ドンド・ライク・スモーキー





 久しぶりのこの香り。
 けれどその物の性質故か、ゆっくり味わう事はせず、ただ単に肺に送りこんでは吐き出す。それだけ。
 自分の前に紫煙が曇る。その現象を2回ばかり目にした所で取り上げられた。
「……危ねーぞ、オイ」
 何せまだ火は付いたままで。
 しかも後ろから身を乗り出し、ひょい、と取ったのだ。自分も危ないし、相手も危ない。
「また、吸ってる」
 ガクン、と首の力をまるで抜いて、上を仰げば逆向きの爆の顔が至近距離にあった。
「何時から起きてたー?」
「ついさっきだ」
 と、爆が言うからにはついさっきなのだろう、と現郎は取り留めの無い事を思う。
 もしかして自分が煙草を吸ってるのを感知したのだろうか。
「何で吸うんだ」
 取り上げたはいいが、どうしていいか解らず。持ったままで爆は訊く。
 段々と長くなる灰を見て、今度は現郎が爆の手から取り上げる。
「お前が持つには10年早い」
 勿体無い、と携帯用の灰皿に煙草を押し付ける。この家には普通の灰皿は無い。
 現郎は確かあったような気がするのだが、たぶん爆が処分したに違いない。
「あーあ、服に灰付いちまって……」
「いいんだ。オレのじゃないから」
「つーか、俺のだ」
 やれやれ、とそのままズルズルと横に倒れた。
 本来寝るべきである位置から90度ずれた姿勢で、伸ばした手と足がベットからはみ出る。
 ギ、とスプリングが軋んだ。
 爆が自分に圧し掛かり、爆の四肢が自分を戒める。
「もうしねーぞ」
「何で吸うんだ」
 見当違いな事を言う現郎に、爆は再度訊ねる。
「……んで、そうこだわる」
「現郎が吸うからだ」
 現郎が吸わなかったらこだわらない。
 ……現郎は何だか”卵が先か、ニワトリが先か”という議論をやらされてるような気がしてきた。
「……身体の心配、とか」
「そんな訳あるか」
 取りあえず、煙草を禁止する代表的な理由を述べてみた。
 違うだろうな、と思えばやっぱり違った。
「だよなー、あまり健康的な暮らししてないし……」
 例えば、こんな事とか。と、唇を寄せれば、首を振り、拒まれる。
 誘う事が多い爆が断るのは、結構珍しい。ちょっと面食らう。
「そんなタバコ臭いキスはしたくない」
 という爆の一言であぁ、成る程と現郎は納得した。
「今度、激にでも匂い消しの方法でも聞いてくるかー」
 これで万事解決。かと思いきや。
「違う」
 爆からはまだ否定の声が。
「どうして、吸うんだ」
「……そういう気分もあるんだよ」
「どういう気分だ」
 堂々巡りに嵌る会話に、さすがの現郎もいらついて来た。
「オメーなぁ……」
「……口寂しいから吸うんだろう?」
 剣呑な雰囲気に圧される事も無く、ましてや距離を作る事も無く爆は言う。
「オレが居るのに、口寂しくなるのか」
「………………」
 今度こそ、謎は全て解けた(てどっかの探偵の孫か)。
「煙草にヤキモチか」
「オレが居るのに」
「オメー寝てたじゃねーか」
 よいしょ、と軽く爆を持ち上げ(勿論寝たままで)自分の胸へと寝そべらす。ちょっと見てラッコの親子よろしくだ。
 まるで小さい子を寝かしつけるかのような真似だが、あえて爆は気にしない事にする。
「あと、現郎の味を邪魔されるのも嫌だな」
「……俺って味、あんのか」
 ある、と言ってから、子供ながらに妖艶な笑みを浮かべる。
 ふーん、とそれを眺めて。
「じゃ、オメーも甘いモン食うの禁止」
 現郎の申し立てに爆はきょとんとする。
「何でだ」
「爆の味が解らなくなるから。……だいたいンな甘いクセにもっと甘くなってどーする」
 現郎はどちらかと言えば辛党寄りだった。
「別に構わんだろ。それくらい」
「だったら俺も煙草止めねー」
「ダメだ。煙草は止めろ」
「それだったら甘い物食うな」
「煙草」
「甘い物」
 むー、と2人は暫く睨み合い。

 そして口付けを交わす。


 私は純粋な貴方が好きだから
 余計な物を混ぜないで


好調現爆プラトニック・エロシリーズ(いい加減この名前変えたいと思いつつも他にいいのが思いつかない)。
爆は現郎の口に触れるのが自分の唇以外なのに気に食わない。
現郎は爆の舌に絡まるのがクリームでも許せない。
何より味を邪魔されるのが嫌だ。
どっちもどっち。