ちぇんじんグッ☆





 今日も雹様は妙な薬で爆くんを我が物にしようと企んでいる。
 でも、ちょっと違ったのはいつもより炎様がそれを早く気づいたって事で。
 それが原因と言えば原因。




「炎-------!!貴様毎度毎度僕の邪魔ばっかりしやがって--------!!!」
「それはこっちの科白だこのセリフ泥棒が!!
 お前も懲りんヤツだな。いいか、改めて言ってやると、爆は俺のもの……と、言うか、まぁ俺が爆のものでもあるんだが」
「何を思い出しての笑みだか知らないけど、それが君の死顔だよ。デスマスク作ってやるよ」
 マジで本気な殺気を纏い、雹が剣を繰り出す。当然、炎も応戦する。
 しかし、ここで2人はうっかり基本を忘れていた。そう、戦う場所は選べ、という事を。
 実験器具だの、薬品棚だのがある此処で、長い刀を振り回すべきではない。
 そんな事したら。
 ガッシャラァァァァァァァ-----------ン!!!
『あ、』
 てな事になるからである。




 数種類の薬品が混ざって、むせ返る程の臭いや煙が充満した。
 こうなっては仕様が無いので、一時休戦である。換気をせねば。
「うー、ゲホゴホ、最悪だ……」
「だから、それはこっちが………」
 2人は、ん?と止まった。
 何故って。
 ”自分の声”が横から聞こえたような気がしたのだ。
 いやまさかそんな事は。きっとたぶん間違いだ気のせいだ。何かの呪文みたいに自分に言い聞かす。思い浮かんでしまったとんでもない仮説を打ち消すように。
 しかし願い儚く、薄れ行く煙の向うに見えたのは、その仮説を肯定するものであった。
 それぞれ、相手をずびしと指差し、叫ぶ。
「僕--------!!?」
「俺--------!!?」
 状況を一言で言うなら。
 雹様と炎様の身体が入れ替わっちまったのだった。




 あああ、ああああああ、と言葉にならないセリフが2人から漏れる。
「ぼ、僕……っ、じゃなくて、炎!?」
「て事は、雹だな!?」
 事実確認を済まし、(炎の姿をした)雹はがぃーんと頭を抱えてショックを受けた。
「って事は、今、僕デコっぱちになってるって事!?あぁ----いやだぁ---------!!!なんで僕がこんな仕打ちを受けなくちゃならないんだ-------!!」
「だーかーらー、どうしてお前は俺のセリフを先取りするんだ!!お前の姿になってるって事だけで、俺は反吐が出そうなくらいだよ!!」
「ちょっと!僕の身体でそんなもん吐かないでよね!」
「俺の身体と声で「僕」とか「でよね」とか言うなぁぁぁぁぁぁ!」
 蕁麻疹が出そうな炎様だった。
 で、そんな時。
 ばたばた、と慌てたような足音が聴こえた。
「雹!?何だ、今のデカい音は」
「「爆!」くん!!」
 取っ組み合い寸前の体勢のまま、振り向く。爆だった。紛れも無く爆だった。
 雹みたいなヤツにでも、心配とかするのか。優しいなぁ、爆は。でもちょっとお人よしで俺はそれが少し心配なんだぞ(by炎)。
 とりあえず、爆にも事情を話さないと。炎は呼吸をゆっくりして、少し冷静になった。
「あのな、爆。信じられん話かもしれんが……」
「いや、何でも無いぞ、”爆”」
 ……え?
 今言ったのは、俺の声で俺の口調だが俺じゃないぞ?!
「さ、此処に居ても仕方ないから、”俺”の部屋にでも行こうか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て雹!!」
 さりげなく爆の肩に手を回し、連れて行こうとする雹に猛烈ストップをかける。
「な、何をしてるんだおま……」
 すると、雹が振り返り。
「”雹”?何を解らない事を。雹は、お前だろう」
「は、」
 …………
 …………………
 ……………あ、あ………ああああああああ----------!!!!!
 そ、そ、そ、そーゆー手で行くかぁぁぁぁぁ-------!!?
「なぁ、爆。あれはどう見ても雹だよな?」
「? あぁ」
 よく解らないままに、頷く爆。
「ち、違うぞ、爆!それは違うんだ!俺は雹の姿だけど俺で、でもって俺の姿をしているそいつが雹なんだ!!」
「……と、言うのが今回の計画らしい」
「雹--------!!貴様-----------!!!!」
 叫ぶ炎様は、ぶちぶちぶち、と血管が3本くらい切れたぽい。
 そんな炎とは対照的に、雹は、当たり前のように爆の肩を抱いて。
「爆、あんなヤツはほっとこう」
 雹(爆視点では炎)に頷く爆。
「……そうだな」
 あぁー!爆ー!そんな穢れた者を見るような目で俺を見ないで------!!
 爆に信じて貰えなかった、と炎様はその場で目の幅ある滝のような涙を流して落ち込……んでいる場合じゃない!!
 持ち前の精神力でどん底まで沈んだ気力を奮い立たせ、炎の、というか自分の部屋へ向かう。2人きりになぞさせて堪るか!あれは中身が雹でも外見が俺なんだ!爆も気を許して隙を見せてしまうかもしれない!そう、なにせ外見が俺だから(照)(←照れてる場合か!)。
 止まる時にぎゅきゅるるぃぃい!!という音を奏でる速度で疾走し、炎は自室の前まで辿り着いた。
 そして入ろうとして。
 ピーッ!バシュン!
 レーザーに攻撃された。
「な、何……!?」
 何故だ。どうして俺が攻撃……
 ……… あ、そーだ。
 此処のセキュリティは、前は他のと同じ暗証番号キーでドアの開閉をしてたんだけど。替える度に雹がハックしてくるから、指紋と網膜センサーに変えたんだっけ。
 で、俺は今は。雹の身体で。
 当然照合しない訳で。
 ………ああああああああああああ!!!!
 炎は悶絶した。これほど自分のした事が裏目に出ようか、て事態に遭遇してしまった事に。
 いやだって誰も普通自分と他人の身体が入れ替わるだなんて思わんだろう!あぁ!そうだ俺が相手にしてるのは普通じゃないヤツだったな!こりゃ一本取られたよハッハッハ!!!
「笑ってる場合か--------!!」
 自分のモノローグにずびー!と空中に突っ込みを入れた動作で、またレーザーに攻撃された。




