フライング盛夏





 とある教室の窓際の前後2つの席で。
 生ける屍2体。
 つまり、カイとハヤテ。
「あ〜………」
「……ちぃ〜」
 2人、示し合わせた訳ではないのだろうが、セリフにはなっている。
 原因は、気温だ。
 まだ一応5月というのに、盛夏がちょっとお邪魔☆と割り込んできたような、今日の最高温度は27度。
 長袖なんか着ようものなら、暑さで死ねる、と思える温度だ。
 しかもこの2人、最悪な事に質量のある長髪で。
 不快指数も他人の3倍はあるだろう。
「……お前はまだいいぜ。バンダナ付きだもんよ」
「や、”めちゃくちゃ凄く暑い”が”凄く暑い”になったくらいで、やっぱり暑いです」
 ハヤテには前髪というオプションもついていた。カイはハヤテの言う通り、バンダナを巻いている。少しはいいだろうが、あくまで少し。快適といい言葉に霞がかかる。
「……こんな暑さは、嫌なんですけどねぇ」
 ばたばたと下敷きを団扇代わりに扇ぎながら、そんな事を言うカイ。
 だったらどんな暑さならいーんだよ、と言いかけて、止めた。多分”暑い”んじゃなくて、”熱い”んだろうから。
 でも。
 そんな2人にも慰めはあった。
 今日は教員達の研究授業があり、半日で帰られる。
 しかも嬉しい事に、中等部の教員もなので、爆と一緒なのだ!ぃやっほー!!
 それを考えれば、こんな暑さくらい、暑さくらい………
「……カイ、茶、くれ」
 自分のは飲んでしまったと言えば。
「私もですよ」
 ちなみに現在2時限目終了後の放課。
 今日の自動販売機前は、戦場になりそうだ。




「……暑そうだな」
「はい、暑いです」
「暑ぃよ」
 半日で帰る、というのは昼に帰る、という事で。
 一番気温が高い時に帰る訳だ。
「しかもよー、上はまだ袖が捲れるからいいとして、下は冬のズボンなんだぜ?
 暑いのなんの。
 お前らは暑くねぇの?」
「僕は天気予報を見ていたので、夏服です」
「オレもだ」
「私もズボンは夏用ですよ」
「………そう」
 何だか自分が凄い馬鹿に思えてならないハヤテだ。
「こういう、季節の節目はころころ気温が変わり易いものなんですよ。
 ですから、体調管理には気をつけて下さいね、爆くん」
「言われなくても、大丈夫だ」
 真剣に心配しているデッドに、苦笑して答える。
「そうですね、暑いからと言っていると、また寒くなったりするんですから。
 無理しちゃだめですよ?爆殿」
「だから、平気だと言ってるだろうが。そんなにオレは頼りないか?」
「大事なんですよ、爆殿の事が」
「………………。
 そうか」
 ふい、と視線を逸らせて言う。
 そんな爆に、カイはまた怒らせてしまったんだろうか?みたいな顔をしているので、ハヤテはこいつ案外天然だなと思った。
「明日は、2度くらい下がるらしいですけど、風が無くて蒸し暑いそうですよ」
 今からげんなりとするカイ。
「だったら、せめて結んでいけば?少しは変わるだろ」
「そう言えば、ハヤテの髪、どうしたんだ?」
 ハヤテの長髪は、後ろで器用に結われていた。
「あぁ、暑い暑いって愚痴ってたら、女子がやってやるーって……………」
「………………」
 隣には、デッド。順番は、左からカイ、爆、デッド、ハヤテの順。
「……べ、別にそいつのことは何とも思ってねぇからな、くれぐれも」
「そんなに言い訳しなくてもいいですよ。
 僕も何とも思って無いですから」
「思って!頼むから!」
「そう言えば伊勢物語に、髪を触らせる事は”わたしは貴方のものです”っていう意味の短歌がありましたね」
「止めを刺すなぁー!」
「それにしても、暑いですね」
「また無視するし!俺はもう泣くぞ!!」
 暑さで参ってる上に無視されて、ハヤテは本当に泣きたい気分だ。
 カイはハヤテの提案どおり、結ぶ事にした。背中が暑くてたまらない。
 シュル、とバンダナを解いて、それで髪を後ろで一括に縛った。これでちょっとはマシだろうか。
 バンダナが無くなったせいで、実は長い前髪がぱらぱらと落ちるのが、少し鬱陶しい。
「何か、冷たいものでも食べたいですね、爆殿」
 笑みを浮かべ、爆を見やる。
 と。
 自分を見た爆は、何だか惚けたような顔をしている。
「?爆殿?」
 暑さで立ちくらみでも?と様子を伺おうとすると。
「-------ッツ!!」
「行きましょう、爆君」
 デッドが唐突に爆の腕を掴み、すたすたと歩く。
「あ、ちょっとデッド殿!」
 何をするんですか!と講義するカイに。
「お前さ……計算高くて薄腹黒だけど……抜けてるよな」
 ぼそ、とハヤテが言った。
 彼もまた、気づいた。
 爆は、バンダナを解いたカイに、弱い。
 けれど、これはデッドに脅されるまでもなく、絶対にカイには伝えないでおこう。
 もうすぐ、本当の夏の盛りがつく。
 爆も大変だな、とハヤテは思った。
 



<END>





オレンジシリーズ〜!!
爆も大変だけど、自分はもっと大変な事に気づきもしない鳥が好き。

爆がバンダナ無しのカイに弱いのは、えっちの時を思い出してしまうからデスよ。
ハヤテはそこまでは解ってませんがネ☆

ハヤテの結われた頭はどんなにしようか……某美人少佐風?(撃たれるヨ)
カイは高く結わうとパイナップルヘッドになっちゃいますなぁ。
今気づいたんだけど、組み合わせが長髪&クセッ毛じゃん。

しかし毎度考えた気のしないタイトルだね。