爆は何かの番組に見入っているようだったが、自分は読みかけの本が気になったので、身体は一緒の方向を向いていても、テレビの内容なんて、てんで耳にも入ってなかった。
「あ」
だから、爆が唐突に声を上げた理由も、炎にはすぐ解らなかった。
「どうした」
ふと本から顔を上げる。
「あのCMがまた流れた」
爆の言う「あのCM」というのは、奥様方を中心に大ブームを巻き起こした韓国ドラマの某主役の事である。これでもか、というくらいニュースやらで取り上げるので自然に覚えてしまったらしい。
「別に人の顔にあれこれケチを付ける訳じゃないんだが……どうして、こんなに人気が出たんだろうな」
研究者みたいに何でも理解しようとする姿が、ちょっと可愛かったりするのだが、口に出すと怒られるからやめておこう。
そして、炎が再び本に意識を戻そうとした時、爆が言った。
「あれより、炎の方が余程いい男なのにな」
「っ!?」
バサリ、ゴ!
ハードカバー使用の本だったので、落とた時、床にぶつかりそれなりの音がした。
「…………………」
自分は今、どんな顔をしているのか……多分、真っ赤だろうけど。
「炎?本、落としたぞ」
何やってるんだ、とちょっと動いて本を拾い、炎に手渡す。
「爆、お前………」
「ん?」
「い、いい男って………」
爆は自分の発言の爆弾っぷりに気づかないのか、むしろどうして炎は慌てているんだろう、みたいな表情をしている。
「だって貴様は別にブサイクって訳でもないだろう?」
「それは……まぁ……」
「だったら、オレは可笑しな事、言ってないだろう?」
「……そうだけども………」
「変なヤツ」
いや、そう言われるのは不本意だ。
不本意だが……爆が変な訳でもないし。
炎が、どうやったら自分の心境を解って貰えるだろうか、と考えていると。
「今から紅茶を持って来るが、炎も居るか?」
「あ、あぁ………」
ホットだからな、と付け加え、爆はキッチンカウンターの向こう側に行った。
「………………」
今のは一体何だったのか……天然なのか、計算なのか。
どちらにしても、自分が振り回されているのには違いが無いが。
それにしても。
自分だって、ブラウン管の中のどのタレント、芸能人より爆が可愛いと常々思っていたのに、怒るだろうからと黙っていたのに、それを爆が言ってしまうだなんて、ちょっとずるいんじゃないだろうか。
爆が紅茶を淹れている間、炎はそんな妙な怒りを起こしていた。
(よし、もう、止めよう)
怒られるから、と自分の言いたい事を押さえ込むのは。
まぁ、その時は怒るだろうけど、その後はきっと許してくれる。
何せ、自分は爆の中で、”アイツ”よりいい男だから。
紅茶を運んだ時、炎の笑顔が妙に開き直ったみたいにさばさばしているように思えたのは、爆の洞察眼の鋭さ故だった。
<END>
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