 いや!まだ手はある!
 スーツの右肩部を少し焦がした(雹の姿をした)炎様は、廊下を激走した。
 目的は、他ならぬ自分の姉である。万が一の事を考えて、全部の部屋のマスターキーと渡してあるのだ。そう、あの炎の部屋も。
 レーザーは何とか避けるし、ドアだって術で吹き飛ばすこともなんとか出来るだろうけど、そこまで強烈な術をぶちかましたのでは建物全体に影響が出る。そうなると管理している姉上に怒られて爆に触れるのを謹慎させられてしまうかもしれない!そりゃ勘弁!近親なだけに謹慎とか上手い事思ってる場合じゃないぞ!!
「------っとぉ、姉上!!!」
 広いテラス部で優雅にティータイムしている天を発見。他、現郎とか激も居る。案外、爆が雹の部屋へ向かったのも、これに誘うのが本来の目的だったのかもしれない。
「これはいい所で!姉上!」
「まぁ、雹。わたしは貴方のお姉さんじゃありませんよ?それにもう弟は沢山」
 にこやかにざくりと来る言葉を言ってくれた。本人に他意は無いだろう。……多分。
「そうだよ雹。何言ってんだよ」
「馬鹿だなー」
「まったく雹様ったら」
 皆が笑ってる。あははと笑ってる。お日様みたいに笑ってる。自分も、あの輪の中に入れたら……いかん、うっかりあまりに辛い境遇に現実から逃げ出したくなりそうになった。
「じ、実はですね!」
 と、炎はこれまでの事をざっと説明し、
「そんな訳で、今爆が雹と2人きりで危ないので、マスターキーを貸してください!!」
「…………」
 皆は。
 全部の説明を聞き終えた後。
 どあはははははは!!!
 と、大爆笑した。まぁ、無理も無い。
「ナイス雹!此処最近一番の爆笑もんだぜ!」
「違う!ネタじゃない激!!」
「雹、疲れたらまず寝れ」
「疲れちゃうわ現郎----!!」
「ほらほら、雹様。ケーキですよ、ケーキ。美味しいですよ〜」
「あやすなチャラ--------!!!!」
 炎様突っ込み返しに大忙しである。
「あのなぁ、雹」
 と、激が諭すように言う。しかしクッキーを食べながらという時点でその説得力はいきなり半減している。
「炎に爆取られて悔しい気持ちは嫌々ながら解るけど、もう諦めろよ。爆が迷惑だろ」
「いや、そんな。取ったというか貰ったというか〜」
「……なんでそんな嬉しそうなんだ?」
 は、そうだ嬉しがってる時じゃない!後でゆっくり嬉しがろう!
「だから!本当の本当に俺は炎なんだよ!中身が入れ替わったんだって!!」
「ンな訳ゃ無ぇだろ(即答)」
「いいか!?いくら雹だってこんな滑稽無等な話で押し通そうと思うか!?」
「思う(即答)」
「ああ-----!!何で雹の信頼の無さと計画の稚拙ぷりを今ここで俺が痛感しなくちゃならないんだ-------!!」
「天姫様、まだあんな事のたうちまわってますが、どこかに幽閉しますか?」
 そのセリフ、雹相手なら花丸あげる所なんだがな、現郎………
 あぁ、爆が、俺の爆が雹の毒牙に……っ!!
 あれ?でも身体は俺なんだから別に問題は、ってあるに決まってるだろう!!
 いい加減自分の思考回路も覚束無くなってきた様子の炎様。
 そんな中、でも、天は。
「……貴方、本当に炎なの……?」
 炎(と言うか雹というか)の顔を覗きこむ。
 それに、は、と顔を上げる。
「姉上……信じてくれるんですか……?」
「信じるんですか?雹様ですよ?」
 と言うかチャラ、お前主人を信じてないのか。
「チャラ。マスターキーを」
 天は凛として言った。
「え、でも」
「いいから」
 言われるまま、チャラは取りに行く。
「あぁ、姉上………」
 色々あれやこれや、そりゃもう1人の男取り合って命がけのガチンコしたこともあったけど、やっぱり世界でたった2人の姉弟なんだ。解って欲しい時、解ってくれるんだ……
「でも、」
 と、炎が血の絆ってものに感動の涙を流していると。
「その前に、やっぱり確認させてくれる?炎なら、きっと答えられるわ」
「はい、何でも聞いて下さい」
 じゃぁ、と天は言う。
「貴方、何歳までおねしょしていたかしら?」
「え。」
 何聞かれてもばっちり答えてやるぜと自信満々だった炎の表情が強張る。
「おねしょ。おねしょだってよ。あいつしてたのか?」
「まぁ、王子っつっても普通の子供と何が変わる訳でもねーし」
 何か、こそそこと現郎と激が話してる。
「どうしたの?解らない?」
 天が言う。
「い、いや、その……他の問題では、」
「解らないの?」
「………」
 何故だそのこれに答えなきゃ貴方偽物なのねみたいな流れは!
 ど、どうしよう。沢山の観衆の前で(チャラも戻ってきました)答えるにはあまりにこっ恥ずかしい質問だぞ。
 でも、答えないと……時間が……!!爆が………!!爆がぁぁぁぁ〜〜〜!!
 炎は。
 考えて考えて考え抜いて。血の涙を流すくらいの覚悟を決めて、自分のプライドより爆の貞操を取った。
「………8歳までです」
「そうと、8歳!8歳まで癖が抜けなかったのよね。やっぱり貴方は炎ね!」
 姉上、そんなでかい声で8歳って言わんでも!(血涙)
「おい、8歳だってよ。そこそこおっきいじゃねぇの?」
「笑っちゃ失礼ですよ、激様。笑っちゃ」
「まぁ、王子っつっても普通の子供と何が変わる訳でもねーし」
 3人が言ってる。こそこそ言いながら肩が震えている。
 もういっそ爆笑でもしやがれ!と言いたいが、言えば本当に爆笑するだけだろうだから、涙呑んで止めとく。
「では、これで……」
 多大な代償を払って手に入れたマスターキーを持ち、炎は血の涙の乾かない内に部屋へと向かう。
 が、ふと。
 炎は、天に訊きたくなった。
「……姉上」
「なぁに?」
「まだ、怒ってます?」
「いやね、そんな事ないわよ」
 ちょっとしか。と、言った。




