「師匠……最近やけに楽しそうですね」 「んん、そうか?俺は何時だって人生楽しんでるつもりだけど?」 時々思い出したように勘の鋭くなるカイに、ごまかしの意味が強い笑みでもって返す激。 「別に人生を謳歌するのは、それ自体は素晴らしい事なんですけどね、師匠の場合他者へ被害が及ぶ場合が多いんですよ(特に私に)」 カイは何度激のせいで頭を下げる羽目になったか、数え切れない。 「まーまー、そんなジト目で睨まないで。折角の顔が台無しだぜ?お前黙ってればカッコいいんだから」 「黙っていれば、って………」 「じゃー俺は薪届けに行ってきまーす」 余計な一言を付け加えて、激は手を振って家を出た。 それを見やり、はぁ、と溜息をついてカイもまた外へ出るための身支度を整える。 彼があれから此処に留まってるという保障なんて何処にもないのだけれど。 もしかしたら。 そう、もしかしたら。 彼と出会った奇跡の余波で、もう一度会う事が叶うかもしれない。
「こんちわ!三河屋でーす!……って爆居ないじゃん」 ちぃッ!テンション上げ損だぜ、と臍を噛む激である。 「おー……来たか」 と、出迎えてくれた現郎は、今まで寝てましたという事が誰にでも解った。現郎は四季を通じて暁を覚えないに違いない。 「裏に置いて来たからな。で、爆は何処」 「んー、ちょっと出かけて来るってよ」 爆は旅行先でもホテルに帰って来るのは就寝前くらいだ。この辺父親に似たな、とつくづく現郎は思う。 「そうかー、出掛けた……ってオイ。オメーまさかそれでホイホイ行って来い……っつーか、そう言ったんだな?!」 現郎には何故激が自分に詰め寄るのか理解出来ない。勿論寝起きだからという理由ではなく。 「何かあいつが出掛けて不都合が」 「あるだろーがよッ!今カイはあいつ探してんだぜ!?爆もあいつン事探してんなら、最悪の場合ご対面しちまうじゃねーか!!」 「……最悪?」 その物言いには若干引っ掛かりを感じた現郎である。 「あぁッ!折角の計画が!これでは何のために俺が薪を届けにやってきてんのか!!」 爆は勿論、カイもまた、激と現郎がお知り合いだという事は知らない。 だから当然、自分が薪を届けにいけば一発で胸を占める物から解放される事も知らないのだった。 「ほー。俺はてっきりこの家の酒目当てかと」 「お前みたいなヤツに飲まれてもブランデーが可哀相かと」 冷たい視線にはめげない激。その手には今日の戦利品が。 「うぅ〜む……カイのやつ、また探しに行ってるに違いないから適当に言い訳つけて呼び出すか?」 「……其処までしなくていいんじゃねぇのか?ここで会ったらそれはそれで運命だろ」 欠伸を噛み殺しながら言う。 いつの間にか巻き込まれてしまった現郎だが、妨害はしないと誓ったが協力するとも約束してない。 「……オメーが”運命”とかいう単語を言うとどっかの国の知らない料理名に聴こえるなー」 「どーゆー意味だ」 「似合わねぇ」 二人の間に沈黙と静寂が流れる。 その後に聞こえたのはドカ、バキという打撃音だった。
街に出て、そう言えば明日はもうイブだった事を爆は知った。 別に率先して騒ぎ立てるつもりも無かったが、こうも綺麗さっぱり気にしなかったのも珍しい。 店のウィンドウには色鮮やかにレッドとグリーンがロンドを舞って、街灯にもファンシーな飾り付けで装っている。 自分とすれ違う人、全てが明日の事で頭も胸も一杯何だろう。 この前助けた彼もまた、そんな事は忘れてイブを楽しむ事に専念しているかもしれない。 そう思うと、爆は腹の底に重くて冷たい物が沈むような気持ちになる。 そして広い道路を挟んだ歩道で、例の相手が全く同じ気持ちで歩いていたのだという事は2人も誰も知らなかった。
「……ただ今帰りました……」 「おう、お帰り。 ……………………」 ソファにどっかり座っていた激は、自分の方を向き……しばらくの時間が流れた。 「……?私の顔に何かついていますか?」 「鼻と目と口がついてる」 「…………………。」 何か、この人に期待してたのが間違いだった的な視線を送られてしまったが。 とにかく今のカイの表情を見る分にはまだ再会を果たしてないらしい。 よーしよしよし!と激は自分の計画が上手く運んでいる事に大変ご満悦だ。 とはいえ隠す事もしない……出来ないのかもしれないが、カイの落胆を語る背中を見るたび、爆のことを隠している事に罪悪感を……感じるといえば嘘になるが。 (まぁその分感激の度合いも増すかもしれねーし、ひょっとしたらそのまま本懐突入……てな事になったら流石に妨害すっけどね) わざわざ言うまもでないかもしれないが、激の今回の計画はカイの為半分、自分の楽しみが半分である。 順調に進んでいるとすっかり思いこんでいる激だが。 計画はあくまで計画なのであった。
多分会えないだろうと思って行ったらやっぱり会えなかった。 だが覚悟はしていようがいなかろうが、それは別として落ち込む。 「……現郎。明日はイブだな」 「あぁ」 「……オレはさっき気づいたんだ……」 それは、それ以上に気になる事がある、という事で。 何処となく力なく言って、暖炉の火を眺める爆。 そんな爆の様子を見て、現郎は激とは違い、何度打ち明けようと思ったか。 でも言ってない辺り、自分と激は親友なのだという事を如実に語っているというか。 それでも。 「なー、爆」 「何だ?」 「もうすぐクリスマスなんだから、願い事の一つや二つ叶うかもしれねーぞ?」 現郎がそう言うと、爆は目をぱちくりさせた。 「……似合わねーか」 「……というか意外性が強すぎるというか…… まぁ、お前の言う通りだな」 と、ちょっと明るくなった爆の表情に、現郎はほ、と胸を撫で下ろす。 明日までだからなー、爆。 まず昼に激がカイを連れてこっちに来る。このときはまだ、”激の友人の見送り”として。 そして自分は爆を玄関へと向かわせて……そこで感動の再会だ。 少々クサいような気もするが、下手に藪をつつく事もないだろう、とあえて現郎はその事に触れなかった。 あいつも大概少女趣味だよな。 同刻、激はくしゃみをした。 「爆、あんま火見てると目ぇ悪くするぞ」 「解ってる」 身をくねらせて踊る炎を見て、爆は……自分が暖炉に執着した理由を冷静に解析していた。 そうだ……似てるんだ。 この色。同じだ。 彼の双眸と。 会いたい、という言葉は爆の中で霧散した。 ぼんやりしている爆の意識を、電話だぞ、という現郎の声が戻した。 「代わったぞ----」 受話器の向こうは母親で、なにやら興奮してるみたいで。 「……………え?」
今日の空は黒く、とても黒く静かで。 何かを準備しているみたいだった。
明日は完結です!!……完結するよねー!??(誰に問いかけているのか) 何つーかこの爆……めちゃくちゃカイの事好きっすね。まだ再会もしてないのに…… それと激が飲んべぇになりましたね。えぇ、これは必然です(何が) 激はブランデーというよりテキーラとかラムが似合いそうだなぁ。ブランデーはむしろ真。 雹?雹はワインでしょ。
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