ある所に、とても幸福そうに暮らす女性がおりました。 その事を本人に言うと、彼女は2階へ連れて行き、戸棚を開けてみせました。 其処には骸骨があり、彼女はいいました。 「私は、毎晩この骸骨にキスするように、夫に強いられているの」
何処の家庭にも秘密があるというお話。
恋をした瞬間を、”落ちる”と形容した人物は、人という生き物をよく観察している……と、現郎は思った。 「ねぇッ!現郎!今の何処の子!?現郎と知り合いなの!どんな関係なの!? 言えったら言え!!言いやがれ-----------!!!」 雹にガックンガックン揺さぶられながら、現郎は思った。
今日という日はとても普通に始まった。とりあえず、その時までは。 雹は何気なく、露店で積み上げられたオレンジを取る。 店の娘だろうか、売り子がその美貌にぼーっと見惚れて居るのを、当然どころは平常として、隣に居る現郎に言う。いや、愚痴る。 「稀代の天才ピアニスト、雹がこんな片田舎で夕食の買出しかー…… あぁ、才能が日常に埋没して行く」 グ、と力を込めたせいか、オレンジから香る。 仕方無さそうに、現郎はそれを買い求めた。現郎もそれなりどころか絶世の美形なので、売り子の顔の紅潮は過去最高だろう。 「人ン家に間借りしてんだから、それくらい当然だろう。 ま、自業自得だな」 買ったオレンジは問答無しで雹の袋に突っ込む。 「何度も言うけど、僕は……あっ」 突っ込むというより、乗っけただけだったオレンジは、雹が僅かに動いただけであっさり落ちた。 「ったく……」 普段、荷物持ちなんて付き人のチャラの役だ。 現郎は、チャラが同行すると、雹が全く何もしない事は解りきっているのでわざと置いてきた。 僕がこんな目に遭うのも、全部世の中の僕以外のヤツのせい! とてつもない大規模な責任転換を行い、雹は落ちてしまったオレンジを拾う。 拾おうとしたのだが。 「ホラ、落としたぞ」 オマエのだろ?と眼前にオレンジが。 声の主はどうも子供らしい。こんなにも低くした態勢で腰が見えるので、多分自分の肩くらいに頭があるだろう。 雹は屈めかけていた背を起こし、その顔を見た。 そして。 「………………」 「違うのか?」 雹が直ぐにリアクションを返さないので訝るように首を傾げる。その時に、心なしか雹が固まったような気がした。 「よー、爆」 ちっとも進展しない状況で、現郎が会話に加わる。 「現郎。何だ、コイツは知り合いか?」 「腐れ縁ってヤツだ」 事も無げに言って、行き場を無くしていたオレンジを受け取る。 「じゃ、またな」 「あぁ」 軽く手を振り、買い物は終わったらしく、帰路へつく爆を見送る。 暫くその姿を見ていた現郎は、突如、首の圧迫に見舞われる。 硬直状態から解けた雹が掴んでいるのだ。 「ねぇッ!現郎!今の何処の子!?」 ----そして、冒頭のやり取りに戻る。
「……おいっ………落ち着け……ッ!」 「これが落ち着いていられるかよ!」 しかし現郎としては一刻も早く雹に落ち着いて貰って首を解いた貰いたい。 あの子が住んでる住所は!?電話番号は!? 生年月日及び血液型は!? 名前は……爆だよね。 爆くんかぁ……あぁ〜可愛いなぁ………」 と、雹がトリップした隙に、現郎は手から逃れた。 あー、苦しかった、と首を摩り、そして雹に向かって呆れ顔一つ。 「あのな……オメー、今自分が何をして此処に居るかって、ちゃんと解ってんのか?」 雹はそれについては、そっぽを向いた。 「だって、あのオッサンが悪いんだよ。よりによって僕に色目を使いやがって!」 「色目って……単に肩に手ぇ回しただけだろ。それも新聞に乗っける写真でよー。 どう考えてもただのパフォーマンスだろうが」 「僕に触れただけれ万死に値するね!」 「……せめて記者の前では我慢しろよな」 「それに!僕はかあいー男の子が好きなの!