 そんな風に炎様がどんもり打ってたり血の涙流してたりしていた時。
 雹と爆はというと。




 ばたり、とドアが閉まるのを、雹は妙に冷静に聞いていたように思う。
(ふふん、悔しいけど僕にでも敗れない難攻不落のこの部屋だ。絶対来ないとまではいかないけど、時間は、ある)
 何の時間かは伏せよう。何の時間かは。
「……って、つい此処に来てしまったが、母さんがお茶に誘……」
 言いかける爆の手を取り、ベットに並んで腰掛ける。
「まぁ、いいじゃないか。折角2人きりになれたんだから、もう少しこのままでいよう」
 じ、と目を覗き込んで言う。何だかんだで爆には正攻法でストレートなのが一番効く。
 案の定、早速薄っすらと頬が色づいてきた。んでもって慌てる。
「な、何言って……!だいたい、昨日も此処に居たじゃないか!」
「………………………… へぇ」
 そぉか、僕の目の届かない所で爆くんとよろしくしてたのかあの若ハゲカニ眉毛!!!!
 ま、それは後に取っといて、メインに移ろうか。
 ちょっと言っただけで、真っ赤になって唸っている爆をさらに引き寄せ。
「爆、」
 少し熱をこめた声で、耳元の至近距離で囁く。爆が少し強張る。
 最初に掌全部を使うように爆の頬に触れ、相手に感じさせるように首筋を通って、背中と首の境の所へ。髪を後ろから掻きあげると、爆がまともに戦く。
 その隙に、疎かになった唇に触れる……筈だったのだが。
 べち、と当たったのは爆の掌。
「……どうした?」
 爆の眼は揺れている。悦楽の為というより、戸惑って。
「……違う」
 と、一言漏らした。
「違うって……何が?」
「違う。炎じゃない」
 爆は、そう、はっきりと言った。
 まずい、と雹は内心冷や汗を流す。
「落ち着け、爆。俺は俺だろう?」
 ほら、と見せるように腕を軽く広げる。
 確かに、目の前に居るのは炎だ。変化でも変装でもない。
 でも。
 炎じゃない。
 爆は、はた、と気づいた。
「そう言えばさっき、雹が炎と入れ替わったって……」
「おいおい、あんな与太話信じるのか?」
 とりあえず”苦笑”してみる雹。
「……………」
 見極めるように、睨むみたいに見上げる爆。
 そして、結論は出た。
「炎……!!」
 そう言ったが、目の前の炎は見てはいなかった。
 バレた。
 そう判断した後の雹の行動は早い。
 立ち上がりかけた爆の腕を取り、強引に押し倒す。炎の身体で、それは楽に出来た。
「やめろ!離せ!!!」
「ふー、やっぱり爆くんだね。こんなに早く解っちゃうなんて」
 せめてもう少し進んでからなら、そのまま快楽で屈せてしまえたのに、と言う雹。
「炎の声でそんな風にしゃべるな-----!!」
 何処かずれてる爆のセリフ。
「バレちゃったらバレちゃったで仕方無いや。このまま愉しもうよ。大丈夫、身体は炎だけど中は僕だからさ。
 きっと気に入ってもらえると思うよ、僕のテクニックv」
「ふざけるな!!さっさと退……!!」
「……爆」
 戯れに、耳元で低く呟いてみる。さっきの反応を思い出し。
 すると、爆から力が抜ける。それがなんだか条件反射みたいですげぇ気に食わないけど、今はそれに乗っかろう。
「はは、顔が真っ赤だ。可愛いね」
「このっ……!!」
 睨む。それが、爆の精一杯の抵抗だった。




