爆が産まれた日はね、とてもよく覚えているわ。
その夜、あの高い樹の真上に水色というか、空色の星が見えたの。
最初は真からの贈物かしらと思ったんだけど、後日違うのが来たから、多分空気の屈折とかの関係で、たまたまそういう色に見えたのね。
真からの贈物?それは、秘密。
と。
道徳の授業の一環で、自分の産まれた日の事を母親に訊いた爆は、そんな惚気混じりの話を聞いた。
ちなみにその空色の星は、それ以降見た事がないので、本当に偶然の産物だったらしい。
「そう言えば爆、今年のケーキはどんなのがいい?」
爆の誕生日は間近だった。
「母さんが作りたいのを、作ればいい」
爆はそう答える。それが結局、自分の食べたいものだからだ。
「爆」
と、現郎が呼ぶ。
「誕生日の夜、こっそり抜け出して来れるか」
「…………」
爆は少し考え。
「風呂に入るのはこっちに来てからでいいのか」
「違う」
現郎は即答した。
「誕生日のプレゼント。気ぃ張りすぎてでかくなっちまったもんで、とても手渡し出来なくてな」
「どれくらい大きいんだ?」
爆がそう訊くと。
「大きい……いや、広いっつった方が……うーん、ある意味小さくもあるかもな。まぁ、その時になりゃ解るよ」
それはそうだが、その時の前に知りたいから訊きたいんじゃないか。爆は思う。
まぁ、朴念仁という単語を世に確立させる為に居るのだというような現郎が、やる気を出してくれたんだ。野暮な事は言うまい。
それも、自分の為に、してくれたのだから。
そして誕生日の夜。実際に歳を取るのは誕生日の次の日、とかいう話をぼんやり思い出しながら、爆は現郎の家までやってきた。
「来たぞ」
「おー」
とても招き入れているとは思えないような、間延びした声で出迎える。
「ご馳走やらケーキやらはたらふく食っただろうから、茶でも飲んどけ」
「あぁ」
現郎の淹れてくれた「茶」は、パステルグリーンをしていた。一見ミントのエキスを入れたミルクかと思ったが、ミルクの味ではない。強いて言えば……いや、だめだ。いくら考えても当て嵌まらない。
でも、美味しい事は間違いなかった。
「で、現郎。プレゼントやらは何処なんだ」
手渡せない程の規模だと言うが、室内や庭には何もない。
現郎は、うーんと頬を掻いていて。
「渡した……と言えば渡したと言えるし、そーじゃねぇと言えばそうでもねぇ」
「何をわからん事を……」
と、言いかけ。
現郎のセリフを思い出す。
”大きい……いや、広いっつった方が……うーん、ある意味小さくもあるかもな”
広い。
広い……それでいて。
小さい。
窓の側に立ち、外を見る。
城跡の公園が見え、広く高い丘には樹が沢山、小さな森のように生えている。
其処から、ひょっこり一本だけ高い樹がある。
そう、その樹に。その樹の上に。
空色の、星が。
<END>
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