プラトニック・デパーチャ,2




 爆の両親共通の親友だったりなんかした俺は、だからちょくちょく世話も任されたりもしたもんだ。
 世話をした、と言っても、幼児の頃になればまるで放任。
 散歩は外に出て、俺はベンチに寝転んで爆はこの時間までに帰って来いよ、なんて言うだけ。
 それで何も無かったのは、爆が俺の言う事をきちんと聞き分けて、実行したからだ。
 ----今から思えば、爆は自分が何か問題起こすと、俺に責任がかかって二度と世話出来なくなる事を、理解した上なんじゃないか、なんて思う。
 爆は、親譲りの聡い子供だったから。
 特に、人の感情に関して。



 花を貰った、と言って帰って来た。
 俺はてっきり、何処かの気前のいいおばさんでも、自分の家の花でも切って寄越したのかと思ったが、とんでもなかった。
 花と言うか、花束。
 ダイヤモンドリリーを主にして、シルクの布で覆った----花嫁が持つブーケだ。
「お前……何処で貰って来たんだ」
「教会を通り縋ったら、貰ったんだ」
 確かに、この近所には教会はあるが、奥地も奥地。参拝はともかく、式を挙げるには不都合な場所だ。大概その後、披露宴もしなければならないのだし。
 ……と、言う事は。
 それをする必要の無い、カップルか?
 そして、ブーケをまだ子供の爆にあげるなんて……
「……爆、他に誰か居たか?」
 首は横に振られた。
 やっぱり。
「好きなだけじゃ、いけないのか?」
 爆がいきなり窺った事を言うから、噴出しそうになった。
「そんな事、言ってたぞ」
 あぁ、聞いただけか……
「そうだな。それだけじゃ済まない事もあるな」
 ふうん、と爆は頷き、
「好きじゃなきゃ、何も始まらないのに」
 帰る途中に、爆が言った。
 これも聞いたセリフか自分のセリフかは、忘却の彼方。



「現郎、寝不足か」
「……寝てる」
 ボソリ、と呟いた。自分でも地を這うような、と表現したい。
 そう、寝てはいる。
 寝てはいるのだが……見る夢は決まって爆の夢で。
 脳の休息、という面ではまるで意味を成していない。
「真……どーにかしろよ、お前の愛息子」
「ん?」
「俺に言い寄ってきやがる……」
 それで、俺に対してでも爆に対してても、”何たることだ!”と憤慨でもしてくれるか、と思ったら。
「ああ、やっぱりな」
「”やっぱり”?」
「俺と天の子供だからな。お前を好きにならない筈が無い」
「……………。
 待て。もしや、俺に爆の世話任してたのって……」
「図った事だ」
 図るな。
 間髪置かずそう切り替えしたかったが、衝撃の事実で俺は脱力しきってしまった。
「下手な相手に惚れて傷つくよりは、な。
 その点お前は俺もよく知っているし、安心して任せられる」
「……俺の意思ってヤツは?」
「何だ、お前、爆が嫌いか?」
「そういう問題じゃねぇだろ……」
 ”常識”なんて自分の柄じゃねーけど……
 今はその単語をコイツに欲した。
「だったら、どういう問題なんだ」
「…………」
 そう真に言われて、浮かんだ夢の中のセリフ。

”それだけじゃ、済まない事もある”

 あの時、俺、どんな気持ちで言ったんだっけ………?
 妙に実感篭っていたのだけは、覚えている。






ちょっと過去話。
作中が現郎の1人称なんで、出なかったけど、花嫁からブーケ貰う時、
「私のじゃ縁起が悪いかしら」
「大丈夫だ。オレにはもう相手が居るからな」
とかいう会話があったのです。

真。珍しいポジにしてみました。
後押し推薦派です。
ていうか、ウチの真、激にだけやたら厳しいんですけどね。