 でもってこの時の炎様は。
「貴方、何歳までおねしょしていたかしら?」
「え。」
 姉に苛められていた。
 ダメかもしれない。もう。




「このっ……止めろと、言っ……てるだろうが……!!」
「あぁもう、そんなに暴れないでよ。優しく出来ないじゃないか」
 適当に裂かれたシーツで手首を縛られ、爆は足と身体で必死に抵抗していた。
 けれど、肌蹴られた所から入り込んで来る手のひらに、どうしても力が抜けてしまう。違うけど、でも、身体は手のひらはやっぱり炎だから。
 何だか、悔しくて涙が出そうだ。泣いてなんかやらないが。
「やめ……っ!……っ!!」
 わき腹を掠めた瞬間、身体がビク!と震える。それを見逃す雹でもない。
「感じた?」
「……違う!」
「……まぁ、いいけどね」
 もうすぐ、虚勢なんて張りたくもなくなるから。
 クスクスと笑いながら、背けている爆の顔にゆっくりと近づく。
 そして。
「死ねやコラァ---------------!!!!!!」
 バカーンと開いたドアからドギューンと炎様が来てどげしー!と雹を蹴った。思いっきり蹴った。雹様が吹っ飛ぶ。どひゅーんと吹っ飛ぶ。
「爆!大丈夫か!?」
「雹……、じゃなくて、炎か……?」
「そうだ!」
 雹と入れ替わるように炎が今はベットの上に居る。炎は、まず爆の衣服を直してやった。
「良かった……!なんとか、間に合ったようだな……」
 服を直すついでに爆の素肌に跡が無いかもチェックする抜かりない炎様である。
「炎、それより、お前自分の身体思い切り蹴飛ばして」
「今はそんな事気にしている場合じゃないだろう」
「何だか首が妙な方向に曲がっているぞ」
「すまん、やっぱりちょっと気にしよう。
 おい、雹(の魂を宿している俺の身体は)大丈夫か?」
「ふ、ふふふ………」
 あ、やっぱりというか無事だった。
 鼻と口と額から流血しながら雹は立ち上がった。その光景は、いたいけな子供が見たらトラウマになりそうだった。
「炎……!!本当に君ってやつは僕の邪魔ばっかりしてくれるね……!!」
「そしてお前は俺のセリフばっかり横取りしてくれるな。お前が俺と爆に邪魔なんだ。俺が」
「黙れ!今日ばかりはマジで殺す!」
 今の雹は文字通り、目前でエサを取り上げられた凶悪な肉食獣同然である。眼は血走っているし(いや、それは思いっきり蹴られたのかもしれないが)。
「おい、雹、落ち着け。俺を殺したら自分の身体も死ぬんだぞ」
 雹の本気を察知し、宥める炎。
「いいよ。後で整形と植毛するから」
「植毛は必要ないだろう!植毛は!!」
 そんな所に命がけの突っ込みを入れてる場面じゃないと思いますよ、炎様。
「炎!自分に殺される気持ちを、今から言ってみろよ!最中じゃ喋ってる余裕なんて無いからさぁ!!」
 凶刃を振り回し、飛び掛る雹。
「くそ……!!」
 仕方無しに、炎も臨戦態勢を取る。慣れない身体でどこまでやれるか解らないが、とにかく負けるわけにはいかない!絶対に!!
 そう、最悪自分の身体を失ってでも!!
 炎は覚悟を決めた。
 そして。
「バクシンハ」
 ずどぎょむ。
 爆の一撃で、その場はとりあえず収まった。