あんなオッサン趣味じゃないね!て言うか僕の認識じゃ人間じゃないよ!」 「……関係無ぇし」 雹のピアノの腕は超一流だ。それは誰しもが認めるだろう。 が、才能さえあれば良いというものではないのが世の中の世知辛い所。 例えば金銭、例えばコネ。 雹はその2つを、とりあえずクリアして言った。金に関しては親の遺産。コネについては音楽学校の教授に。 しかし、1人から始まったその人脈は、その1人が途絶えてしまえはそれはもう通じなくなる訳で。 とりあえずチャラの計らいで、双方頭を冷やすため、と、雹は此処に来たのだ。 来たのだが。 それで己の行動を大人しく反省するようであったなら、それはある意味雹ではない。 「でも」 般若もかくやという表情だった雹が、一瞬にしてその顔を和やかなものとした。 「今となったら、少しばかり感謝してやってもいいかな。 だってあのオッサンがあんな事しなければ、僕は此処に来てなくてあの子にも会えなかったんだしv」 紙袋からオレンジを取り出し、そっと唇に寄せた。 その様子に、現郎はもはや何度目か解らないため息を洩らした。
雹の朝は遅い。 別に取り分け夜更かしでもないのに、だ。 まぁ、現郎に比べると充分常人の範囲だが。 「おはよー………」 くぁーと欠伸をしながらリビングに顔を出す雹。 「お早う御座います、雹様」 それに、すでに完璧な佇まいのチャラが応える。 「今日は何だかミルクティーが飲みたいや」 「畏まりました」 手際よく、かつ静かに紅茶が淹れられていく。 まだ半分寝ているような目で雹はそれを見ていたが、ふと、視線を窓に向けてみた。 すると。 「-------!!」 「雹様?」 ガダン!と椅子を後ろにひっくり返す勢いで雹が立ち上がった。何事か、とチャラの目も開く。 「----爆くんだ!」 「はい?」 昨日、その現場に居合わせていなかったチャラにはその発言は意味不明だ。 雹は爆を見るやいなや、脅威の速さで身支度を整え、十字路に差し掛かった所で爆に追いついた。 「ねぇ、待って!待って爆くん!」 「ん?」 爆がくるりと振り向く。 その双眸が自分を捉えたと解ると、それだけで言いようの無い柔らかな痺れが襲う。 「あ……貴様は、昨日……」 一瞬誰だか解らなかったらしく、爆からそんなセリフが出た。 「うん、現郎の親友で、雹って言うんだ」 爆と近づく為に、現郎は雹の親友となってしまった。 「買い物?小さいのに偉いね」 「小さい……」 カチン、と爆の顔が強張る。 失言した、と雹は焦った。 「あの、違くて、そういう意味じゃないの。1人なの?物騒だし、一緒についていってあげようか?」 雹様、その言い方だとまるで誘拐犯のようです……と、その気は全く無かったのだが、窓から一部始終が見えてしまったチャラは、ひっそりと思った。 「要らん。だいたい、オレの方が貴様の何倍もこの町に住んでいるんだぞ?」 だからそんな心配は無用だ、と踵を返し、歩き始める。 雹はますます焦る。 「ねぇ!荷物持つのも大変でしょう?だからさ」 そうすると、爆は再び雹の顔を見て。 「来るなと言ってるんだ、このマヌケ!」 「マ…………」 産まれて初めて言われた言葉(しかも好意を持っている相手から)に、雹はその場で立ち尽くす。 その光景に、室内のチャラが必死に笑いを堪えていたとか居なかったとか。
