「現郎、もう12月だから」 と、いう爆の台詞で、きょとーんとしていた現郎は、合点がいった、とぽん、と手を打った。 そのリアクションに、やはりか、と爆は隠さずに溜息を付く。 (この2人にして)珍しく、都市の中心街に来ていた。 そうして街へ出て……数々の装飾品や、まだ光は灯ってないイルミネーションに、現郎は何でだろうか、と首を捻っていたのだった。 「気が早ぇな」 「まぁ、何でも楽しもうという心構えはいいんじゃないのか?」 浮かれる人の雰囲気も、弾む街のBGMも、2人の周りだけ平常の空気を取り戻しているようだった。 現郎と爆にしてみれば、クリスマスなんて12月の中の1日でしかない。 だからターキーも出さない。ツリーもない。 隣にはちゃんといつもどおりに居て、それだけでいいじゃないか。明日も居て、明後日も居て、12月の24.25日だって居る。 クリスマスだからって、はしゃぐ気には全然ならない。隣に居たのが違う人であれば、こんな考え方を持つ自分はかなり批難されるだろう。 そう思うと自分はいい相手を選んだ。 選んだ、という以前にこれ以外有り得ないのだが。 周りに踊らされるのは嫌いだ。自分達がしたい時に、したい事を、たいだけする。バレンタインでなくっても、チョコをあげたいし、クリスマスでなくてもケーキは食べたい。そう、今日でも。 「此処」 ぴ、と爆は目の前の大きなデパートを指差す。 「此処の地下街は、12月25日までケーキの専門店で埋め尽くされるんだ」 「…………………」 「今日は、煙草吸ってもいいからな」 どうも行きたがってたのは、こういう裏があったのか。 現郎はしかめっ面になり、爆はそんな現郎に悪びれる訳でもなく言った。
小さなグラスに水を入れて、その中へドライアイスをポチャン。ケーキの保冷用に入っていたものだ。 「楽しいか?」 爆の問いにこっくり頷く現郎の視線の先には、ぶくぶくと気泡を浮かべ、もわもわと漂う乳白色の二酸化炭素。 何事にも無関心な現郎が珍しく執着心を覗かせるのが、爆の事とドライアイスを気化させる事だった。 じー、と凝視しているだけの現郎で、嬉しそうにも楽しそうにも全く見えないが、興味の無い事には目もくれない普段の素行から比べれば彼の言う通り楽しいのだろう。 変わってる。 その一言に尽きる。 「オメーも変わってるよな」 まさか変わってる、という批判を下した当人からそんな台詞を吐かれるとは。爆は心中複雑だ。 「何がだ」 「買って帰るよりその場で食っちまった方がいいんじゃねーの?」 そう、だいたい……と言うより、店で食べる事はほとんどない。 「店で食べるのは好きじゃないんだ。何て言うか、その場所の雰囲気に飲み込まれると言うか…… 自分で食べたい所で食べたいんだ」 「例えば俺と2人きり」 「アホ」 と、言ったが実は図星だ。 好きなケーキ、好きな紅茶(←これも店で食べない一因)そして隣に現郎。何よりの贅沢だと思う。 一口分を取って口に運ぶ。 「美味いぞ。食べてみるか?」 背後から抱き締める現郎に運んでみる。ちょっと思案してから現郎は口に含んだ。現郎は、爆がケーキを食べるのは好まないが、ケーキ自体はそれほど嫌いでもない。
食べ終わった皿やフォークなどを洗い片付け、爆は現郎が居るであろうリビングへ戻る……と。 「………現郎?」 現郎が机に突っ伏していた。 寝ているという可能性は低い。寝る時は所構わず床に寝そべっているからだ。 「現郎」 片を揺さぶってみて、ようやく合った現郎の双眸は寝起き直後のようにぼんやりとしていた。 これは……… 「………酔った、みてぇ………」 そう呟いたのは、現郎。 「酔った……って何時………」 そこまで言ってはた、と気づく。 「……さっきのケーキか?」 確かにあのケーキには、コニャックがとても効いていた。が、爆には全然平気な程度だ。 「う〜〜……ふらふらする………」 現郎は酔いが身体へと廻るタイプで、気分が高揚したりする事はないらしい。 「貴様は本当に酒に弱いな。ひょっとしたら、オレより弱いんじゃないか?」 「う〜〜〜………」 とりあえず立たせて、ベットへと導く。さすがに此処では風邪を引く。 何とか、寝室へ辿り着いた。 現郎を寝かせて、毛布をかけてやり……ベットサイドへ腰掛け、ちょっと意地悪な笑みを浮かべて、小さい子を寝かしつけるかのように、頭を撫ぜてやる。 何度も。 「……やめろ………」 半分以上眠った小さな声だ。何とも迫力のない抗議。 「現郎だってオレにするじゃないか」 「俺はいいんだ」 「我が儘」 こんな事をされて、何が腹立たしいかって、不本意なのに心地よい眠りに誘われてしまう事だというのを、爆は良く解っていた。 ち、と小さく舌打し、現郎は白旗を振る事にした。瞼が降りる。 程なくしてかすかな寝息。 こうして眠っているのだから、少なくとも悪い酒ではないらしい。 完全に夢の世界へ落ちた現郎を、爆は優しい笑みで見つめる。現郎もまだ見た事のない微笑みだが、その内見る事だろう。 ベットの上にある上半身だけ、現郎に寝そべる。このまま一緒に眠ってしまおうかな、と思ったが色々やり残している雑務が頭を過ぎり、それは断念した。
たがだかクリスマスというだけじゃ 自分達の正常を乱すのにはあまりにも力不足で
こんな誰かが産まれた日なんかよりも 貴方が居るのが余程特別
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