「現郎、現郎」 「んー?」 「寝るぞ」 「ん」 「そのままの意味じゃないぞ」 「んー」
ここまでになるまで、これでも色々あった訳で。
「あー?今何言った?」 「だから、貴様が好きだと言ったんだ」 「誰が」 「オレが」 「俺を?」 「お前を」
一体何処が何処でどう血迷ったのか、毎度恒例「爆の両親出張で、現郎宅にお泊り」という過去何度もあった一連のイベントは、途中まで滞りなく進んでいたと言うのに。 就寝前、30分。 爆からとんでもない言葉が飛び出た。 そして、現郎は言葉の意味をよく考えていた。よく考えないと、解らなかった。 普段、授業なぞこれっぽっちも聞かなくても、テストでそこそこの点数が取れたのは、頭が良い訳でなく、単に記憶力だけが良かったんだな、と、そんな事を同時に思う。 自分の耳が正常で、意味をそのままに捉えたのなら、このどう見ても「子供」の部類に入る爆は、それなりに「大人」な自分に好きだと言った。 ”好き”。 ”好き”。 どんな、言葉だっけ? 現郎の言語理解能力が、極端に低下した。 「……そりゃまぁ?昔からちょくちょく面倒みてた相手なんだから、」 「違う。そういう意味じゃない」 爆はふるふると首を横に降る。 「オレは、”爆”という個人として、”現郎”という人物を好きになったんだ。 今まで世話になったとか、家族みたいだとか、そういうものじゃない」 毅然ときっぱりと言った爆の後ろに、現郎はその親、特に父親の影を見た。 ----あいつも、物分りいいフリして結構偏屈だったよな…… なんて思いだしていた現郎の頬を、爆は両方からペチン、と叩いた。 叩いたというよりは、挟んだ、といったほうが良いか。 「………????」 「自分を好きと言った相手を差し置いて、他のヤツの事を考えるな」 現郎は、待て待て待て待てちょっと待てーと連呼する。 「勝手に終わらすなよ。俺は、お前が俺を好きだなんて認めねーぞ。家族愛以外」 「貴様は家族とキスしたいと思うか?セックスしたいと思うか? もし、貴様がそうだというなら、オレも家族愛だと認めよう」 「セック…………おめー、何言ってるか解ってんのか?」 「解っている」 キン、とそのセリフは室内に響いた。 夜、テレビも消して、携帯電話の電源も落として。 その声の羅列は、よく響いた。 「解って、いる」 「…………」 自分の頬を打つため、爆は膝に乗りあがっている。 そう言った爆の唇。見る目。聞く耳。 触る指先。 それら、全てが現郎に訴える。
-----あぁ………
コイツ、本気で真剣なんだ
本気で、好きとか言ってんだ。 真剣に、好きになれって言ってんだ。
「……………」 そ、と現郎の手が伸びる。 それは爆の手を辿り、こめかみを過ぎ、首根っこを掴んだ。 そしてひょい、と簡単に退けられる。 「俺は、オメーが好きじゃねぇよ」 好きである訳がない。 好きである筈がない。 好きであって良い訳が無い。 「そして、お前も俺が好きじゃない」 「オレは現郎が好きだ」 「お前が何百回言っても、信じねぇよ」 「オレの感情だぞ」 「それは俺に向けてんだろ?」 だったら、決定権は自分のもの。 そして判断を下した。 ”それは、錯覚” 「ま、長ぇ人生、何度もあるこった」 ぽん、と頭を叩いて、”もう寝ろ”。 それで、明日からは昨日までと同じになる----筈だが。 「現郎」
好きを本気で否定するのも、それはそれで”好き”だと思うぞ
………どうやらそれは甘い考えみたいだ。
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