一体何をすればいいのか 何をしたらいいのか 何をしてもいいのか 何をしたらだめなのか
誰か、教えろ
制約の多いこの世界
土曜日の朝。 何も無い日、10時以前に俺が起きる事は無い。 そうして、のっそりベットから上がって、居間に着くと。 まるで自分の家に居るみたいに、勝手に紅茶を入れて朝食を取ってる爆が居る。 ……爆が居た。 先週、あんな事したんだ。 そう、着てる筈が……… 俺は単に寝汚いだけで、低血圧な訳ではない。 けれど、今日は何だか手足が重い……きちんと眠れなかったせいが大半の原因だろう。 前は、いつもは横になって目ぇ瞑るだけで眠れたってのに…… 鉛が入ってるみたいにだるい手でガラス戸を開けると。 そこには、勝手に紅茶を入れて朝食取ってる爆。 「現郎。いくら休みと言ってももうちょっと早く起きたらどうだ……って、此処で寝るな!!!」 違ーよ……思いっきり脱力してんだよ…… 「オメー、この前、俺”もう来るな”つったよな……?」 「あぁ。でもオレはその件に関して頷いていないぞ」 だから成立しない、と胸を張る爆。 ……いかん。確実に真の教育を身に着けていやがる…… 「その様子だと、貴様、まだオレを好きだと自覚してないな?」 「……好きじゃねーっての」 何度目だこのやり取り。 フローリングにへたり込んでても何もならないんで、とりあえずソファの下に移動。 ソファは座るもので凭れるものじゃないぞ、と何度言われても、この姿勢が一番落ち着くのだから仕方ない。 「現郎」 もぎゅもぎゅとクロワッサン・サンドを食べ終えた爆は、俺の前まで来て座る。 「多分、貴様はオレの事、”なんでこんな唐突に変な事言ってんだ”とか思っているんだろうが……」 爆が俺を真っ直ぐ見る。 「オレは、今までずっと考えて、悩んで、色々思ってこの結論を出したんだ。 オレは現郎が好き。現郎もオレが好き。 答え出してやったんだから、貴様は素直にそれに甘えればいいんだ」 「爆……もし、俺が本当にオマエの事が好きだったとしても、そのセリフはあまりにも勝手じゃねーか?」 「勝手なのは当然だろう」 ふん、と爆はまた居丈高に。この自信は何処から来るのか(多分親譲り)。 まぁ、とにかく爆は言った。
「オレはお前を好きでいたんであって、幸せにするつもりなんかさらさら無いんだからな」
「……………」 俺は。 爆から”好きだ”と言われて思った事は、それを否定しなければという事だった。 俺を好きになってもどうしようもないだろう。 およそ”恋人”に向いていない性格だなんて、自分で一番よく知っている。 おまけに同性だし、年も結構離れてるし。 幸せになんてなれる訳ないだろう。
なんて思うのは、やっぱり。
コイツの事が
”好き”
力の抜ける言葉。 主張はしないのに確かに其処にあって、目を背けなければ見えてしまうモノ。 でもその言葉にお前が”幸せ”を付随させないなら。
俺は
俺も
瞬間、俺は意識が真っ白になって、どさり、と横に滑った。 爆が俺を呼んだかもしれない。 とにかく、俺はようやく。 自覚した途端。 無事、睡眠にありつけた。
目を覚ましたら、夜だった。 爆は帰ったんだろうか。思った途端鼻腔を擽る匂い。 「起きたか、現郎」 ひょい、とキッチンから顔を覗かせる爆。 「この冷蔵庫食物らしい食物、まるで入ってないな。毎度の事だが」 「……人ン家の冷蔵庫勝手に漁ンなよ」 この匂いだと炒め物系か何かだろうか。 ふとそんな憶測をしながら、俺はキッチンのカウンターに凭れる。 「ずっとここに居たのか?」 「買出しには出かけた」 「ふーん……」 ずっと側に居た訳か…… 動かない俺の気配を察知してか、爆が徐に振り返る。 「つまみ食いは許さんぞ」 「しねーよ。エプロンしろよ。油が撥ねるぞ」 「だったら貴様が買え」 あー、可愛くねぇ可愛くねぇ。 「なー、爆」 「何だ」
「俺、お前の事好きだ」
フライパンを掻き混ぜる爆の手が止まる。 また振り返って。 「やっと、認めたか」 ため息付きで言われた。 「もう少し感動しろよ」 「当たり前の事を言われて感動しろと言われてもな。難しい」 なんか告白されて、悩んで自覚して返事したってのに、何も変らねーでやんの。 て言うか戻った? こんな俺らを見て、俗に言う”世間一般の人々”はそんなの恋愛じゃないとか言うんだろうか。 ま、それこそどうでもいい事だな。
「………で?」 信じられない、て顔をして正面に座っているのは激。 とっ捕まって、事情を説明しろと迫られた。 「その日の内にヤっちまった、ってのか?」 「だってアイツがしてーっつったんだから」 冷たいジャスミン・ティーを啜る。 以前爆に飲ませてもらって美味かったのを覚えていたからこれにした。 「……だから、、てヤるかよ……フツー…… あーあ、好きになった相手がこんながっついた狼だったなんて、爆、かわいそー」 「あのなー。誘ったのは向こうだっつーの。 それに、アイツが可哀相だとかなんて、俺にゃ関係無ぇし」 「うわ、鬼畜発言!」 「そーゆー事じゃねぇんだよ………」 意味を履き違えているだろう激はそのままに、ジャスミン・ティーの最後の一口を飲み干す。 なんか飲んでたら、爆に会いたくなった。
ピンポーンとインターホン。 やや間があって、ドアが開く。 「現郎、鍵は?」 「持ってるけど……開けんの面倒臭くってなー」 全く仕様の無いヤツだ、と呆れ顔の爆。 その姿を全部収めて、俺の眉間にも皺が寄る。 「おまえ、また俺の服着て…… まさか、そのまま外出たりしてねーよな?」 服を着る自体はなにも問題は無いんだろうが、何せ爆はその際、下を履かない。 身体を締め付ける物が好きじゃない爆は、時計やベルトはしない。 が、ズボンくらいは履いてもらいたい。 「それくらいの分別はあるに決まってるだろう」 「さー、どうだかな……」 その言い方にム、と来たのか、爆は俺の頭を引寄せて、首筋に齧り付く。 「3日は消えないからな、それ」 勝ち誇っている爆に、俺もその首元に顔を埋めた。
俺はこいつを幸せにしたくて好きになったんじゃない
好きだから、好きになったんだ
”俺は爆の事が好き”
無視は出来ない否定も出来ない
そうしたら、俺が俺で無くなる
これが俺の世界の基盤
全てに基づくものだから
|