バターの濃厚な香りとチョコレートの甘い香り。 寝室まで届くそれに、身体のだるさも忘れ、発信源であろうキッチンへと向かう。 「ん…………」 ドアを開ければふあんと漂う美味しそうな匂いに、知らず顔が綻ぶ。 「あれ?爆くん起きちゃったの?」 デニム素材で出来たエプロン姿の雹がすぐさま駆けつける。 「もっと寝ててもいいのに」 「……何を作ってるんだ?」 何処となく、甘えたような、幼い声。幼いとは言ったが、これが歳相応なのだ。 その言い方に、珍しく寝惚けてるんだな、と雹は小さく笑った。 「何だかちょっと変った物が作りたくなってね」 こんなの作ってみたんだ、と皿の上から一本、スティック状のそれを持った。 見た爆は呟く。 「……ポッキー?」 「まぁ、真似ただけのヤツだけど。 少し硬めに作ったクッキーにチョコ掛けたんだ。見掛けとしてはまずまずでしょう?」 「うん………」 ぽやぽやしながら爆は頷いた。ちなみに、出で立ちは当たり前みたいに雹の上着一枚だ。 (あー、朝から暴走しそう……) 一般の目から見れば、雹は常日頃暴走しっぱなしである。 食べる?と聞けば素直に頷く。 そのままあげようとした雹の手が、ふと止まる。 にこ、と楽しそうに笑って、手にしてあったポッキーを自分の口へ持っていく。 「?」 くれないのか?と訝る爆に。 「ハイ、どうぞvv」 端っこだけ咥え、顔をずい、と近づける。 反対の端からどうぞ、という事なのだが。 (何ちゃって〜vv) 「……………」 まぁ、やってくれるとはこれっぽっちも思って居な…… かったのだが。 「ん……」 サクリ。 (え?) 唇に感じた振動。……爆の顔が近くにあって。 (え?え?え?) 「ん、美味い……」 サク、サク、サク。 見れば目の前では、爆がポッキーの端から食べている。 じわりじわりと確実に寄る顔。 (……って、こ、このまま行けば………!!) 自分からぐぁッ!と行きそうになるのを、堪えて。 爆からなのだ。そんなシチュエーションは滅多に来ない!! あと5センチ………あぁ、爆くんの口は小さいなぁ、昨日あんな事して貰ったけど……(何をさせた) あと3センチ………あと2センチ……… あと…………!!! 「…………ん?」 雹の野望達成まであと僅か、という所で、爆が今までのイントネーションとは違った声を発した。 「…………」 爆は前を見た。其処には雹のどアップ 「…………」 爆は自分が咥えている物の先を見た。其処には雹の口が。 「…………。 ……………………。 ……………………!!!!!!!」 ボボッと赤くなった爆が離れて、そして------
「----あと、本当ぉぉぉぉぉに、あと少しだったのになぁー………」 目の周りに痣を作り、菓子作りに使った調理器具を洗っている雹が、ぽつりと呟いた。
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