世の中0と1で割り切れる事ばかりだけど、
 折角神の子の誕生日だもの。

 チープな奇跡の一つや二つ、起こるだろうさ
 悪戯にね。


 
チープな奇跡


 駅の周りには人が集まる。だからそれを目当てに店も集まる。駅の周辺は賑やかだ。
 狭い敷地で計算された客席と厨房の飲食店。むしろ休日に活躍するデパート。
 それらを表と称するのならば、勿論裏の部分もちゃんと存在する。
 裏の方へ入るのなんて簡単だ。ちょっと一歩、横道にそれてやるだけでいい。
 そして、カイは横道にそれてしまったようだ。
 近道をするつもりだったのだが、それが仇になった。気づけば、明らかにこれは正規の道ではないという事しか解らない状態だった。
 しかも、表へ出ようと道を選んでいるのに、どんどん奥へと向かってしまっているような気もする。
 時折狂ったような声が聴こえる。違法薬物でも乱用しているのだろうか。
 さあ、どうする。
 と言っても身の安全に不安はない。こう見えても武道を嗜む身分だ。出来うることなら使いたくもないが、そう派手は事には……成らない事を願いたい。
 目下の不安は夕食時までに帰れるかどうかだ。
(師匠、大概時間にはルーズなのに、こういうのだけには正確ですからね……)
 歩くペースを上げながら、カイは道を進む。
 と。
「ちょっと、いい?」
 思わず閉口したのは、そのきつい香水だった。
 すい、と自分の前に現れたのは……年齢を隠す化粧と誘う身のこなしの、そう、----娼婦だ。
 よりによって、とカイは嘆いた。これなら厳ついゴロツキに因縁つけられた方が、まだ対処に解るのに。
「すみません、急いでいるので」
 カイは立ち去ろうと、した。
 が。
「いいじゃないの、ねぇ」
 相手はしつこかった。腕を捕まれ、どう振り解こうかと思案していると、もう一人やって来てしまった。
 新たに現れた女性は褐色の肌を出し惜しみしない服を着ていた。この、もうすぐ聖夜も来る季節だというのに。
「あら、いいの捕まえたのね」
「でしょう?彼、いい味出してると思わない?」
 自分を無視して自分の話が進む。
「さ、行きましょう」
 と言われて何処ですか、と訪ねる程浮世離れはしてはいない。
「いやッ、ですから私はッ!」
「あら、もしかして初めてとか?大丈夫よ、そんな事は」
 ばっちりリードしてあげるから、と綺麗なウィンクを決めてみせた。
 ……これはなんとしても隙を見つけて逃げ出さなければ!あぁッ!でも隙がない!!
 このまま自分は食われてしまうのであろうか!?
 ぐい、と腕を引かれる。
 その時。
「待たせたな」
 また、誰か出て来たらしい。
 反対の腕に自分のを絡ませて来たのは----自分より頭一つ分は低いであろう、でも多分年齢は同じ頃の、少年だった。
 少年はひょい、と上体を傾け、カイの身体の向こうに居る女性に向かって言う。
「悪いな。売約済だ」
 なぁ、と同意を求められ、思わずはい、と答えてしまった。
 彼もまた、彼女達と同類である可能性は、少なくともまだこの時では否めない。だというのにあっさり返事をした自分はとても浅はかなのだが。
 しかし。
 どうしても、こんな強くて綺麗な双眸の持ち主が、自分を陥れようとしているとは思えない。
 あるいは、思いたくなかった、かもしれないが。
 彼女はカイが少年に、同意の返事をした後、ややあってカイから身を離し、ひょいと肩を竦めた。
 その後の彼女の動向は定かではない。カイは腕を引かれるまま、少年について行っていたのだから。
 怪しい裏路地の雰囲気が少しばかり薄まった頃に、彼が口を開いた。
「貴様は余所者か?こんな所に迷い込むなんぞ」
「いえ……一応地元なんですけど」
 彼はまるで迷子に(実際そうなんだけど)いい聞かせ口調で言う。娼婦とやり合っていたさっきまでとはえらい違いようだ。
 違っては居るが、どっちも彼なんだろう、とカイはぼんやりと思う。
 絡めてあった腕は、今はもう離れてしまっていた。
 正直かなり名残惜しい。
 だんだんとイルミネーションが目に付き、雑多な声が耳に入ると共にカイは無事に表通りに帰還した。夕食までには間に合いそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「ここまででいいな」
「え?あッ……は、はい!」
「もう間違ってもあんな所に行くなよ。大方近道でもしたんだろうがな」
 全くもってそのとおり、とカイは小さくなる。
 じゃあな、と簡単な別れの挨拶をして、彼は雑踏の中へ紛れて行った。
 それをずっと見失うまで姿を追って、完全に見えなくなってしまってから、カイは自分の仕出かした致命的なミスに気づく。
「名前…………ッ!!」
 あんなに惹かれた相手なのに。
 あんなに離れた腕を名残惜しいと思ったのに。
 カイの視界に入るのは、通行人の波だけだった。
 何処かのスピーカーから聴こえるジングルベルが、やけに皮肉に思えてならなかった。



つー事でクリスマス企画カイ爆小説。目指せクリスマスまで完結。
とりあえず5話完結目当てで。
……多分まだるっこしい離しになると思います(笑)
まだ自己紹介もしてないし。次は爆サイドの離しになりますー。
とりあえずクリスマス企画なんで背景にこってみたり