たった一瞬だから目を逸らさないでね
いつでもね
「と、言うわけで今から寝るぞ」 「了解」 「明日の起床時間3時」 「了〜解」 「午前の」 何かの作戦会議みたいに、ベットの上で現郎と爆は向かい合っていた。 言われたセリフに、現郎はえーと、と頭をゆっくり左右に揺らす。 「午前3時って事は……午前の3時だな」 「あぁ。午前2時の1時間後で午前4時の1時間前だ」 爆はどんなに愚鈍な人間でも解るようにと、ゆっくり丁寧に説明してやった。 ただ今の時間午後5時。……この時間に寝ようとしていて、午後3時に起きるのだと判断した現郎に恐ろしいものを感じる。 「………何だってそんな時間に」 普通の人なら言われてすぐ出る質問を、現郎はようやくした。 「ちょっと、久しぶりに見たくなったんだ。 夜明けの頃の、太陽が昇らないで光だけが届く時間に、世界がどうなるか興味は無いか」 「無ぇ」 「持て」 爆は命令した。 「……明るい夜、とでも言えばいいのか。 不思議なくらいに闇と光が混ざって、その色はとても、とても綺麗な」
群青色になる
その日、正確に言えばその日の前日だが、何があったかは定かでは無い。 都合が重なり誰も居なかったのか、あるいは怖い話を聞いたり、恐ろしい体験でもしたのか。 覚えている事は、自分が眠れなくて、殆ど夜を徹したという事実だけだ。 そうして、その時に見たのだ。 綺麗な青。 晴天の空でも、夕暮れとの境目でもない青い色。 とても幻想的に、空を染め、街を染め、世界を染め、そして自分も染まっていたに違いない。
「-----………成る程。オメーの思い入れはよく解った」 一通りの話を聞いた現郎は、とりあえずそう返した。 「だからオメーだけで見て来いや。俺は寝てるから」 と言って早速寝ようとする現郎。繰り返すが今は夕方の午後5時だ。 「ダメだ。現郎と一緒じゃないとダメなんだ」 「何でだよ」 「その色に、貴様の髪の色はとてもよく映えるに違いない。オレは、それが是非見たいんだ!」
そして現在----午前3時。 二人はリビングに居た。 「あー……こんなに早起きして……健康に悪ぃな……」 「たっぷり9時間も寝ておいて何を言うか。寝るなよ」 ”早起きは3文の得”と言うが、3文くらいの得なら寝ていた方がずっといい、という現郎が、他の人が寝ている時間に起きているというのは奇跡に等しい。 まさに愛のなせる業だ(笑)。 「何だったら、眠気覚ましにするか?」 「いい……横になったら即寝る」 「オレが上に乗ってもいいが」 「ンな殿様セックス好きじゃねぇ」 そんな事をつらつらと言いあっていると、夜の闇が淵から薄れていく。 「もうすぐだぞ」 「んー」 さあ、っと薄い光が走り、闇を少しだけ削いで行く。
そうして世界が、爆の好きな青に染まった
「……今、起きてるヤツって、オレ達以外にどれだけ居るんだろうな」 「地球の裏側は昼だから、たくさん」 「そういう可愛くない事を言うな」
全てを包み込む程に深い青は、けれど朝日が昇ると同時に消えてしまった。 あっと言う間だった。 「現郎……現郎?」 肩にずしり、と重みを感じれば案の定現郎の頭が圧し掛かっていた。 まぁ無理をさせたから仕方が無いか、と爆は握った拳を解除した。 よいしょ、と身体を横にしてタオルケットを上に掛ける。 リビングの床は寝る為に設計はされていない。 が、それで起きる現郎では無いのは解り切った事だ。 その寝顔を見て、しかし本当によく寝るやつだな、と爆は今更に思った。 現郎は寝てるとして……自分は何をしようか。 現郎と並んで仮眠でもしようか。 それとも今から準備して、凝った朝食にでもしようか。 でもとりあえずは、さっきの余韻に浸ろうと、爆はゆっくりと目を綴じた。
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