プラトニック・デパーチャ




 普通、告白をした相手には会いづらくなるのではなかろうか。
「あ、現郎、アッサム買ってないな。残り少ないと前々から言っているだろう」
 全く、と文句を言いながら、湯を沸かしにかかる爆。
 爆のこんな所は母親似だな。真は、紅茶と来たら自販機の中の缶しかないと思っていた頃もあった。
 休日、爆はふいに訪れては勝手知ったると俺の部屋でくつろぐ。
 それは、爆が1人で行動できるようになってからの恒例だ。
 に、しても。
 俺は以前にクラスメイトに告白された事がある。勿論付き合うのなんて面倒くさいんであっさり断ったけど。
 その後とのえらい違い……
 全く話さなかった訳ではないが、以前のように、こうナチュラルにはいかなかったと思った。
 もしや。
 爆の中で、あれは無かった事になってる、とか……
 突拍子もなかったもんなぁ、色々と。
 紅茶を無事淹れ終えた爆が、俺の横に腰掛ける。
 まずは一口、何も入れずに飲んでから、向き直り。
「で。
 オレの事を好きだと認めるようになったか?」
 脱力。
 クラゲよろしく、ソファから崩れ落ちる俺。
「どうした」
 マグカップを抱えたまま、ひょい、と覗き込む爆。
「………まだ言うか」
「何が」
「俺は、オマエの事は、好きじゃねーっての」
「現郎、自分を偽るのはよくない」
 あ、何だか頭痛までしてきた……
「爆……仮にも俺を好きっていうなら、俺を困らせんなよ……」
「オレは困らせてるつもりは無いぞ。
 貴様が困っているのは、頑なに認めないのが原因だ」
 ああ言えばこう言う。
「……俺は、オマエが好きじゃねー」
 何かの呪文みたいに呟いた。
 爆は紅茶を飲んでいるから、反論はしなかった。
「だいたい、オメー、俺と晴れて両想いになって何をするつもりなんだ」
「そんな事は、決まっている」
 爆は言った。


「まず、キスをする」
「…………」


「それから、セックスをする」
「…………」


「それで、現郎を独占する。
 こんなもんだな」
「……………」


 ……俺は、何も言わずに立ち上がり、爆を抱き上げた。
 爆は特に何の反応も示さない。
 次に、玄関へ言って、爆に靴を履かせた。
 そして。
「………此処に、もう来んじゃねぇ……」
 喧嘩を売るみたいに、脅すように言った。
「何でだ」
「何でもだ」
 ガチャリ、とドアを閉じた。
 鍵を掛けた音が、やけに無機質じみてて。
 ……爆の遠ざかる足音。
 マグカップを持たせたままだというのに、今、気づいた。




 ………あいつ、かなり、本気だ。

 そして、俺も、かなり、キていた。






子供の本気を舐めるなよ、ていうテーマなのです。
次か次で終わる予定。は、未定。