待てば、
会える
年が明けて、空気までピン!と張り詰めているような、そんな朝。 カイは。 (無い!無い無い無い無い無い無いぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜ッ!!) ひたすら困り果てていた。 引き出しを開け、漁り、無かったら次を捜す。 (………どうしよう………) 探す手を止め、カイは半ば呆然とした。 と、ようやく起きてきたらしい激がその場に参上する。 「お正月には〜凧揚げて〜コタツに入って眠りましょう〜♪(注:こんな歌詞ではありません) ………っと、何だこりゃ」 荒っぽい探し方をしていたせいか、部屋は空き巣に入られたほどではないが、散らかっていた。 「何か探し物か?」 「あ………いえ」 一瞬激に物の在りかに心当たりは無いか、問おうとしたが止めた。 ”アレ”の事がこの師匠に知れたら………一体どんな事になるか。 長い付き合いの為、嫌と言うほど現実味のあるシミュレーションが可能だった。 「ふう〜ん………」 寝起き直後のセットもされてない髪を、わしわし掻きながら、 「………銀色で長くて輪になっててまるでネックレスのような物なら…………の、上にあったけどなぁ〜」 「ちょちょちょちょちょちょっと待って下さい!!今すっごく重要な所をわざと曖昧に言ったでしょ-------!!?」 「はて、何の事やら」 「しらばっくれないで下さいよ!知ってるんでしょう!?」 「知らな〜い。げっきゅん知らな〜い。カーくんが教えてくれなきゃ、知らな〜い」 自分が切羽詰っている事をおそらく知っているくせにこんな真似をしくさる激に、拳の一発でもぶち込めたら、どんなに至福だろうか。 あぁ、こんな羽目になるなら最初に素直に言っておけば良かった…… 「………ですから、ネックレスですよ。銀色で、細工のある」 「ふーん、で、それは何処で入手したのかな?」 「……………………」 知ってる。 この人は知ってる。 自分が知って欲しくない事まで知ってる--------!! 「べ、別に言わなくてもいいじゃないですか!そんな事!!」 「あ、そ。んじゃ寝なおそ」 「わ-------!!寝なおさないで--------!!」 ホンマにもう、この人はぁぁぁぁぁぁぁッ!! 「こと……っと、去年の誕生日に!!爆殿から!!貰ったネックレスですよ!」 恥ずかしさと怒りを大声で出す事で乗り切ったカイだ。 「ふむふむ、で、それを見つけてどぉーするのかなー?」 「……………………………………」 神様!今此処で彼を刺しても私は罪に問われるでしょうか!!(当たり前だ) 「今日、出かけるから………」 「誰と」 「………………」 これはもう------ 覚悟を決めよう、自分。 例え、この先どんなに師匠になじられ様とも、甘んじて受け入れようじゃないか。 そう、これからの一時を思えばこそ……! 「……爆殿が、今日こっち来てくれるので、出かける事にしたんです。で、プレゼントに貰ったネックレスを早速つけて会えない時でも私は何時でも貴方の事を考えてますよvとアピールしたいんですよ解ってますよ浅はかで笑えちゃうくらいの幼稚な打算だって事くらいは!!でも仕方ないじゃないですか----!好きなんだから----!!(←無関係)」 「……ありがとう、カイ、そこまで言ってくれて………」 「うわーん!!(泣)」 いつの間にか人として一皮剥けてた弟子の成長に、激はそっと涙した。それとは全く違う意味で、カイもまた涙した。 「で!何処ですか!!」 「あぁ、テレビの上」 ……………探し物って、何時もで。 えぇ!?何でこんな所に!!て場所にあるよねv 「………あったぁ………(じーん) て、どうしてこんな所に………」 確か昨日、自分はすぐ気づくように、洗面台の前に置いておいた筈だが。鏡を見るとき必然的にネックレスを見つける、という寸法だ。 「うむ、昨日の夜遅くにふと洗面台を見たら、俺のではないネックレスがあった。 て事はこれはカイのだろう。