男はみんな狼。



 定期的にではないにしろ、少し間が空くと誰とも無く言い出し皆で集まって騒ぐ。
 傍から見ると、結構貴重な絆だと思う。
 ともあれ。
 そんな集まりに、当初はあまり爆殿は参加しなかった。どうも、世界の全てを見るのだと、気を張っていたらしい。
 今はそれが少し落ち着いたのか、ちょくちょく現れる。
 ……ピンク殿と一緒に、爆殿が来ないと騒いでいた頃が懐かしい……
 少なくとも、あの頃は、
「爆……寝ちゃった?」
「みたい……ですね」
 ソファの上でこってり眠りこける爆殿。
「何だー?寝ちまったのか」
 ひょっこり現れる師匠。
「そりゃいけねぇな。このまんまだと風邪を引くかもしんねぇ。
 よーし、俺が添い寝してやらぁ!」
 ………師匠。添い寝に脱衣の必要はありませんよ。
 そんな師匠を、背後から雹殿がご自分の獲物でさっくり刺す。
「はん、貴様みたいなのと至近距離にいたら、爆君が穢れちゃうよ。
 爆君に似合う香りはもっと高貴なもの。それはつまり薔薇の芳香。てことはつまり僕。
 さぁ、一緒に行こうね、爆く……」
 カツーンカツーンカツーン。
「……何を勝手な三段論法で自己完結してるんでしょうね……この人は……」
 さっきまでエレキギターで場のテンションを上げまくっていたライブ殿が、何時の間にかデッド殿へと挿げ代わっていた。
 手にしているのは、当然というか、藁人形。
 うわ……雹殿、死相出ちゃってる………
「ふぅ。とりあえず悪の2大巨頭が気絶している間に、どうぞ爆殿を安全な所へ」
 静かな所の間違いなんじゃないんですか、とこっそりツッコミ入れてみたり。
「え……っと、そんな事をして、後は大丈夫なんですか?」
 はっきり言って、この2人は性質”も”悪い。
「平気ですよ……僕にはいざという時の盾がありますし……」
「………はあ」
 その”いざという時の盾”は、何も知らずにチキンを頬張っている(共食いにはならないのかな、アレ)。
「では、私はこれで……と、言うか、そんなにデッド殿に信頼されていただなんて、ちょっと感動ものですね」
 デッド殿はデッド殿で、爆殿をそれはそれは大事に想っている。
 けど、それは私や師匠は雹殿(……同じ類だという自覚はあるんですよ)とは違い、兄弟愛や家族愛の方。ピンク殿のと一番似ているかもしれない。
 だから、そんなデッド殿に爆殿を任せられるなんて、意外というか、嬉しいというか、もしかして公認?というか。
「いえいえ、そんなに深く考えにならずに……
 ……貴方が一般並みの学習能力があれば、前回の過ちを繰り返さないだろうという、打算と思惑に満ちた信頼なので………」
「……………………」
 ……あ、後ろでピンク殿が指の関節バキボキいわせてる。
「い、いや、あれは不可抗力ですよ!だって、爆殿が誘うから!」
「……もう、ヤっちゃっておきましょうか」
「手伝うわ」
「し、失礼しましたー!!!」
 藁人形を取り出したデッド殿と、戦闘態勢に入ったピンク殿から、私は、まさに命辛々逃げた。



 前回は自分の家だったが、今回は爆殿の家で。
 ……別に、他人の家だったら妙な事に歯止めが掛かるだろうとか、そういう意味では……
 ……止めよう。何だかどんどん墓穴を掘っているような気がする。
 勝手知ったるなんとやらで、爆殿の寝室へ向かい、横にする。
 何で知ってるかって……ま、色々あるんですよ、色々……だってほら、自分の所だと師匠が何時来るか解らなくて、おちおち出来もしないし、それにしてもあのときの爆殿は、
 ……って、何想い出に浸ってボルテージ上げてるんだ自分んんんんんんん!!!
 いかん!前回のパターンまんまじゃないか!
 今日こそは何処の骨も折らないぞ、オー!(前回肋骨を3本程やられました)(えぇ、ピンク殿に)。
 
