原因らしい原因と言えば、現郎が昨日も爆を置いて早く寝てしまった事だろうか。それとも、激がいつも通りカイを使いっぱに出した事だろうか。
しかし、それがなくてもやっぱりこうなってたような気がする。
元々人のない家だ。各部屋に時計設置、なんて気のきいた事はしていない。 しかし日頃の遅寝経験から窓の日の差し具合により、今の時間がだいたい午後10時前後なのだというのが解った。 背伸びをして眠気をある程度飛ばし、階段を下りて今へ向かう。 そうしたら。 「----よう、現郎」 …………………… ごしごし(目を擦っている) …………………… んなッ………!! 「し……真!??」 足を組んで安楽椅子でどっかり寛ぐその人は他でもない、爆の父親兼現郎の親友、真に相違なかった。 「なんでお前が………!?」 「………やっぱり聞いてなかったな」 はー、と溜息をついた爆は、今朝はソファに座っている。が、ソファの生地があまりにも柔らかいので、爆が座ると殆ど沈んでいるというか埋まっているというか。 「昨日の電話、真がこっちに来るぞというものだったんだ。ちょっと話してたら寝てしまうんだからな」 確かに昨日の電話、かかってきたのは真からだったが、どうせ声が訊きたいーとかいう類の用件だろうと思ってさっさと寝てしまった現郎だ。 「案外俺の方は早く片付いたんだ。天も、今夜には間に合う」 そして爆の方を向いて、 「膝来るか?」 「嫌だ」 即座に却下されてしまい、寂しげな真だった。前々から聞かされている現郎は知っている。真は子供が出来たら、こんな風に暖炉の前の安楽椅子で膝の上にのせてまったり寛ぐのが小さな夢なのだと。 その夢はあえなく沈没……ではなく。 「……昔は座ってくれたのに……」 「………何処まで昔なんだ」 まだ自我の目覚めない2,3歳にやりまくっていたのだった。アルバムを開けばちゃんと載ってる。故に爆はあまり人にアルバムを見せたがらない。 子の親離れ(大げさな)に嘆く真だったが、やおら立ち上がり。 「それじゃ、そろそろ行くか」 「行くか……って……」 現郎はこの部屋に下りた時から予感はあった。何故って、爆の横に……… 「折角のイブだからな、2人で街を適当にぶらぶらする。プレゼントも買いたいしな。 ----で。俺たちはそのまま駅へ行くから」 げ。と現郎は固まった。横にある荷物はやっぱりそううだったか----!! 「ま、待て真!ちょっとストップ!!」 「ん?」 嬉々として爆と出かけようとする真にまったを掛ける。 「俺の親友が見送りたいっつってるから、それまで待ってくれ」 「あぁ、それくらいなら………」 承諾の意を称しようとした真だが、はた、と思いとどまる。 「まさか、そいつひょっとして……いや、絶対に激だな?」 あぁッ!やはりバレたか!って、ここ激住んでるの真も知ってるからなー!! 「いかん。ずぇぇぇぇぇえったいあいつに爆は会わせん!!」 去年の「激が酔った勢いで爆を押し倒してカウンターを食らい肋骨3本負傷事件」は真ならずともインパクトの強いものであった。 そんなヤツに、この前の今で会わせるはずもなかった。 「いや、正確にはそいつの……」 「例え!あいつ本人じゃなかろうが、あいつの息のかかった輩に会わせてたまるか!!爆が肋骨折らなかったら、俺が首の骨折ってた!!」 アンタ、それ殺人だよ。 まー、その気持ちも解らなくはないというか全く同感というか。 いっそ本当の事を言うか? 激の弟子が爆に一目ぼれして今日会わせる手はずになってます。 よろしい。ではさっさと帰って会わせないようにしましょう。 ………ダメだ!全然ダメだぁぁぁぁぁぁぁ!! 色々策を巡らせてる現郎を余所に、真と爆はすっかり身支度を整えてしまい、 「じゃぁな、現郎」 「今度会うのはは年明けだな」 別れの挨拶を言うまでになっていた。 「………っと、あ………」 現郎がまともに返事を返さないのはいつもの事なので(理由:寝ぼけてる)2人は本当にさっさと出てしまった。 室内なのに、ぴゅるり〜と風の吹く音が聴こえる。 「………やっべぇ……!」 現郎は急いで電話に向かった。
RRRRRRR! RRRRRRRRRRRRR!! 「ハイもしもし……」 と、カイは電話に出た。 しかし。 時間は上の「やっべぇ」発言から少し遡り、この時は現郎が今に降りて「何でここに真が!」という場面であったので、掛けた主は現郎ではない。 電話元は激の顔がきく飲食店で、何でも今日、予約の客が希望したワインを、ウチのバカアホ従業員がうっかり注文し忘れて大ピンチなのだそうだ。かなりレアなものだから、一般の小売店ではまずお目にかかれないらしい。 で、妙なものを何故か持っている激を頼ったという訳だ。 「………そういう事ですが、師匠、ありますか?」 「馬鹿め、俺を誰だと思ってやがる?此処に無いもの以外はなんでもある!」 