「僕、あんな事言われたの初めてだよ……」 「ふーん、そりゃ災難だったな」 やっと起きてきた現郎は、テーブルにつくなり先程の出来事を雹から強制的に聞かされた。 「まぁ、これに凝りて少しは大人しくするんだな」 「……こりないよ、僕は」 テーブルに頭を預けて脱力していた雹は、顔を上げて言った。 「僕は、諦めない。 初めてなんだ、こんな気持ち。 今はどんな賞を貰うより、爆くんを好きだと思う事の方が大事だと思うんだ」 「……雹……オメーがそんな事を言うなんて……」 現郎は飲みかけのコーヒーを置いた。 「明日は雪か………」 「ふっふっふ、今から血の雨降らせてやろうか?」 雹の目は極めて真剣なので、後ろでチャラが怯えている。 「……別に俺はオメーが誰を好きなろうが、それを止める権利は無ねぇけど…… ただ、あいつは……」 「爆くんが、何? はっ!まさか他に恋人が!!?」 「違うから日本刀は仕舞え」 現郎は止める権利は無いと言ったが、もしあったらそれを行使して全力で止めたい所だ。 雹が大人しく座ったのを見計らい、現郎はセリフの続きを言った。 「人には誰にでも、秘密ってもんがある。 俺が言えるのはそれだけだ」 と、残りのコーヒーを飲み干した。
雹は良いにしろ悪いにしろ、思い立ったら即行動という性格だ。 現郎から爆の家の場所を聞き出すと、すぐさま其処にすっ飛んだ。 爆の家は、現郎の家より1周りほど大きかった。 一緒に住めたらなーと軽く妄想に浸りつつ、呼び鈴を鳴らす。 程なく爆が現れる。自分を見て顔を顰めたので、追い返されたりしないよう早速会話を切り出す。 「朝はゴメンね?気を悪くさせちゃって」 「別に……構わん」 素っ気無く言う爆に、雹は”構ってくれなくちゃ困るの!”と矢継ぎ早に話しかける。 「そりゃ確かに小さいなんて言っちゃったけどさ、ちゃんと家事もこなして立派な大人……」 そこまで言って雹は強引に爆の手で口を塞がれる。 また何か怒らす事を言ってしまったんだろうか、と慌てる反面、唇に触れる爆の間食にドキドキもしたり。 手は直ぐに離された。雹は素直に残念に思う。 「……とりあえず、中に入れ」 促され、玄関口に足を入れる。 「……君、1人?」 その室内からは爆以外の人の気配は、無かった。 「叔父と一緒に暮らしていたがな。3年前事故で亡くなった」 「そうなんだ……ごめん」 「気にするな。事実を言ったまでだ」 「何だか僕、君を不快にさせてばっかりだね」 自嘲気味に笑う。自分にこんな感情があったなんて、と少し驚く。 いつも傍若無人で他人を踏み歩いてきたというのに。 そんな雹に、爆はゆっくりと話し掛けた。 「……本当に、今朝の事はもう気にはしてないんだ。 あれくらいの事で態度を乱して、大人気が無かったと反省していた」 「大人気ないって言ったって……ううん、何でもない」 子供じゃない、と危うく失言をしかける雹だった。 「で、用はそれだけか?」 「ううん。これからが本題」 雹は良くも悪くも行動的で。 「僕、君の事が好きなんだ。付き合って?」 「………は?」 唐突の告白に呆気に取られた爆に、雹は”そんな顔も可愛いなぁ〜”なんて蕩けた事を考えていた。 「な、何を言ってるんだ、貴様は……!?」 顔を赤くし、ずざ、と後ずさる。 (赤い……って事は、結構脈あり?) 気をよくした雹は、にっこり微笑む。 それに爆はますます赤くなる。 こういう和やかな表情は、雹の自覚以上に他人へ好印象を与える。 軽い硬直状態にある爆を、雹は身体を傾けさせるように、胸で抱きとめた。 「ぅわ……!」 逃げようとする爆を、抱え込む。小さな身体はいとも簡単にそれを実行させてくれた。 「ねぇ、爆くんは僕の事、好き?」 「そ、んな急に……、少し」 「待たない。今決めて?」 そういう事は、本当は一目で決まる事だから、と。 事実自分はそうだったから。 極耳元で囁けば、背中に回した手にも鼓動のリズムが伝わる。 (可愛いなぁ、もうこんなになっちゃって…… キスとかしたら、どうなるんだろう?) ワクワクと無邪気に不埒な事を思う雹であった。 しばらくそうしていると、やがて、意を決したように言葉を口にした。 「雹……貴様が好きだというのは、目の前のこのオレか?」 「?うん」 何か含むものがありそうなセリフだが、好きだという事は認めてもらわないとならない。 「どういう所が、好きなんだ?」 