それでも、 自由なキミが好きなんだと言ったら
その言葉は罪になるのでしょうか
「爆君、何処かへ行くの?」 昼食後の後片付けを済ました後、上着を着ている爆に雹はそう問う。 爆はいつも出かけるなら前日から言ってくれるから。 「激から借りてた本を返すだけだ」 夕食までには帰る、と言う。 「ふぅ……ん」 雹は何でもないように返事をする。 そして当たり前の事実を思った。
----僕以外のヤツと会うんだ
あっという間だった。 その暗い感情が全身を侵すまでは。 靴を履いてる爆の背後へ、気配を全て消して近寄る。 爆は決して鈍感ではない。 が、爆と居る時には雹は自分の気配を消す、なんて事は今までなかったら、簡単に腕の中に収められてしまった。 「………雹?」 別に、抱き締められる事自体は驚かない。 ただ……まるで逃げる者を捕まえるような、この行動が。 「………爆、君……」 呼ばれ、反射的に狭い腕の中、振り返る。 と、そのまま口唇を塞がれた。 「----んっ………」 それは、どう見方を変えても、いつもしてくる「いってらっしゃいのキス」には程遠くて。 どちらかと言えば、夜、雹に抱かれる時にされるような類のものだ。 「……ひょぅ………ッんン!!」 すでに靴を履き、土間に立っていた爆。身長差に加え、廊下の段の部分も含め雹の唇まで遠かった。 それまで、爆にあわせて腰を屈めていた雹だったが、顎をしっかりと掴み、爆を自分の方へと持って来る。 爪先立ちにしてもなお、片足は浮いてしまう。この体勢はかなり苦しい。……首が千切れそう。 「んく、ぅ……う………ッ」 爆は無意識に一歩雹へと踏み出した。廊下へ乗り上がる。雹はそれを苦しさ故と解ってはいるが、それでもまるで、自分を求めてくれるようで欲望がエスカレートする。 雹の思うままに蹂躙される口内。頭の端で、靴を履いたままだから、廊下が汚れる、とだけ思っていた。 口唇を離し、ぼんやりと焦点の合わない爆の頬にキスをして、一旦壁に爆の背を預ける。 「………ひょ……う……?」 ようやく顔を合わせた雹の双眸はぞくりとするくらい---- -----………熱かった。 これが何を意味するか。解らない訳がなかった。 「ちょ……待ッ……!」 抵抗をするが……先ほどの執拗なキスのせいで、上手く身体に力が入ってくれない。 「爆君が可愛いから……したくなっちゃったv」 「ん…………ッ!」 鎖骨の辺りから頬にかけて、細い指が一気に伝う。 雹、と言った後、もう声は出ても言葉にはならなかった。
とても喉かな空である。 曇りではないが、それでも真っ白な雲が日差しを和らげてくれて、昼寝をしなさい、とでも言われてるみたいの。 「いい天気だなー。うーん、こんな日にはきっといい事が起き」 ズゴーン!! のーん、と和んでいた激の後頭部に何かが当たった……というか突き刺さった。 「本、返したからね。じゃ」 「待たんか-------------い!!!」 きちんと舗装されたハードカバーの本の角がまともにぶつかったが意識沈没なんかしないもん!! 激は滴る血も拭わずに(ビジュアル的にものすごく怖い)雹の前までテレポートした。 「オメーの国じゃ何か返す時にゃその物品ぶつけるのがしきたりか!?あぁ!? おうおうだったら今度覚えときやがれって言おうと思ったけど良く考えたら俺がオマエに何か借りるっつーシチュエーションが有り得ぇって事は俺ぶつけられ損かよ--------!!」 「あ、蝶々だ」 「目の前の血を流してまで訴えてる霊長類より空飛んでる昆虫に注目すんのか!ファーブルかオマエは!!」 激、そんなに興奮すると出血増えるよ。 ピューッ(←あ、出てる)。 「いや、それは違うよ、激」 雹はぽん、と激の肩に手をやり。 「僕は別に特別蝶々に興味がある訳じゃないて、全力をかけて君を無視してるだけ」 「………………………………………………殺ス」 青々と茂る草が今まさに赤色に染まらんとした(ていうかすでに一部は赤い)瞬間だった。 激はふと気づく。 「……そー言えば、お前に何か貸した覚えなんてねーぞ?」 雹が激の部屋に無断で忍び込んで、という可能性は却下だ。 そこまでして関わろうとする意思は2人の間には、無い。むしろお互いを抹消したいくらいで。 「僕じゃないよ。……借りてたのは爆君」 言う雹の顔が何故か顰められる。 ふーん、と激はだいたいが飲み込めた。 爆はこういう事柄を人に頼んだり、押し付ける人間ではない。 しかし、実際に来たのは雹。 つまり、爆は今動けないって事で、そこまでの経緯は……以下15禁(15禁か?)。 「あいっかわらず独占欲お強いこって。ンな事だと爆に見限られても知らねーぞー」 「……うるさいな!解ってるよ!!」 珍しく切羽詰まったような雹の声に、激の顔からもふざけた笑みは消える。 (これは……マジやばいって状況?) 「なぁ……何かあったんだったら言ってみろよ。 俺には何も出来ねーと思うけど、せめて話聞いて”バッカじゃねーのオマエ”と酒でも煽りつつ野次飛ばしてやるくらいは」 「………………何も出来ない以上だね………………」 腰に手を伸ばしたが、逃げるように出たため得物を忘れてた。チッ! 「貴様に相談なんて、それこそ3回廻ってワンと鳴くくらい屈辱的だけど…… まぁ、これだけは言いたいかな」 激に言うのではなくて、自分へ。
大好きな人って、好きにならないのが一番だね
「どうし、ようかなー……」 ぼそ、といつもの彼には似つかわしくない弱々しい声で呟く。 どうしようも何も、する事は決まっている。 すぐさま家に帰って--いや出掛けた事がすでにおかしい--爆に謝って介抱して。 ……怖いのは、爆に拒絶される事ではない。そうなったらそれでもいい。それでも爆が好き。だから、いい。 ただ、爆を壊してしまいそうで。 ……今の爆なら、自分でもどうか出来ると。 さっき暴走したモノが執拗に囁くから。
昔思い描いていた「好きになる」って事は、キラキラしていて、それでとても幸せなんだろうな、て。 なのにね、現実には僕はいつも何かに怯えていてモヤモヤしてて。 大好きな君がいつもすぐ側にいつも居て欲しくて、戒めて閉じ込めたいのに。 それなのに本当に僕は自由な君が好きで。 好きで。 ねぇ。 出来ることなら。
綺麗に君を愛したかった
キスもしなくていいくらい
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