 そんな訳で全員集合。ティータイムをしつつ、目的は「どーやったら入れ替わった2人の身体が元に戻るか」である。
「はぁー、本当に入れ替わっちまったんだなぁ」
 激が2人を見比べ、しみじみと言う。
「……だからそうだと言ってるだろうが」
 まだ信じてなかった激に、恨みがましく言う。まぁ、逆の立場で自分もすぐに受け入れるとは言い難いけども。
「つまり、”おれがあいつであいつがおれで”、ってヤツですね」
「ドラマ化して”どっちがどっち”ってやつだ」
「あほな事言ってないで、ちゃんと考えてやれ」
 爆が2人に言う。
「爆くんの言う通りだよ。もっと真剣に考えてよね、こうなったら一刻も早く戻りたいんだから。こんな額がやたら寒い身体なんておさらばして」
「……殺ス。戻ったら絶ッッッッ対殺ス」
 炎は呪詛のように言った。
 まず、激が顎を摩りながら言う。
「まぁ、こういう時のセオリーとして、取っ組み合ってごろごろ転がるかしたら元に戻るんじゃないかと俺は思うんだが、どうだろう8歳までおねしょしていた炎」
 ご。
 炎はテーブルに撃沈した。
「お……おま……っ!激………!!」
「どうした8歳までおねしょしていた炎。俺に何か異議でもあるのか8歳までおねしょしていた炎」
「…………ッツ!!!」
 爆笑を裏にこそっと隠した顔で言う。そうだ、こいつはこういうやつなんだ。
 炎はこの日。怒りで声が出なくなる、という体験をした。
「……へぇ、そうだったんだ……ぷぷっ……」
 雹に聞かれたぁぁぁぁぁぁぁ------------!!!!
「炎、そういうのは個人差なんだから、気にする事は無いぞ」
 爆に慰められたぁぁぁぁぁぁ------------!!!!
「もう……俺、どうだっていい……どうだっていいんだ………俺なんて……」
 打ちのめされた炎は、真っ白な灰になった。名前が名前だけに燃え尽きたようだ。
「あーあー、本格的に沈みやがって。おぼっちゃん育ちはこれだから」
「ほら炎様、誰も貴方が8歳までおねしょしていたから電信柱が高くて郵便ポストも赤いんだなんて言ってないですから、しゃんとして」
「…………」
 いっそ殺してくれ。炎は、思った。
「んなうだうだ考えてねーでよ、頭同士ぶつけたら元に戻るんじゃねーの?」
 眠たそうに乱暴な事を言ったのは当然現郎だ。
「ちょっとそんな……」
「おい、現郎……」
「お、いいね、それはナイスだ。
 て事で」
 ごづ!!!!!
 2人の文句を遮り、タメとか間の取り方とか全く考えないで激があっさり実行する。
 そして、大きいというか痛そうな音が室内に木霊した。その発見源の2人はそのままばたり、と机に伏している。
「……で、これで元に戻らなかったらどうします?」
 チャラが言う。
「そん時ゃ取っ組み合って土手をごろごろと転がり落ちてもらおう」
 爆は鋭い直感で理解できた。こいつら、ただ楽しんでいるだけだ、と。
 さて。
 2分経過。
 3分経過。
 5分経過。
「……………」
「激、オメーどんくらい強くやったんだ?」
「ん?MAX」
 発音よく言った。
「……………」
 10分後。浄華の光が満ちる。




