”インソムニア” て、何ていう意味だっけ。 あぁ。 ”不眠症”て意味だ。 ……何でこんな事思ってんだっけ。 あぁ。
今、まさにそれなんだ、俺が……
不眠症……てどんなものかは知ねーけど…… 眠いのに寝れない、てのはその症例なんだろうか…… 「うを?うっちゃんてば、小難しい専門書なんて読んでんな?」 図書館で睡眠のメカニズムについて書かれている本を読んでいると、何処から湧いたのか激が隣から覗き込む。 「何読んで……”眠れない人達”? な……っ!?オマエがこんな本読むなんて……!魚がスイミングスクールに行くようなもんだ……!!」 「激……図書館は本を読んだり借りたりする所で、喧嘩を売ったり買ったりする所じゃねーぜ……」 まぁ、実際売られた所で買わねぇけどよ。 バタン、と本を閉じた。ハードカバーのそれは、結構大きな音を立てた。 「……やっぱ、クスリか……」 「薬は最後の最後の最後くらいの手段に取っておく方をお勧めしたい。オメー、耐性が簡単につきそうだし」 どういうイメージなんだ、俺は。 「ところで、なんでまたお前が一生縁が無さそうな症例に引っ掛かってんの? 話だけ話してみたら?俺に」 「……聞くだけ聞くだけなんだな?」 「うん」 即答だった。 まぁ、……激はいかにも口が軽そうなひょうきん者だけど、言っていい事と悪い事が解る人間だ。 言うだけ言ってみるか。減るもんでもなし。 「……爆にコクられた」 「あー、とうとう?」 ……………………… 「何だ………そのいかにも以前からその節がありましたとかいう意味を含んだ返答は……」 つーか、それがあるべき姿と捉えているのがおかしい。大変おかしい。真も、激も。 最近……自分が一番の良識人に思えてなんか嫌だ……(そんな柄じゃないのに)。 「ひょっとして、オメーが寝不足なのって、それが原因?」 「あぁ、そうだ……」 やけくそに返事をすれば、ぷーッ!と噴出してくれた激。 「いやー!お前も可愛い所あんのなー!いや、いい意味で見直してんだぜ?見直して」 信じられねぇ。 「で?爆に返事したのか?」 「した……でもアイツ全然諦めねーで押しかけてくるから……」 こんな言い方するおと、俺が眠れなくなったのは、爆が押しかけるのが原因みたいだけど…… 違う。 眠れなくなったのは、爆を、追い出してから…… 「ふぅん?」 何かを見透かすみたいに、激が笑う。 「オメー、断り続けてんだ?」 「まーな」 「らしくねぇな」 「あ?」 嫌な事を嫌といい続ける、俺の何処が俺らしくないってんだ。 「いいか、現郎、長年の親友の立場として、ズバリ!おまえが寝ることが趣味だ!!」 ……別にンな立場に立って言う事じゃねぇと思う…… 「もっと言えば、寝るのが好きなヤツだ。お前は。 それが邪魔されるくらいだったら、キライなヤツとのデートもするんじゃねぇの?」 「あー……するかもな」 「してねぇじゃん」 「…………」 「ダメだといい続けるより、一回頷く方が遥かにラク。 自分には全く気が無いんだから、向こうが勝手に飽きてくれるのを待てばあとくされも無い。 今までは、そうして来たんだろ?」 「…………」 まぁ、激の言う通り…… しつこく言い寄る相手には、適当に相槌打って、……打つだけ。 キスはするけどデートは無し。お互いの誕生日なんて関係ねぇ。クリスマスは寝て過ごす。 交わす最後のセリフは決まってこれだ。
”貴方って、つまらない人”
悪かったな。これが俺だよ。 「爆にはしないんだな」 「…………」 だって、ガキは付け上がるの無限だろ…… なんて言い訳が頭で空回った。 「ついで言うと、これでお前の不眠症も解決出来る」 「あ〜?」 一端の学者気取りで激は言う。 「俺はさっき言ったな?現郎は寝るのが好き。 つまり、寝れない今のお前は現郎でないという結論が出る」 「激……”突拍子も無い”とか”脈絡も無い”とか言う言葉知ってるか?今のお前がそうだ。知っとけ」 「さて、それでは、現郎君を現郎君で在らぬ者と変えたきっかけは何でしょうか?」 無視かよ。 学者(仮)の激はまだ言う。 「前の現郎と、今の現郎。 前は何をして今は何をしていない? 前は何をしていなくて今は何をしている?」 「……………」
前は爆と居て、今は爆と居ない。 前は爆を否定してなくて、今は爆を否定している。
激が言う。 「結局、受け入れるのも、拒むのも大変なんだからな」
”好きを本気で否定するのも、それはそれで”好き”だと思うぞ”
この前の爆のセリフが過ぎる。
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