「なー、どっか一緒に行かねぇ?」
と、ハヤテが言い出したのはいつかの放課後。
その前に居るのは、カイ。
…………………
「ハヤテ殿の気持ちはありがたいのですが私には爆殿という身も心も繋がった想い人が居ますので!!」
「わー待て待て俺の言葉が足りなかった説明したいからちょっと待ったぁぁぁぁぁぁああ!!!」
ガタガタガタッ!と荷物をまとめ、出口へ向かってまっしぐらに突進するカイを、ギリギリで捕まえる事に成功したハヤテ。
「だから!お前と爆と、俺とデッドでどっか行かねぇかと訊いたんだ!」
「……あ。そういう意味でしたか」
カイは鞄を抱きしめたまま、バツが悪そうに頭を掻いた。
「すみません。てっきり私、ハヤテ殿があまりにもデッド殿と上手くいかないんで、腹いせに私達の間に荒波立せたいのかと思っちゃって」
ハヤテはグ、と作った右の拳を左手でギュ、と押さえた。
「もうデッド殿には断られたんですか?」
「何ですでに失敗した事になってんだよ!!
普通「もう訊いたんですか?」だろ!!」
「じゃぁ、もう訊いたんですか?」
”じゃぁ”という部分にものすごい引っかかりを感じたハヤテだ。
「まだだよ。これから……ていうか、お前らがオーケーだってんなら言うつもり。
……俺とだけだったら絶対来ないけど……爆が一緒なら行くだろうしな……」
そう、遠い----あまりにも遠くを見つめ、言うハヤテ。
そんなハヤテを見、カイは”あぁ、ハヤテ殿は目的の為にプライドを捨てたのだな……”と悟った。
「まぁ、そういう事でしたら。
私達の事を見て、デッド殿がその気になったら儲けものですしね、ハヤテ殿の為に一肌脱ぎましょう!」
「……お前ら見てるとまず流血沙汰になるから、嫌な方でその気になられそうだなぁ……」
ついでに一肌脱ぐのは俺の為じゃなくて、むしろ爆の前で脱ぐんだろうと。
そんな深夜トークは放課後の学校には似合わないので止めておいた。
「で、何処に行きます?予算とかの都合とかもありますし」
「金かぁ……学生の永遠の課題だよな」
好きな人との夢のひと時を手に入れる為には、まず現実で金銭を獲得しなければならない。
なんだか、矛盾めいたものを感じてしまう。
「バイトするしかないよなー」
「ですね………」
頷き、カイにキラーンと妙案が開いた。
「ハヤテ殿、バイトしましょう。お金貯めましょう!!」
「あ、あぁ、もちろんそのつもりだけど?」
なんだか熱の篭ったカイにちょっと引くハヤテ。
そんなハヤテに気づいているのかいないのか(まぁ、どっちにしろカイにとっては関係無いのかもしれないが)カイは言う。
「今から初めて、夏休みにまでには結構な額が貯まりますよ。
で、ちょっと遠出してですね」
「遠出して」
「宿とって」
「とって」
「ツインで」
「ツイン………」
ハヤテはは、となり、そうして「オッケー!お前の言いたい事は判ったゼ!☆」と親指を立てた。
カイはこっそり言う。
「デッド殿には、最初からツイン2つしか取れなかったと言っておきましょう」
「大丈夫か?デッドが爆と組みたがるぜ?」
「はい、前日にキスマークでも付ければ、爆殿は私と同室にならざるをえないでしょうからv」
「…………。そうか」
デッドがカイを攻撃しまくる理由が、ちょっと判ってしまったような、そんなハヤテだった。
そんな訳で、2人による極めて打算的なエンジョイサマーバケーションの資金巡りの為のバイトが始まった。
2人はそれぞれ、適当に欲しいものをあげ、その為だと偽った。
あとでビックリ、というのもあるが、何より旅行の為だと言って、4人部屋を取られては適わないからだ。
バイト先はとある駅前のカラオケ屋に、2人で勤めた。
駅はハヤテの自宅と学校の中間にあるので、反対方向のデッドが通りすがりで来る確立は少ない(カイが此処を選んだ最重要ポイント)。
バイトは引越し運行の手伝いだと言って置いた。これなら、様子を見に来ようとは、あまり思わないだろうから。
そうして、バイトを始めて1ヶ月が経った。
「来ましたよ」
2人は”いらっしゃい”の”い”の入りかけの口の形で固まり、お辞儀をしようと腰を5度くらい曲げた姿勢のまま硬直した。
デッドが来たのだ。
「デッ、デッ、デッ、デッド殿!?何で此処が……!!」
恐れ戦き、戦慄く指でデッドを指す。
きっと、カイの頭の中ではBGMで「ダーンダーダダー、ダーダダー、ダーダダー」な音楽が流れているのだろう。
「爆君も着てますよ」
「なら、いいです」
「いいのかよ!!」
ころっと豹変したカイに、無駄と思いながらも突っ込むハヤテだった。
ひょこ、と出てきた爆に、ほにゃ、とカイの頬も緩む。
こう言ってはあれだが、バレたらバレたでまぁいいや、と思っていたのも事実。
爆が拝めるのなら、デッドにバレるくらいなんでも……なんでも……
………ちょっと対価はデカいかもしれないが。
「カイ」
「はい」
「……バンダナはしてないんだな」
「はい?」
確かにバンダナはしてない。それが何か問題でもあるのだろうか。
「いや、別に何でもない。
それはそうと、水臭いな、お前もハヤテも」
「……水臭いって?」
バンダナがどうしたのかと問い直そうか、どっちか迷ったが、とりあえずこっちを選んだ。
「旅行の資金なら、オレも協力するのに。何で黙ってたんだ?」
「え」
今、カイの中は「何でバレたの?」という事で一杯だ。ハヤテも然り。
「デッドから教えて貰った。ハヤテが言い出したみたいだな」
カイはハヤテを見た。ハヤテは態度で表せる全てを使い、「俺は言ってない!」とカイに伝えていた。
カイはそれを信じた。
仮にハヤテがデッドに脅されて白状したのなら、デッドの姿を見た時に顕著な反応が見れただろうから。
次にカイはデッドを見た。
するとデッドは「僕に隠し事が出来ようなんて、考え方が甘いんですよ」みたいな笑みを浮かべていた。今、彼は爆の後ろ、すなわち死角にはいっているからこその笑みだ。
「詳しい事とかは決めたのか?」
「あ、いえまだ……」
「なるべく、早め早めに決めませんとね」
デッドが言う。
「”4人部屋”は少ないですからね」
「……………」
見破られてる……何もかも。
2人は顔を見合わせ、力なく笑った。
そんな訳で2人の野望は泡になってブクブク消えた。
しかし2人の野望が消えようが、夏は確実に来るのであった。
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