某月某日。 爆の学校で「秋の読書週間」なるものが勃発し、その週間内に一枚読書カード……A5サイズの用紙に、自分が読んで面白い!と感じた本のざっとした内容と感想。そしてその本の絵を描くものである。を、提出しなければならない。 提出しなければ、もれなく国語の点数が下がるという、強制的なものであった。 「あー、もう、何読めばいいのよ!」 ピンクは頭を抱えた。 なぜなら、紹介する本はマンガは禁止だからである。 「一体誰が考えたんだかね!こんな企画!!」 「普段から漫画ばっかり読んでるから、こういう催しが出るんだろうが。 諦めて適当に読め」 「あ!爆、漫画をバカにしたわね!?日本のコレは、もはや世界に胸を張れるリッパな文化の1つなんだから!」 「オレは漫画自体を馬鹿にはしてない。漫画ばっかり読んでる貴様を馬鹿にしてるんだ」 「あいっかわらず可愛くない口きくのね…… でも、だって本当に面白いんだもん。 アンタもちょっと読んでみなよ」 と、言って差し出された1冊の漫画本。 それが、今回のプロローグとなった。
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最近、爆がなーんか可笑しい。 可笑しいといってもほんの少し、はっきり言って恋人である俺じゃなければ気づかない程度の変化だろう。 「な、爆、最近何かあった?」 回りくどいのも何なので、単刀直入に訊いた。 「いや、別に?」 爆はそつなく答えたが----ちょっと間が空いた。 怪しい。 ”可笑しい”が”怪しい”になった。 そしてこりゃ何かあったな、と直感する。 んー、まぁ、でも。 何かに傷ついたとか悲しんでる、とかいう類じゃなさそうだし。 爆が自分で判断して、俺に話す事は無いとしたのなら、その意見を尊重したいし。 じゃ、この件はこれで終わり☆
………なーんてあっさり終わらせる訳ねーだろ! チキショウ!何処の誰だか何があったか知らねーけど、俺の爆の心に入りこむなんざ、死んでも早い!! しかし爆がああ言って否定している内は、俺がどんな手を使ってでも話してはくれないだろう。嫌われるかもしれないし(重要)。 ならば、俺が周りの状況見て推理するしかない、か。 ふ。自慢じゃねーが、御手洗潔シリーズはきっちりコンプリートしている! 推理立てるなら、まずはそれの材料がねーと。 俺はそれとなく爆を観察してみた。普段ならこういう視線に敏感な爆だが、自身隠し事をしているせいか、バレずに済んだ。
変った事その1。 ・本屋でマンガのコーナーに長く立ち寄るようになった。 (以前は新書とか文庫の方によく居たのに)
変った事その2。 ・水曜の日はすぐ帰る。 (以前はちょっとくらい付き合ってくれたのに)
変った事その3。 ・何か俺の顔よく見てる。 (これは大歓迎なのでヨシ!)
これらの事柄から推測出来る事とは!! 「………………。 わ、解らねぇ………」 どーせ俺はズールー族の踊りも出来ないただのナイスガイさ……
は。 もう夜も遅いしふとこのまま眠りにつきかけたが……思い出した!! あの日だ、爆の態度がちょこっと変ったのは! 玄関に蛾が居ついたんで、殺虫剤で撃退したんだ。吸い込んだら嫌だから、バンダナで口を覆って。 んで、爆が来て。 「よーっす。何か蛾が居てよー」 俺は挨拶がてら説明した。 その時、爆が小さく何が呟いた。 人は考え事をしていると、無意識にそれを口に出していたりする。 この時の爆もそれだったんだろう。 独り言にすらならなかった小さな呟きは、耳にまで届く事は無かったが、ほら、俺ってば読唇術出来るし。 爆は、こう言っていた。
”やっぱり、似ている”
似ている。 誰が、誰に。 少なくとも、そのどっちかは確実に、俺だ。