「うーん、全部と言ってしまえば全部だね。 その瞳とか、手触りのいい髪とか。 小さいのに一生懸命で大人な所とかねv」 そう言って、より強く抱き締めようとしたが、その手は解かれた。 恥ずかしいから、ではなさそうなその力加減。 明らかに拒絶、である。 「爆……くん?」 固まってはいたけど、嫌そうには見えなかった。……少なくとも、さっきまでは。 「-----帰れ」 低く震えた、怒りの声。 「あの……小さいとは言ったけど、別に馬鹿にしてるんじゃなくて」 「違う!そうじゃない! もう、帰ってくれ!顔も見たくない!!」 「ば、爆くん?」 ぐいぐいと力任せにドアの向こうへと押しやられる。 自分も力でそれに対抗する事は容易い。 でも、爆の態度にショックで何も出来ない。 されるがまま、外に出されてしまった。爆は顔を上げない。 「……オレに、二度と話しかけるな!」 バタン!と大きな音を立て、閉まったドア。 雹は”なんで?”を頭に埋め尽くし、その場に立ち尽くした。
小さい頃、爆の世界には叔父の炎と、近くに住んでたまに来る現郎だけだった。 特に一緒に住んでいた炎には、無垢の信頼と、無償の愛を感じていた。 そんな、ある日の事だった。 「爆」 「うん?」 膝に座らせて、頭を撫でる。 まるで子供扱いだが、炎なら、それを許す。 「俺の事、好きか?」 「ああ、好きだぞ」 少し頬を染めて言った。 炎はそれに満足そうに微笑む。そして、机の上のマグカップを取った。 「だったら、コレを飲んで。そうしたら、俺とずっと一緒に居られるぞ」 「ずっと?」 「あぁ」 差し出されたカップを取り、こくんこくんと飲み干す。 「爆は……いい子だな」 ずっとずっと、お前は俺の爆だ。 頭の手が、何度も髪を撫でた。
炎が飲ませた物。 それは、何か最初は解らなかったが。 ----数年が立つと、この効能は明らかとなった。
------炎!どうしてオレは大きくならないんだ!?
俺の爆だからだよ
------嫌だそんなのは!オレはちゃんと大きくなりたいんだ!炎!!
-----ずっと貴様の望むまま、小さいままで居たのに、どうして死んだんだ! 死ぬなら、元に戻していけ!炎! 炎--------!!!
「------っ!」 がば!と勢いよく爆は起き上がった。 場所は居間で、ソファの上。 ……雹を突き返してから、此処で…… それで、そのまま寝てしまったのか…… 乾いてしぱしぱする目を擦る。 と、横からコンコンと窓を叩く音がした。 「現郎……?」 「悪ぃな、こんな所から。何度呼び鈴鳴らしても出なかったから」 どうやら爆が目を覚ましたのは、現郎が窓を叩いたかららしい。 「すまん、ちょっと寝ていて…… 今、玄関開けるから」 「いや、これ渡しに来ただけだ」 開けてもらった窓から、ぽんと放る。何かの液体が詰まった瓶だった。 「今度は大丈夫だって激が言ってたけど、あんまあてには出来ねーな。 -----それと、雹と何かあったのか? さっきからアイツずっとチャラに当たりっぱなしでよ」 「………別に」 解り易い爆の態度に、あぁこりゃ何かあったな、と確信する。 「なぁ、老婆心で言うけど、雹の想いは本物だぜ?腐れ縁代表して言うよ。あんなマジの雹、今まで見た事が無ぇ」 「…………」 その分気味が悪いけどな、とこっそり付け足す現郎だ。 じゃあこれで、という現郎に、爆は言伝を頼んだ。
「……僕の世界は……墨を塗ったくったみたいに真っ暗だ……」 チャラをいびる事に虚しさを感じた雹は(単に飽きたとも見られる)さめざめと泣いた。 今ままで、いやこれからもきっと一番好きであろう想い人にあんなに手ひどくふられたのだ。気は解らないでもないが、如何せん鬱陶しい。 「おい、雹」 「何さ」 黒い雲を纏わりつかせながら返事をする雹に、現郎はまさに生ける屍だな、と素直な感想を持つ。 「あのな、爆が今から家に来てくれ----って」 後ろを一陣の風が過ぎ去ったと思えば、机に突っ伏していた雹の姿はなく。 「……心霊現象かっつーの」 呟かれた声が本人に届く事は無かった。