「あー、酷い目にあった……」
 炎がぐったりして呟く。
 激が力いっぱいやったのが幸いしたのか、2人は元に戻っていた。まぁ、戻った時というか、眼を覚ました時に激も交えた三つ巴になりそうな所を現郎と激と天が止めたりとまた色々あったのだが。
 確かに。
 今日、炎は自分で言う通りに酷い目にあった。
<酷い目一覧>
 ・頭部に損傷を受けた。
 ・雹と入れ替わってしまった。
 ・爆が襲われかけた。
 ・8歳までおねしょしていた事がかなりの人数にばれてしまった。
「……………」
 泣くな!泣いたらもっと悲しくなるぞ!と炎は自分を叱咤した。
(……あれ)
 そう言えば、と炎は思い返す。
 そんな時。
「入るぞ」
 無遠慮に爆が入ってくる。この部屋に入れるのは、自分と爆だけだ。
「…………」
「……何だ、人の顔をじっと見て」
 まじまじと見詰める炎に、爆は意図が解らない。
「なぁ、爆。いつから俺が俺じゃないと解ったんだ?」
 自分が突撃した時、なんだか無理やり押し倒されていたし、爆は自分を見てすぐ「炎」だと言った。その前に、目の前の「炎」が「雹」だと気づいていたんだろう。
 爆はその質問をされると、う、と言葉に詰った。爆にしては珍しい、とちょっと呑気に炎は思う。
「それは、その……なんとなくだ」
 触れられた時、とはあんまり言いづらくて、爆は言葉を濁した。
 はぐらかして、追求されるかな、と思っていたら。
「そうか、何となくか……」
 炎は、なんだか嬉しそうだ。
「何となくで、解るんだな」
 はっきりと、理論整然と説明立てられるより、その嬉しい。
 炎は微笑む。
「…………」
 まぁ、確かに。
 触れられた時に解ったのだが、どうしてかは解らない。炎の身体で、炎の体温で。仕草だってそんなに変わってた訳じゃない。なのに、何故だか解ってしまったのだ。
 自分は炎がとても好きなのだと言い聞かされているようで、爆はなんだか顔が熱くなってきた。
「爆、」
 そんな爆を知ってか知らずでか、炎は爆を引き寄せる。
 その腕も身体も、「さっき」と特に違うでもないのに。
 爆は、酷く安心してしまっている自分を、自覚した。




<END>





これ書き上げるのに4日くらいかかったんですよ……うっひゃぁ。
いつかやりたかったのよね、人格入れ替わりネタ!王道!ベタ!!
激とカイ、というパターンと最後まで迷ったんだけど、結局炎と雹にしちゃいました。何が決め手だったのか、自分でもあんま解りません。

しかし炎VS雹は楽しいやね!テンション高くて疲れちゃうけど!!
でもって最後は無理やりほのぼので閉める。でないとただのギャグだからネ!一応これは炎爆よ、炎爆☆

VSの醍醐味は当人同士のセリフのやり取りと外野の無責任は発言、んでもって天の最強ぷりとそんな中でも自分を見失ない爆くんを書く事です。