何で日本でバレンタインにチョコが贈られるようになったかっていうと、それまでチョコがさっぱり売れないもんで、どうしたものか、と出された商売戦略の賜物だ。
それを言い出したヤツは今日のバレンタインの様子を見てどう思うだろうか。
まずびっくりして……次に喜ぶか呆れるかは微妙なラインだ。
下手すりゃ正月三が日が終わった後から、店内の一角にチョコレートが陳列される。
そんな日だから、学校が休日、てだけじゃ、てんで妨げにもならなかった。
2月14日……今年は土曜だったから、直接家に来て……
……ドアのチャイム音が暫く耳から離れなかったな。
朝の10時から始まって、夜の8時まで。オマエら仮にも俺が好きだってんなら、安眠を提供しようって考えはしなかったのか?
そんな俺の無視出来ない災難で、思わぬ幸福を授かったヤツも居る。
隣に居る爆だ。
箱を2つならべ、指で交互に指し、「どちらにしようかな」とやっている。
俺の貰ったチョコの数々は、確実に爆の腹に収まっていた。
「うん、これは美味いな。当たりだ」
ホクホクとした顔でチョコを頬張る。
俺があーとかんーとか言ってる間に一方的に押し付けられたチョコは、積み上げればちょっとした山が出来る程だった。
一応俺も本命(爆)が居る身だし、義理はともかく本命は断ろうか、と前日まで思っていたのだが、忘れていた。
義理を渡す為に直に家まで来ないって事と、本命は渡すまで帰らない、って事をだ。
隠すにしては無理がある量に、俺が少し途方に暮れていると、爆が来た。
てっきりそのまま、「実家に帰る」とか言われるかと思いきや、爆の口から出たのは「コレで暫くおやつに困らんな」、だった。確かに、1週間は軽く持ちそうだが。
「オメーさぁ……」
「ん?」
貝の形をしたチョコを食べながら、爆は向いた。
「よく食えるな」
「これは結構甘さ控えめだぞ」
「そうじゃなくて。
俺が貰ったチョコだぞ」
「あぁ、それで?」
「そのチョコ、全部俺の事が好きだって言って渡されたんだぞ」
「チョコはチョコだろ」
などと言ったこの口は、以前「貴様にはムードや浪漫というものが無い」と文句を零していた。
実に小憎たらしい口だ。
いっそずっと塞いでいてやろうか。チョコも食えないくらい。
うん、我ながらいい案だ。
「爆」
「ん?」
隣の爆を更に引き寄せ、胡坐の上に座らせる。
ピンと来たものがあったのか、爆が降りようとしたが、阻止。
「……何をするんだ!」
「逃がさねー」
いつもより抵抗が激しいな、とは思いながら、片腕で爆を封じ、もう片方で顔を強引に向けさせる。
ついさっきまでチョコを食っていた爆から、重ねても居ないのに甘い吐息を感じた。
「ちょっと待て!しないとは言わんから!」
「じゃー何だってんだよ」
余りに激しく暴れるものだから、さすがに膝に抱えては難しい。
いっそ床に押し倒すか、とそれを実行しようとした時。
爆から思いもかけない一言が飛び出た。
「今したらチョコと間接キスになる!」
…………
…………………?
チョコ、と……間接キス、?
一体何なんだそれは?と考える一方、この数日チョコを食ってばかりの爆の姿を思い浮かべる。
そして、この発言。
2つから導き出されるものは……
「あー……ヤキモチ?」
と、俺が言った途端に、腕の中の爆の身体が揺れ、手はきゅう、と拳を作った。
「……最初から……貴様なんかに……」
すごいたっぷりの間を置いて、爆が言い出す。
「貴様なんかに、断る甲斐性、求めてないからな!」
うわ、俺の評価、低。
「一応断ろうとは思ってたんだぜ?でも向こうが中々引かなくってなー」
「それで折れるから貴様はダメなんだ!」
声を荒げて言う爆に、やっぱりきちんと断っとけばよかったかな、と思う反面、こういう爆が見れて儲けたと思う反面。
あ、そういえば。
「オメーはくれねぇのかよ、俺にチョコ」
「貴様……毎晩あれほどオレを貰っといて、まだ足りんと?」
あぁ、貰ってたんだ。奪われてるばかりかと。
ま、貰ってるとしても。
「足りねぇな、全然」
「これ以上やったら、オレが何もなくなるぞ」
「いいじゃねぇか。別に。
その分俺をお前にあげるから」
「それじゃ、オレ達……」
「ん?」
「そっくり、入れ違ってしまうな」
「そうだなー……」
唇はダメだから、首筋に跡を残す。
その時、甘い香りが鼻腔を擽ったけど、それがチョコによるものか、別の何かによるものか。
答えは、俺の勝手な判断で下される。
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