「………爆、くん?」 「----雹か。なんだが随分早いが……」 少なくとも、現郎が直ぐに帰って伝えたとしても、あと5分はかかるかと思ったのだが。 「入れ」 「あ、うん……」 何ともぎこちなく手足を動かし、導かれ靴を脱ぎ室内へと入る。 -----緊張しているのがはっきり解る。 ソファに腰を落ち着けて、ようやっと口が開いた。 「爆くん!僕は……!」 堰を切るように言い出した言葉に、爆が待ったをかける。 「少し、待ってろ」 そう言って、部屋から出て行く。 別の部屋に行ったらしく、外には出ていないみたいだ。 カチコチと時計の音がやけに響く。 しばらくして爆がやってきて----その格好に面食らう雹。 何せ、爆はシーツを被り、その下には何も身につけていないようだったからだ。 「ば……爆くん?その姿………?」 「あぁ、服を着ていてもどうせ破いてしまうからな」 えーっと……雹はその意味を考える。 そしてコホン、と軽い咳払いをして、僅かに頬を染めながら、 「爆、くん?僕、そんなに乱暴しないよ?」 「-----違うわ馬鹿者!!!」 雹の何倍も真っ赤になった爆が怒鳴る。 「所で雹、貴様、オレが何歳に見える?」 「え……?10歳くらい、じゃない?」 訳の解らないまま答える雹。 それに沈痛な表情を浮かべ。 「本当はその倍だ。……今年で二十歳になる」 「ハタ………!?」 爆が冗談を言っているようには見えない。 (じゃあ、真実!?) にわかに信じられない現実に、雹はただ驚く。 「薬で成長を止められて、ずっとこのままなんだ」 「ほ、本当?」 「あぁ。で、貴様はどうする?」 「どう……って、僕は全然構わないよ!?年上だろうが、薬で成長止まってようが。 て言うか、むしろラッキー!?可愛い男の子が好きな僕としては、とっても理想! ずっと君の事愛し……」 「……そんなのは愛するだなんて言わない! 結局貴様も炎と同じだ!小さいままのオレを可愛いがりたいだけなんだろ! そんなオモチャみたいな扱いは、死んでも御免だ!」 爆はシーツの中の手を外へ出す。 その手には、先程の小瓶が握られていて。 「何か解るか?成長促進剤…… これを飲めば、オレは本当の姿に戻れる。 そして、今度こそ貴様とはさよならだ」 「爆く……」 「………好きだと言われて、少し嬉しかった」 「爆くん!」 くい、と小瓶の中の液体が飲み干される。 「爆くん待ってよ!ちょっと僕は気づいていたんだ、君は本当はずっと年上なんじゃないか、て! でも好き!それでも大好きだよ爆くん!」 ぽふん、とコミカルな音を立て、周囲にパステルブルーの煙が広がる。 その向こうに僅かに見えた爆の顔が、赤いような気がした。 「雹……本気、か?」 青い煙の向こうで爆が言う。その顔は見えない。 「本気だとも! だから爆くん、さよならなんて、2度と………」 すう、と煙が引いた。 雹はそこに現れた姿をはっきり見取れた。 「爆、くん……?」 「中身は、な。 ……鏡見ないと何とも言えんが……どこか変か?」 「そんなこと……」 不安げにソファに投げ出されていた手を、優しく握る。それは自分よりも大きくて。 「すっごく、綺麗だよ。 ……僕は君が君さえ居れば、外見なんてどうでもいいけど……」 「けど?」 雹はクス、と小さく笑い、近くに顔を寄せて囁く。 「僕、これから年上趣味になりそう」 そう、悪戯に囁けば、爆が大人の余裕を見せてやろうと。 口唇を、強引に合わせた。
時計の檻にさようなら。 この針はもう止まらない-------
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