「そりゃ、やっぱりあれだろ。 オメーによく似たオメーよりずっと優しくて賢くて理性のあるヤツが出てきて、マンガはそいつの趣味で水曜日はそいつに会って」 「現郎---------!!オマエはどうして俺が避けた答えを大根おろしみたいにあっさり言う-------!!」 「それが、一番合理的な答えだろ」 「うぅぅぅ」 そーだよなー、そうなんだよなー。 現郎の言う通り、それで全部整理出来ると言や出来る…… 「でも何で他のヤツなんか!」 「激……オメー、心当たり無いとか断言できるか……?」 ……えーと。 「合意だから」 「そうじゃねぇ」 一縷の希望はスパっと落とされた。 「いいか、激。 例えば、オマエが服を見つけたとする----」 何だ何だいきなり。 「その服は、デザインは好みだったが、色はいまいちだった。 でも他に欲しいのが無かったから、それを買った。 で、その後。 似たようなデザインで色もばっちり好みに合ったのがあったら、どうする」 「買う。 ………って、俺は服じゃねーぞ!?」 「あくまでたとえだたとえ」 「生生しいんだよ、今のたとえ!!」 ガタ!と立ち上がって抗議したいのをこらえる。さすがに店内ならともかく、オープンテラスでそれはどうかと。 頼んだコーヒーフロートがカフェ・オレに変りつつある。 あぁ、爆。 今のオマエの心は何処にあるんだ? 「結局、オメーの甲斐性と理性の無さが原因だ」 「煩いっての!!」 俺は涙まで出てきた。
考えろ、よく考えろ、激! お前の爆は浮気をするようなヤツか!?お前は浮気されるようなヤツか!? 答えは断じてノー!!在り得ないったら在り得ない!! 今までの事は他に何か理由があるのさ!でなきゃ気のせいさ!! てな事を10分間くらいマインドコントロールして、俺は爆に電話をかける事にした! ここのところ、何処かに行ったり、てイベント無かったからなー。補習とかあってさ。 俺の名誉の為に弁護するけどよ、全員参加のヤツだぜ。 何処へ行くかは、爆と話して決めよう。俺としては、2人で静かに出来る所がいいけどな。 爆の番号までを決定させるまでの手順はすっかり指が覚えちまって、うっかり他のヤツにする時でも爆のを選択しちまう事もしばしば。 うーん、普段爆は俺のvと主張してるけど…… これじゃよっぽど、俺が爆のだ。 耳から聴こえるコール音。 1回、2回、3回…… んー、ちょっと手間取ってるのかな? と、俺は今気づいた。 今日は水曜日じゃん!! はわわわわ、だから出ないのか、爆!? 「激か。何の用だ」 受話器越しに爆の声。 出た……普通に出たじゃん!! 何だよ、現郎のヤツでまかせ並べやがって☆ 「………激?」 は。いかん。安心してたからお口がお留守だった。 「あーと、よ、この次の日曜か土曜、どっか行かねぇ?」 そう言って切り出した会話。 爆が返して、俺も返して。 うんうん、いいよな、こういう時間。 密着してベタベタしてるもの好きだけど、こういう精神面も意外と大事にする方だからな。俺は。 「んでよー……」 「----あ!激!すまん!! ちょっと用が……電話、もう切るからな!」 え。 と一瞬固まった隙に電話は切れた。 あの………えぇと? ツーツーとしか言わなくなった携帯をまだ耳に付け、呆然となる。 そんなに急に…… 今日が水曜だから………? ”水曜はソイツに会って” …………… …………………誰か。 誰か嘘と言って!!!!!
どんなに夜、打ちひしがっても、朝は来る-----あまり爽やかとは言えないが。 俺は……爆を信じるよ? 信じているけど……浮気の可能性以外で、あえらの事例をすべて説明出来る事が見つからないんじゃ…てん やっぱり、それ、て事になるよな………(何か”……”の連発で文面すら病んでる) 爆に、これからどうやって会えばいいんだ………? ------話は急に変るが----- 運命の神様、てヤツは、余程意地が悪いらしい。 だって。 爆にどう会えば、なんて思った矢先。 ガー。 目の前の本屋の自動ドアから出たのは。 「爆」 だったんだもん。
爆は本屋から出た時、すっげぇ嬉しそうな顔していた。 のに。 「激!?」 て、俺に気づいた途端、その表情消しちまって、買った物だろうと思しき紙袋をさ、と後ろに隠した。 何か…… 色々、タミング最悪過ぎ。 俺が悶々としている時に、そんな反応取られちゃーなぁ…… ちょっと、不安に、ていうか、何て言うか。 でも、俺は爆より年上だし。 このくらいで、爆、詰っちゃダメなんだよな……… 「な!え!?げ、激!?」 何やら途端に爆がうろたえ始める。 俺に見つかったのが、そんなにショクだったのか? 「こっち行くぞ!」 と、乱暴に腕を掴まれ、歩く。 爆に他に好きなヤツ説がいよいよ信憑性が高まったせいか、俺はされるままに連れて行かれた。 