明日は明るい日と書きます。



 組み合わせとしてはちょっと珍しい、ハヤテと爆の2人。
 よ、爆、と渡り廊下の片隅で呼び止められた爆は、その相手がハヤテ1人だった事に、おおそよの用事は解った。
 朝のショート・タイムが始まる前の時間、他の校舎へ移ろうとするものは少ない。此処の廊下は、ハヤテと爆だけだった。
「デッドは、今日はまだオレの所には来てないぞ」
「あ、いや、ちょっとそれとは違くて……」
 後頭部をぽりぽり掻く、いかにも少年らしい仕草である。
「……ちょっとさ、デッドに訊いてもらいたい事があって……」
「何ですか?爆殿にデッド殿に訊いてもらいたい事って」
 カイが言った。
 ……………
 怪現象を起こすのは、デッドだけでお釣りが来るんだけどな、とハヤテは内心ぼやいた。
「……何度も爆しか居ないのを確認したってのに……」
「いや、ハヤテ殿。爆殿が居ないというのに私が居ないなんて、その方が可笑しいですよ」
 ハヤテがここで問題として取り上げたいのは、爆が居る居ないより、さっきまで気配も無かったのに瞬時に現れた事なのだが、突き詰めた所で解答が存在しないような気がしたので、訊くのは止めた。
「デッドに訊きたい事ってのは何だ?」
 あぁ、まともな会話が出来るのは爆だけか、と思いながらも本題に入るハヤテ。
「うーん、まぁ、ぶっちゃけて。デッドが俺をどう思ってるか、訊いて貰いたいんだ」
「ハヤテ殿……ついに自分に決着、着けるんですね!」
「決着て、まぁ」
 そう言えなく事もないけど、ちょっとニュアンスが、とハヤテは思う。
「”人間諦めが肝心”というのは、強ち負け惜しみではないと私は思っています!」
「そっちの決着かよ!違ぇーよ!デッドがどう思ってるか、てので今後のアプローチの仕方考えようか、と!」
「何だか今のハヤテ殿見たら、アメリカ牛輸入禁止でメニューどうするか、って悩んでいる吉野家の人達を思い浮かべましたよ」
「……よく解らんねーが、少なくとも好意的なものじゃないな……?」
「と、言う事はつまり」
 何時までも終わらないハヤテとカイのやり取りを他所に、爆は要点をまとめる。
「デッドに、貴様の事の何処が気に食わないかと訊いてくればいいんだな?」
「そうじゃ……いや、それでもいいんだけど……て言うか何でオマエまで俺に対してマイナスな事ばっかり……」
 今、流れ星を見たら、「まともな会話が出来る相手が欲しい」と言いそうなハヤテだ。
「まぁ、それくらいならお安い御用というヤツだな。今日の昼休みにでも聞いて来よう」
「サンキュ、爆!今度何か奢るぜ!」
「気にするな」
 うんうん、オマエはいいヤツだ、とハヤテは爆の頭を撫でようとして。
 カイから「おっと手が滑りました」とか言われて、頭を殴られた。



 で、昼休み。
「………何でこんなこそこそしなきゃならないんですか!」
 小声で文句を言うカイ。それに対し、ハヤテも小声で。
「だって、やっぱりすぐに訊きたいじゃねぇか!」
「じゃぁ、何で私まで!」
 それはオマエがいつも神出鬼没に現れるから、それならいっそ、最初から目の前に置いていた方がいいと思ったからだ……と言っても、カイ本人には通じないだろう。
 昼休み、中庭の一角で爆とデッドは昼飯を食べている。
 中庭は通り過ぎたり、遠くから見ている分にはいいが、温かくなると虫が多くいせいか、人は少ない。弁当を食べる等、以ての外だ。
 が、2人は快適に弁当を食べている。
 多分、デッドが何かしているのである。
 科学や数字では整理出来ない方法で、何かを。
 深く考えまい、と改めて自分を戒めるハヤテだ。
 楽しく談笑する2人を前に、隣からの「私の爆殿なのに〜」と1分間に5回の割合で言うカイと、容赦なく獲物(この場合、カイとハヤテ)に襲い掛かる虫にもめげず、ハヤテは張り込んだ。
 全ては自分の明日の為!
 そんな健気に根気強いが器用さの足りないハヤテに、お待ちかねのセリフが爆から出る。
「デッドは、ハヤテの事を結局どう思ってるんだ?」
 来た!とハヤテの鼓動が撥ねる。
「中途半端に繋げておくのが、一番いけないんだぞ。嫌だったなら、きっぱりそう言ってやらんと」
 俺の事を慮ってるのは一応解るけど、なんでやっぱりそういう方向でなんだ爆!
 る〜と哀愁を背負うハヤテだ。
「……そうですね」
 そんなハヤテだったが、デッドの返事に我に返る。
「まぁ、彼に関しては色々と多々思う事はありますが……」
 デッドは俺の事を考えてくれてるんだ!不覚にも涙が浮かぶハヤテだ。断じて隣のカイが放出している虫除けスプレーが目に染みた訳ではない。
「少なくとも……」
 少なくとも何だ、言ってくれデッド!
 が、そこでデッドのセリフが途絶えた。
 何だ?と2人が訝しむと。
 ----ガガササ。
「少なくとも、こんな風に盗み聞きするようなヤツには-----」
 お仕置きが必要ですね。
 爆が居る為に声には出さなかったセリフが、2人には聴こえた。



 そして、その日の放課後----
「ハヤテは?」
「何か用事があるみたいで、先に帰ってくれとの事です。カイさんもだそうですよ」
「そうか」
 カイと帰れないのが、やっぱり少し残念なような爆だった。
 デッドの心がちくりと痛む----という事は、やはり彼が関与しているのか。
「デッド、話を蒸し返すようで悪いが----」
 道を歩きながら、爆が言う。
「本当の話、ハヤテはどう思ってるんだ?」
 ハヤテが爆を弟みたいに思ってるように、爆もハヤテを兄みたいに慕っている。歳の近い叔父は居るが、それともやっぱり違った心地よさがある。
 デッドにも然りで、だから、爆としては、理想としてはハヤテがデッドを好いて、デッドもそうだったらな、と思う。
 自分の大好きな2人同士が好き合っているなら、それはとても幸せだ。
 まぁ、結局は当人の感情なので、けしかける真似はあまりしないが。
「----そうですね」
 デッドは真っ直ぐ前を見たまま言う。
「まぁ、見た目よりは結構使い勝手が良くて、傍に居てもそんなには鬱陶しいとは思いませんね」
 何だか100円ショップで買った品物の感想みたいな事を言うデッドである。
 でも。
 爆は思う。目を逸らしたり、目が泳いだり、そんな風に動揺するのは、言っている事が嘘か、照れてる時だろうと言う事。
 そして、デッドがこういう事で嘘をつく事は、決して無いだうという事。
 人には、言い方というものがあるという事。
「…………」
 もしかしたら、自分の理想は現実に近い所にあるのかもしれないな、と、爆ではなく、真正面を向いたままのデッドの横で、爆はひっそり微笑んだ。


 ちなみに、こっちの2人がほのぼのしている時に、むこうの2人がどうなっているかは。
 デッド兄さんだけが知る。




<了>

 

草原殿に差し上げる供物ですので、ハヤデの方にウェイト置いてみました。まぁ、カイ爆も存分に出てますガネー。
デッドはデッドなりに、ハヤテの事もちゃんと想ってます。
それを素直に出さないのは、照れてるから……という訳でもないと思いますが。

そして相変わらず、秘密が一杯のデッド兄さんでした。
しかしタイトルが投げやり過ぎる。