メール受信・ハヤテ。
メール送信・カイ
内容・「ハヤテ殿、助けて下さい」
助けて下さいとはディープな内容だが、ハヤテは取り分け慌てもしない。
何故なら、来て下さいと指定してきた場所が、ゲームセンターだったからだ。
「よー。どうしたぃ」
「あ、ハヤテ殿!」
センターの一角に、長い夏休みを貰ったお父さんみたいに草臥れた表情で座っていたカイは、ハヤテの参上に立ち上がった。
「ハヤテ殿〜助けて下さいー」
「何をどう助けろってんだよ。説明をしろ」
「UFOキャッチャーのヌイグルミが取れないんですよ」
なるほど。
「もう1000円も使っちゃって……うぅ、夏の為に稼がないといけない身だってのに」
「まぁなー、ああいうのって、”次やったら取れそうな気がする”って感じするから、つい浪費しちゃうんだよな」
うんうん、と頷くハヤテに、全く持ってその通りです、とこれまた頷くハヤテ。
「とりあえず、今度昼飯奢れな」
「……マックで」
「いや、モスだ」
う、とカイは呻いた。
「で」
ジャラジャラと紙幣を硬貨に換えながら、ハヤテは訊く。
「爆が欲しいつったのか?」
「いえ、私が勝手にあげたいな、と思っただけで」
へぇ、と相槌打って、迎え撃つ敵は海洋動物のヌイグルミ。
「あの、シャチのが捕りたいんですよ」
「ん〜?うあ、寄りによって捕りにくそうな……イルカじゃだめなのか?」
「や、シャチがいいんです」
決意は固い、とカイは断言する。
「だってハヤテ殿、考えてみて下さいよ」
「何を」
「シャチ持った爆殿!凄く可愛いじゃないですか!」
「…………」
ぐ、と拳を握り熱弁を奮うカイ。ハヤテは、即行で帰らなかった自分を褒め称えたい。
「やっぱり爆殿にはイルカよりシャチですよ!シャープでクールな感じがぴったり!
おやハヤテ殿、眩暈でもしましたか」
「……少し、な」
もたれたゲーム機から身を起こすハヤテ。
そして、よし!と気合を入れた。
「じゃー、やるぜ。シャチ捕るために他のちょっと捕るから」
「あ、いえ」
ハヤテにストップかけるカイ。
「ハヤテ殿には横でタイミングを教えてもらって、捕るのは私がいいんですけど」
「……面倒な事するなぁ」
呆れ気味にハヤテが呟くと、
「私が取って、爆殿にあげたいんですよ」
に、と悪戯っ子な笑みをカイは浮かべる。
「じゃ、行きますよー!」
チャリチャリ、と100円玉2枚が落ちて行き、ぴろり、と機械が反応する。
「ハヤテ殿!ちゃんとタイミング言って下さいね!」
「あー、判った判った」
「本当にちゃんと言って下さいね!あんまり散財出来ないんですから!」
カイは必死だ。
その姿を見て、ハヤテは思う。
(慣れない事までしちゃって、まぁー……)
こんな風に、今まで縁の無い場所に入り、自分に貸しを作ってまでして。
それでも、多分カイは気晴らしにちょっとやってみたら捕れちゃいましたとか言って爆に渡すんだろう。
そして、爆は聡いから、そんなカイの嘘に簡単に気づき、この馬鹿が、と罵って。
そうして。
きっと、凄く喜ぶのだ。
「取れたー!取れましたぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「さぁ、俺に感謝しろ!」
「神様、ありがとう!」
「主張した側から無視すんなよ!」
そんなハヤテをまたも無視し、カイはシャチのヌイグルミをぎゅ、と抱きしめた。
ついでふふふふ、と笑ったのはおそらく爆を思ったからだ。そんなハヤテの視線に”不燃ごみ”と描かれたゴミ箱を見つけた。
「こういう所のヌイグルミって」
帰る時、カイが言った。
「大体が非売品なんですよねー……欲しかったら、ゲームクリアするしか、無いんですね」
「まぁ、それがウリだからなー。金払って確実に目当ての物が貰えた方が誰だっていいだろうし」
けど、とハヤテは続ける。
「そうして苦労した方が、喜びも増すんじゃねぇの?他に売ってないなら、尚更な」
にやり、とハヤテは口元をあげる。今の発言は、ぬいぐるみを例えに本題は別にある。
ハヤテの意図を汲んだカイは、にこりと笑い、
「私は結構、爆殿とすんなり事に運べましたよ?」
「………ふーん、へぇー、ほぉー。良かったネ」
「はい」
ハヤテがやっぱり見捨ててりゃ良かったと思っても、後の祭りであった。
とまぁ色々あったものの、恋のキューピッドになるのはそんなに悪い気分は無い。
自分の指導の下でゲットしたヌイグルミで、悪友(カイ)と弟分(爆)がいい雰囲気になっているのだとしたら、やっぱり自分も嬉しい。
今頃、爆にあげているのだろうか。
自分も何かデッドに贈ってみようかな。
何がいいだろうか。
(デッドにだから……)
黒猫とかコウモリとか。
…………
だめだ。違う意味で似合い過ぎる。
本人に訊くのが一番だろう。丁度、隣にも居ることだし。
「なぁ、デ………」
隣を見れば。
誰も居ず。
「………………」
て事は、カイの所へ今、デッドが居るのだろう。
……とりあえず。
自分がヌイグルミを捕る手助けをしたのは、黙った方がよさそうだ。
<了>
|