に、迷いは無かった。
「だいたい、ときめかせてくれって、どうすればいいんだ!?シチュエーションを忘れてるんだろうが!まぁ、最も知っていてもそれに付き合ってやるつもりは、毛頭無いがな!」
「だ、だからさー!」
 避けながら言う。
「忘れちまったもんはしょーがないとして!別の事でときめけばもうその忘れた事についてはあまり気にならなくなるかなーって!」
「貴様の理屈は足の痛みを頭痛で紛らわそうとしているのと同じだぞ」
「はーぁ、それにしても、何で忘れちまったんだろ」
 ようやく爆の攻撃が止まったので、そう呟く激。
「我ながらすげーショックだ。全部、覚えているつもりだったのに」
「努力が足りん。努力が」
 よく解らん説教をする爆だ。
「えー?努力の成果が見たいなら、今晩ベットにでも、」
 ザズン。
「……ごめんなさい」
 振り下ろされた刀に謝る激であった。




(全く、無神経にも程があるな、あいつは!)
 爆の気分は最悪だった。さっきのあほな質問もだが、その内容もだ。
 あれでは、「何で俺、お前を好きになったんだっけ?」と訊かれたようなものだ。シチュエーションにもよるが、あまり喜べる質問ではない。
(……って、それで怒ってたら、オレが激を好きみたいじゃないか!!)
 ぶんぶんと首を振って、そんな考えは振り切る。
 でも、まぁ。
 嫌いか、と問われるとそうでもないし。
 声を掛けて、ふりかえってこっちを向くまでの顔の動きとか、ふいに嬉しそうに笑ったりすると、ちょっと、胸がぎゅ、ってなる。
(……いや、それは別にときめいている訳では)
 しかしそれをはっきり自分では判断出来なくて。客観的意見が欲しくても相談する訳にもいかない。
 あー、うー、と沸騰させるくらいに考えていると、がば!と後ろから抱きつかれた。
「うわぁッ!?」
「隙ありだな」
「激!離さんか!」
「爆、いい事を考えた。逆転の発想ってヤツだな」
「はぁ?」
「ときめくのを待ってるんじゃなくて、率先してときめきゃいーんだよ。どうせ爆は何したって可愛いんだし」
「はぁ!?」
 返す声は同じだが、強さが違う。
「あ、いーね、その表情vときめくときめく」
「ばッ……!あほな事……っ!」
 と、振り向けば。
 先ほど、爆が思い出したような笑顔を激がしていて、胸がぎょっとなった。
「なぁ、お前も俺にときめけよ」
「うっ………煩いわ----------!!!」
 どがーん、と。
 照れ隠しに術を使う、爆だった。




<END>





何だこりゃ。甘いのやらそうでないのやら……スキトキメキトキス(解るかい?)
弟子が薄腹黒なら、師匠はなんだろうねぇ。やっぱ全腹黒?
でもって師弟揃って肝心な時鈍い。それが世界の約束(ハウルかよ)