「………師匠、受話器の向こうで頼むから真面目に取り組んでくれと涙ぐんだ声が聞こえます」 「はいはい探しゃぁいいんでしょー?全く世の中世知辛くて嫌だねぇ」 やがて程なく、地下倉庫から激の「あったぞー」という声が小さく響く。 その声をキャッチしたカイは、すぐさま教えてやった。 「はい、あったそうです……はい、はい、……えぇ、30分もあれば」 カイは丁寧に受話器を置いて、 「では届けに行ってまいります」 「ん。昼には必ず戻ってくるよーに」 数日前……正確には”彼”と出会った翌々日に、激からイブの昼は何があろうと約束を入れるな、との仰せを使った。 激は最初理由を言わなかったら、自分がどんなに詰っても言わない事は良く解っているので、あえて訊ねる事はしなかったが……気にならない訳ではない。 「師匠。今日何があるんですか?」 「ちょっとサンタの気分を味わいにv」 ほら、意味不明な事を返された。 まぁ、その当日になったのでから、数時間後には嫌でもその意味することが解るだろう。……そう、嫌でも。 カイが出かけておよそ30分後。 RRRRRRRR! RRRRRRRRRRRRRR!! 「あー、ハイハイ、ったく誰だよ……」 勿論、この電話は現郎からだった。 「もしもし!俺だ!!」 「おー、そうかお前か。で。誰だ」 「ツッコミを入れる暇もねぇ!爆が帰った!たった今!!」 ……………… バ・ク・ガ・カ・エ・ッ・タ? 受話器を取ったのと反対の指を耳に突っ込んだままの姿勢で、激はセリフを反芻した。 「……マジで?」 「俺がオメーに冗談披露する為に電話かけると思うか」 「やべぇなオイ!!洒落になってねえよぉぉぉぉぉ!!」 ガシガシガシ!!と髪を掻き毟る激。 まさかこんな事態になってしまうなんて! イブだというのにそれはちょっと無慈悲なんじゃないんスか?神様! 「お前!どーしてひき止めてくれなかったんだよ!! 「迎えに来たのは、真だ」 「うわー、そりゃ無理だー」 あっさり納得した激だった。 あぁ、何て事だろう。折角惹かれ合う2人は運命の悪戯と言う名のおせっかいにより、永久に会う事が叶わなくなってしまうのか!? って、ンな大げさな事はなく。 「仕方ねぇ……ドラマチックな演出に欠けるが、今からカイにケータイすっか」 おうそーしろ是非そーしろ、という現郎の協賛も得て、激は器用に片手だけで折りたたみ式の携帯電話を広げ、カイに電話をかける。 プッ、プッ、プッ、プッ……… ピロロロロロロ!! ピロロロロロロロロロ!! カイの携帯電話の着信音が----- 激の目の前のテーブルの上から聞こえた。 「…………………」 何かが何処かでぐしゃ!っと潰れる音がした。 それは、今回自分が立てた計画そのものだろう、と激は妙に冷静に受け止めた。
あ、そういえば、とカイはズボンのポケットに手を入れて思い出した。 携帯電話を持ってくるのを忘れてしまった。 カイは別に、携帯電話を日常の必需品!とまで考えているわけではないので、度々こういう事がある。それで特に困った事も今までにないので、このクセ(?)は一向に治ってはくれない。 まぁ、そんなに何時間も出かけるわけでもないから、別に問題も無いだろう。 実はかなり大問題になっている事を、彼は知る由も無い。 ともあれ、カイは自分の任務を忠実に遂行したのだった。 「お届けに来ました」 「いらん世話をかけたな……すまない」 まだ若い店主は、本当に済まなさそうに頭を下げた。それにカイはする必要もないのに自分も頭を下げる。 「……ところで、あの……」 触れていいのかどうか。店主の後ろ、従業員らしきエプロンを付けた青年。高い背丈にやや長い髪。そこまではいい。そこまではいいのだが…… 腫れた頬にきっちり痣がついた目。生乾きの血の後が生々しい。 「あぁ、構うな」 カイの意図が解った店主はそれでも平然と。 「今日は皿洗いに専念してもらうから」 ……成る程、彼が件の注文をうっかりし忘れたバカアホ従業員なのだな、とカイは理解した。そのアホバカ従業員は上の店主のセリフを聞き終ると同時に、あらぬ方をみてうへへ、と自嘲した。 人って……色々あるなぁ。 と、カイが人生勉強していた、その時。 カランカロン♪ 扉のベルが、人の出入りを教える。 「しまった!すまん!頼むからちょっと客の相手をしてくれ!」 「え?えぇぇ!?」 カイは自分を指差して慌てた。 「大丈夫だ!注文聞いて紙に書いて厨房のところに貼り付けるだけだ! 今日はイブだから人が多いんだ!」 「で、で、で、でもッ!」 「……ほーら、ボコスカ人を殴るからぐへはぁッ!!」 「……えー、では行って来ます」 黙れ元はと言えば貴様が注文しそこなったのが原因だろうがだいたい今日まで一ヶ月もあったってのにしてないってのは一体どういう了見だバキゴカベキ!! 怒鳴り声と打撲音を同時に背中で聞きながら、カイは今入った客を出迎えた。 「いらっしゃいませ」 「いや、オレは----」
