ピンク・カーネーション



 お家のママには赤色カーネーション
 お空のママには白色カーネーション

 だけど、どっちに居るかも解らないので、
 イチゴ・シロップにミルクを一滴垂らしたような色をした

 ピンク・カーネーション




 ”いいか現郎、一ヵ月後のこの日に必ず来るんだ。
  来ないとデッドに習った最大級の呪いを貴様に飛ばす”



 来いと言われたものの、何処とは言われなかった。
 ので、寝心地のよさそうな、高台にある草原で横になって待った。
 横にはなったものの、寝れは出来なかった。
 何となくだが、呼ばれた理由が解ったような気がする。
 だってこの日は。
 子供が貯金箱を開けて、でも買うのはオモチャでもお菓子でもない。

 花を買います。
 赤い。
 白い。

「ちゃんと来たな」
「呪われちゃかなねーからな……」
 爆が、来た。



 横になっている自分の横に座る。
 そして開口一番に。
「知っているんだろう?」
「何を」
 声に出してのやり取りは初めてだったが、会うたびに雰囲気では語っていたんだろう。
「……オレの両親の事」
「……………」
 少なく喋るのは賢い。多いと、必ず襤褸が出る。
 そして、相手に推理させる材料も与えない。
「知っているんだろう?」
「…………」
 2度目の問いに、返った反応は違った。
「何で」
 と、現郎が言う。
「俺が知ってると思う?」
「お前だけが、全部見ていたから」
「……まぁな」
 全部、見てきた。
 見た、だけだった。
「俺が言わないって事で、察しちゃくんねーかな」
 言えない。言える訳が無い。
 彼が流した涙や血、受けた傷は、自分が間接的に与えたようなものだ。
「お前しか知らないんだ。お前が言うしかないだろうが」
「……他にも、居るぜ」
 かつては導き、今は共に道を行く人。
 そうとも、彼こそ語るに相応しい。
「誰を言いたいかは、解っている」
 それはそうだ。自分よりも会っている。
「でも、そいつも言わないんだ。と、いう事は、そいつも貴様に言って欲しいんだ。
 オレに」
「………………」
 ざあ、と金糸を風が混じる。
「……オレも、お前に言って貰いたい」
「見殺しにしたヤツの口から?」
「…………」
 そう言えば、引くかと思えば。
「やっぱり……オレの親を知っているんだ」
 めげない。
「……現郎」
「…………」
 こんな時にそんな風に名前を呼ぶのは、簡便して欲しい。
 言いそうになるじゃないか。
 ……………
 ……いや、違う。
 ”言えない”弱さを思い知らされるじゃないか。
 全ての事情を打ち明けて、人は自分をどう見るだろうか。
 耐えて立派?辛いことを一人全部抱え込んで。
 違う違う。
 それしか、出来ないんだ。
「現郎」
 爆の声の質が変わった。
「母の日のカーネーション……親が居る子は赤い色のを、居ない子は白いのを飾るんだ」

 でもオレは
 どっちか解らないから

 いつも、ピンク色のを飾っていたんだ

「……………」
 この季節の風は、薫る風だと誰かが言った。
 淡い花の香りがしそうなのは、この日だけだが。
「……お前が……言わないと決めたんなら……」
 それでもいいと思ったけど。
 でもどうしても、言って欲しかったのだと。
 自分から。
「もう、この事はお前に訊かない」
 もう、2度と。
「現郎、炎によろしく言っててくれ。後、お前だけでも息抜きに来い。激に顔でも見せてやれ」
 それじゃあな、と爆は立ち上がり。
 歩いて行く。
 びゅう、と一段強い風が自分を急き立てる。
 この風を起こしたのは、どっちだったんだろうか。
「爆!」
 叫んだ。実に久しぶりだ。
 爆が驚いて、振り返る。
「カーネーションは、赤だ!」
 父親はもう居ないけれど、母親は。
 存在を変えて、役割も人とは違えたけど。
 それでも、此処に居るのだから。
 優しく、腕で抱きしめているのだから、この世界ごと。
 だから。
「赤だ!!」

 今はこれだけ。
 もっと強くなったら、もっと言おう。

 ピンク・カーネーションはもう飾らない


<END>



……あ〜っ、久しぶりにマトモな爆受け書いた……!(達成感!!)

やっぱマトモな爆受けは現爆ですネ!

や、前々からこの話のプロットはあったんですがね。
母の日と結びつけたら、と思ったのは最近。
そうでないのとこっちのとでは、こっちの方が良かったので、前にアップしないで本当に良かったですよ。

爆に全部を語ってくれるのは、現郎さんが良いです。何となくね。