 間。

 ……よしよし、順調だぞ。
 目の前には、ベットですやすや眠る爆殿。
 後は、こっそりおやすみなさいと告げて、私は帰ろう(変な気を起こさない内に)。
 今日はこれで終わる。
 かと思いきや。
 もし、運命の女神がいるのだったら、それは、きっと師匠並みに意地が悪いに違いない。
 ここに来て、爆殿覚醒。
 ああああああ。
 マンガだったらページの半分程を使って『爆殿……おやすみなさい……』とかぽわぽわしたトーンでモノローグを語る場面を終えたっていうのに!
「んんん〜………」
 (こう言うのはどうかと思うのですが)ゾンビみたいにのっそり起き上がった爆殿は、目を擦る。
 どうやた、寝ぼけて……というよりは、酔いが醒めてないみたいだ。
「喉が渇いた……」
 ぽつり、と言った。
「あ、じゃあ何か持ってきますね」
「………」
 返事が無かったが、そのまま飲み物を取りに行く。
 もし戻った時眠っていたとしても、あの状態の爆殿を前に、平常を保つ自信がない……(だってだって、酔った爆殿ってそれはもう凄く何て言うんですか?艶っぽいていうんですか?何ですよ!口調は甘いし雰囲気は気だるげだし、目は潤んでいるし身長差の都合上必然的に上目遣いだし、あ、今何か悪寒がした!もしやデッド殿の呪い!?呪い!!?)
 飲み物を行くのはいいとして、空き家になるのが頻繁なこの家に何があるだろうか。
 あぁ、でも最近はファスタに居る事が多かったし、それならば……
 と、ビンに入ったミネラルウォーターを発見。
 一応、製造年月日を見てみよう……と、したら!
 ドスン!!
「ぐぇッッ!!」
 蛙が潰れるような声って、きっとこんなだな……とか妙に冷静な頭の端っこが思っていたり。
 しかし、この突如背中に圧し掛かった重量の正体は、やはり。
「爆殿!?どうかしたんですか!?」
「…………」
 全く気配を察知出来なかったから、どうも瞬間移動で来たらしい。
 普段の爆殿は、日常生活範囲内では決して術を使わないのに。やはり酔っているみたいだ。
「カイ………」
「------------ッッ!!!」
 ゾクゾクゾクゥッ!と耳元で囁かれた振動が、全体に廻る。
 寒気や悪寒だったら、まだいい。
 しかし、これは……!!
 爆殿は酔っている、酔っている、酔っている……自分でかけるマインドコントロールは、どこまで効くのか……
 と、爆殿の視線が私より下に移る。ん?と思えば、下には無残に割れてしまった、瓶が。
「あああああ、すいません……ッ、!」
 動揺していたせいか、破片の鋭利な部分に触れてしまい、チクッとした痛みが走った。
 見れば案の定、指からは血が出ていた。
 それに対しては、然程でもないが、血が床に滴るのはちょっとまずいかな、と思う。人の家だし。
「爆ど………」
 布か何か貰えないかと、そう言おうとしたのだが、それは永遠に叶わなかった。
 ずっと、私の様子を見ていたらしき爆殿は、無防備とも思える仕草で、私の手を取り。
 そして。

 はくり、と、
 私の指を咥えた。

「…………………」
 頭真っ白。思考完全停止。
 少しざらつく、湿った温かい……いや、熱い感覚が、指を滑る。
「……勿体無い……」
 ふとそんな呟きが聴こえた……ような気がする。
 ちゅぷ、と唾液が揺れる音がした……ような気がする。
 全部の機能が、正常に働いた時には、爆殿はすでに眠っていた。


 ベッドに運んで、今はすっかり夢の住人の爆殿を前に、私は座り込み、ベッドに背を凭れて指をじっと見ていた。
 ………食われた。
 そんな言葉がさっきから警告ランプみたいにぐるぐる廻る。
 ”男は皆狼だから”
 いつか、ピンク殿が爆殿にそう言っていた(何故か、ピンク殿の視線は私を向いていた)。
 爆殿も然り……という事なんだろうか。
 とりあえず、まぁ、えーと。
 ……両想いみたいだから、強姦は無いかな。
 ……………今、すっごい馬鹿な事を思った。

 ちなみにこの後日談として。
 サーの繁華街にて偶然会ったデッド(になっていた)殿に、
「今回は爆くんから仕掛けたのですから……特別に見逃してあげますよ」
 と、いうセリフを述べておこう。
 あと、その後に付け足された、「式神について、もう少し勉強しないといけませんね」という言葉も。
 ……………私、呪われてる?





前回に引き続き、「どうしようママ!カイがお馬鹿さんだよ」話その2。今回は爆殿がはりきりました!
自分的にはこのデッド兄さんの役割はお気に入りどす。気に入った人にちょっかい出す相手には容赦しねぇみたいな。
見ようによっては一途デショv(うわぁ、何その目)