爆の両親共通の親友だったりなんかした俺は、だからちょくちょく世話も任されたりもしたもんだ。 世話をした、と言っても、幼児の頃になればまるで放任。 散歩は外に出て、俺はベンチに寝転んで爆はこの時間までに帰って来いよ、なんて言うだけ。 それで何も無かったのは、爆が俺の言う事をきちんと聞き分けて、実行したからだ。 ----今から思えば、爆は自分が何か問題起こすと、俺に責任がかかって二度と世話出来なくなる事を、理解した上なんじゃないか、なんて思う。 爆は、親譲りの聡い子供だったから。 特に、人の感情に関して。
花を貰った、と言って帰って来た。 俺はてっきり、何処かの気前のいいおばさんでも、自分の家の花でも切って寄越したのかと思ったが、とんでもなかった。 花と言うか、花束。 ダイヤモンドリリーを主にして、シルクの布で覆った----花嫁が持つブーケだ。 「お前……何処で貰って来たんだ」 「教会を通り縋ったら、貰ったんだ」 確かに、この近所には教会はあるが、奥地も奥地。参拝はともかく、式を挙げるには不都合な場所だ。大概その後、披露宴もしなければならないのだし。 ……と、言う事は。 それをする必要の無い、カップルか? そして、ブーケをまだ子供の爆にあげるなんて…… 「……爆、他に誰か居たか?」 首は横に振られた。 やっぱり。 「好きなだけじゃ、いけないのか?」 爆がいきなり窺った事を言うから、噴出しそうになった。 「そんな事、言ってたぞ」 あぁ、聞いただけか…… 「そうだな。それだけじゃ済まない事もあるな」 ふうん、と爆は頷き、 「好きじゃなきゃ、何も始まらないのに」 帰る途中に、爆が言った。 これも聞いたセリフか自分のセリフかは、忘却の彼方。
「現郎、寝不足か」 「……寝てる」 ボソリ、と呟いた。自分でも地を這うような、と表現したい。 そう、寝てはいる。 寝てはいるのだが……見る夢は決まって爆の夢で。 脳の休息、という面ではまるで意味を成していない。 「真……どーにかしろよ、お前の愛息子」 「ん?」 「俺に言い寄ってきやがる……」 それで、俺に対してでも爆に対してても、”何たることだ!”と憤慨でもしてくれるか、と思ったら。 「ああ、やっぱりな」 「”やっぱり”?」 「俺と天の子供だからな。お前を好きにならない筈が無い」 「……………。 待て。もしや、俺に爆の世話任してたのって……」 「図った事だ」 図るな。 間髪置かずそう切り替えしたかったが、衝撃の事実で俺は脱力しきってしまった。 「下手な相手に惚れて傷つくよりは、な。 その点お前は俺もよく知っているし、安心して任せられる」 「……俺の意思ってヤツは?」 「何だ、お前、爆が嫌いか?」 「そういう問題じゃねぇだろ……」 ”常識”なんて自分の柄じゃねーけど…… 今はその単語をコイツに欲した。 「だったら、どういう問題なんだ」 「…………」 そう真に言われて、浮かんだ夢の中のセリフ。
”それだけじゃ、済まない事もある”
あの時、俺、どんな気持ちで言ったんだっけ………? 妙に実感篭っていたのだけは、覚えている。
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