真と爆は、とりあえずこの街の賑やかな所へ向かい、そしてそこで一番大きい店へと入っていた。皆のクリスマスプレゼントを買う為だ。 「えーと、天には……どれがいいだろう」 宝石店のアクセサリーを覗き込む真。彼の頭の中で、目の前の装飾品をつけた妻の姿でも想像している事だろう。 一方、そういった物にはあまり興味の薄い爆は、ちょっと離れた所で立っていた。そして、ガラス越しの雑踏を、ぼんやりと目に映していた。 皆、誰も彼も楽しそうで。 爆だって勿論クリスマスは楽しい。何かと多忙な両親が側に居てくれる数少ない日だから。 でも。 心の底から楽しめない。何処かが冷めている。その場所にあるのは決まって、名前すら知らない彼の肖像だった。 改めて人込みに視線を移す。 こんなに多くの人がいて、それでその中のたった一人に会うだなんて---- それはあまりにも途方のない、そう、それはまさに奇跡だと爆は思った。 と。 とても小さな子が……自分の名前すらいえるかどうかも怪しい幼子が、雑多な人の波の薄いショーウインドウ沿いにてこてこ歩いている。しかも、1人で。おまけにその顔は今にも泣き出しそうだった。 爆は訝った。保護者はどうしたんだ? が、いくら周囲を窺っても、それらしき人物は見当たらなかった。 皆、イベントの陽気に当てられたのか、足元の幼子には目もくれてなかった。 ふいに、その姿が人込みに消える。 居ても立ってもいられなくなった爆は、大急ぎで外へ出た。幸い、ドアのすぐ近くに居たから見失った子供を早く見つける事が出来た。 幼子は、何か確信めいたものを持っているのか、やや覚束無いがしっかりした歩調で何処かへ向かっていた。 人を掻き分けるように、爆は幼子に近づく。爆が自分を保護してくれるものだと解ったのか、ちょっと後ろを振り向いて爆うを視線に入れたら、ふにゃり、と笑ってますますしっかり歩き出す。 爆はとりあえずその後ろをついて行った。真にはちょっとしてから携帯電話でもかければいいだろう。あの調子では大分かかりそうだ。 よたよたとした軌道が変わった。 どうやら目的地はあそこらしい。飲食店らしき一軒屋。直ぐ横の街路樹は今の季節に相応しい宿り木だった。 幼子はあー、と声を発してドアをぺちぺちと叩く。ドアノブまでには、当然手が届かない。爆が変わりに開けてやった。 カランカロン♪ ドアにくくりつけてあったベルが鳴る。 2人が入ると、ちょうどこちら側を向いて座っていた婦人の一人が、あ、と驚愕した表情を見せた。彼女が母親らしい。 どうやら友人と話し込んでいるうちに、好奇心旺盛な幼子が勝手に外へ出てしまったらしい。彼女は思わず他の客も振り向く速度でこちらへとやって来た。 「あーあー、もう、何処へ行ってたの!すいません、本当にありがとう御座います………」 彼女は子供の安全を確認するのと爆に謝るのを同時にやってのけた。 緊張の糸が切れたのか、母親の腕の中で泣きじゃくる幼子を見て、爆はほっとした。過ごしたい人と過ごせないのは、自分だけでいいのだ。 さて自分も父親の元へ戻らないと、と思った爆に、客だと勘違いされたのか、声がかかった。 「いらっしゃいませ」 「いや、オレは-----」
カイは爆を見た。 爆もカイを見た。
店は混雑していたのに、一切音が耳に入ってこなくなったから、不思議だ。
「………あの」 最初は、カイから。 「……初めまして、で、いいんでしょうか……?」 かけるべき挨拶の言葉を、真剣に探すカイに、爆は思わず笑みを溢した。 店内の2人には気づかない事だが、店の外からは、2人は丁度宿り木の下に居るように、見えた。
また、会えますよね 勿論だ
終わったぁぁぁぁぁぁぁ!!長かったぁぁぁぁぁぁぁ!2つに区切れば良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あぁ、でもちゃんとクリスマスまでに間に合ってよかったv て再会して終りかよ!とツッコむその貴方。これ書いているのは何せ朱涅です。 後日談、と称した続きアップされる可能性、大です! ちゅーかプロット出来てるしv(素直に最初からそう言え)
何か激と現郎が道化っぽいような感じでもしないような。 つーか真と激の仲、最悪だね☆新婚シリーズ離れてもこうなんかい……
ちなみにどーでもいい事ですが、作中の若い店主とバカアホ従業員。オリジキャラ出演です。 店主がリオンくんに従業員がセルフィユくん……あはは、こいつここでも殴られてやんのv出演しただけですので、当然リオンくんもセルフィユくんも飲食店なんか経営してません。つーかこいつらが共同して何かを営むなんざ、有り得ねぇ。
では皆様、良いクリスマスをv そしてこれがカイ爆20作目……意図してやったわけでもないのに。うわぉ。
|