あんにゃろ俺に隠してこんなの持ってやがって、何時買ったんだそれとも貰ったのか、まさか爆か、うわ、やってくれるぜ、こんな所にあるって事は明日つけるんだろうな、よし、隠して場所を教える変わりに色々聞いてやろう、という綿密な俺の」 「師匠、破門にして下さい」 「表情が果てしなく本気だな」 微笑ましい師弟のやり取りだ(嘘)。 「………って、あぁぁぁ!こんな事をしてる場合じゃないんだ-----!!」 「約束何時だよ」 「11時です!!」 現在午前10時。 「…………ンなに慌てるような時間帯か?」 それとも、待ち合わせ場所が思いっきり遠いとか。 「爆殿はいつも15分前には来てますから!!」 「……………」 だったらあらかじめ………いや、結果は同じか……… 「もしもしカイくん、デートのご予定は如何なものなのかな?」 「………言いませんよ、もう何も」 カイはいつも出かけるまえに、持ち物の最終確認を行う。財布良し、ハンカチ良し、……… あと携帯電話。以前はころっと忘れてしまう代物だったが、今は何が何でも持ってく物になってしまった。 爆とのメールのやり取りがメモリしてあるこの携帯を、うっかり室内に残そうものなら激のとてもいい餌食だ。 「そうか………」 にべもなくカイが言い放つと、さっきとは凄い裏腹に(ちなみに病院はヴァルハラ。なんちって)あっさり引いた。 「まぁ、デートの時に何か困った事があったら、コートのポケットにゴム入れておいてやったから」 ッゴーン!! カイの頭は柱と接触した。 「なななななななななな!!」 「ヘヤゴム」 「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお--------!!」 「あー、ほらほら行くんだろ。騒いでないでさっさと行けよ。滅多に会えねーんだし」 「誰の………ッ!!ていうか、そもそも一昨年のクリスマにですね!師匠たちが余計な事企てからすんなり会えるはずだったのにとんでもない遠回りに!」 同刻、現郎がくしゃみをしたが、まぁ、ここでは関係ない。 「カイ……(肩にぽん、と手を乗せて)お前はまだ若い。過去にしがみ付かずに前だけを向いていろ」 「………感動的なセリフですね。自分の状況を忘れる事が出来たらなら………」 新年あけましておめでとうと言っていても、真冬のど真ん中だ。 防寒対策をきっちり行い、カイは玄関に向かった。 「………行って来ます………」 疲れた………決して疲れてはいけないのに、疲れてしまった……… 「あ、そうだ、カイ」 「はい?」 この上まだ言われるのだろうか、と振り返るカイ。 激はに、と笑い、
「ハッピー・ニュー・イヤー!!」
今日は特に早く来すぎてしまった。 常に約束の時間には来ている爆だが、相手がカイだと、より顕著になってしまう。 まぁ、仕方ないと言えば仕方ない。自分たちはそう簡単に出会える距離に居る訳ではないのだ。 たまの休日には会っているものの、会えない時間が断然多い。 電話やメールでやり取りする時に、”会いたい”と言うのをいつも耐える。でないと、しょっちゅう言ってしまいそうだから。 でも、今日はそんな事にはならないだろう。 待ち合わせの場所に着いて、爆は人の流れを見ていた。 今、自分の前を通り過ぎて行った人とは、おそらくもう2度と出会う事はないだろう。 そう、ちょっと前まで、爆はカイとそんな関係だったのだ。 それが、幾重の偶然の重なりにより、こうして。 待ち合わせて、会えるまでになって。 一度は、それだけだと諦めていただけに。 早く時間が過ぎればいいのに、と爆は祈った。まだ、だいぶ時間がある。 にも関わらず、人込みの向こうから、見る事は少ない、けれど見間違う事は決してない姿を見つけて、ちょっと驚く。 自分が居たのに気づいたのか、駆け足でやって来る。 そのせいでマフラーが崩れて。 走る振動の為に上着から飛び出した、確かに自分が彼の誕生日に上げたネックレスが、雑踏の中。 光を受けていた。
|