ついた先は、公園。 誰も居なかった。 腕を引かれ、ベンチにへたり、と座る。 「ほら」 「?」 と、差し出されたハンカチの意味が解らない。 「何を泣いてるんだ、お前は」 「-----え?」 俺、泣いちゃってた!? 爆に好きな人が出来たかもしれなくて、もう今までみたいに会ってくれなくなるかもしれなくて。 それで、泣いてたの!?俺!? それってどーよ、無茶苦茶格好悪いし!! 「マ、マジで、……あ、濡れてら」 頬に手をやれば、あるはず無い水気。 「全く……何なんだ」 いつまでもハンカチを取ろうとしない俺に、強引に涙を拭く爆。 言ったら絶対殴られるだろうけど、何だか母親みたい。 ………そう、だったのかな。 爆としては、俺との事は家族愛の延長みたいな感じで。恋愛と錯覚してて。 はっきりこの気持ちは恋愛だ、て相手が出てきたけど、今まで付き合っていたから別れにくい…… そんなの。 そんなの。
嫌だ。
「激?」 はし、と目の前の爆の腕を掴む。 -----逃げないように、捕まえた。 「爆……」 「ん?」 「爆……」 「……どうした?」 もう、十分格好悪いから。 「お前……浮気とかしちゃってる?」 あーあ、言っちゃった…… 何て言うか、俺的には一番言いたくなかったセリフだ。 だってハズレだったらかっこつかないし、アタリでもなんだかなぁ、だし。 相手が浮気してよーが何してよーが、ドンと構えてそれでフッってくれればそうしろ、て。 ……そう思っていたのは……本気で好きなヤツが居なかったからだな。 爆が、初めて。 そうか、俺の初恋は爆なのか。 「好きなヤツ、他に出来た?俺の事キライじゃないけど、結構どうでもいい?」 「な、何を言って……!」 「だって……最近、爆変ったんだもん……」 ”だもん”て何だよ、俺、”だもん”て。 「前はマンガあんまり読まなかったのに、今は興味ありそうだしさ、水曜はとっとと帰っちまうしさ、何か俺の事窺っているしさ……」 「それは………」 「でもよ」 爆が何か言いかけたけど、それを遮って続けた。 だって、ここで言わないと永久に言えないような気がして、そして伝え損ねるが嫌だった。 「爆が他のヤツ好きになっても、俺は爆の事、ずっと、ずーっと好きだからな。 いくら、爆が、俺の事、忘れて……も………」 あー、また涙出てきたよー!! 情けない!格好悪い!ダサ!!超ダサ!! でも、それを見せているのが爆で、そうさせているのも爆ならいいかな、て。 うわ、本当に俺惚れてるんだ。 俺は、爆の物。 ん、いい響きだ。 バチ-----ン!! いきなり、両頬に痺れみたいな痛みが走る。 爆が平手で思いっきり頬を叩いた。 「お前と言うヤツは!! 面白いくらいに勘違いして!!」 「勘違い、て、じゃあ本当は何なんだよ!」 売り言葉に買い言葉。 喧嘩腰の爆に、俺の口調も荒くなる。 爆は頬から手を離し(よく考えたら、俺が腕持ったまま叩いたって事だな。……器用な)一度ゆっくり呼吸した。 「……笑うなよ?」 何を、と言う前に、爆はさっき買った紙袋を出した。 開けていいの、と聞けばこく、と頷く。 ガサガサと開けてみれば、買ったのはマンガの単行本で、某週間少年誌で連載中の、「おまえそれで忍者のつもりか!」と誰もは一度は思うだろう服装の主人公のマンガだ。俺も知ってる。 「これが、何?」 「……こいつ」 爆は俺に持たせたまま、ペラペラとページを捲る。 こいつ、と指した先は主人公の上司だ。 何?何?何?と俺の頭の上にはハテナマークの大洪水が起こっているだろう。 「だから、そいつ」 爆は言った。
「何だか、激に似てるな、て………」
…………… へ? すると何ですか、爆くん? 「このマンガ買うの、それが理由?」 頷く爆。 「水曜日はこれのアニメやってるから?」 頷く爆。 「俺の顔見てたの、似てるなーって思ってたから?」 頷く爆。 言葉でリアクションを表してしまえば皆同じだが、顔の赤さが段々増している。 そういえば……このキャラ、口元布で覆ってるし、あの時の俺も口隠していたし…… 「お前……おま…… そっくりさん大事にして、本物冷たくしてどーするってんだよ!!」 「大事、てそんな! 正直に理由言ったら笑うだろう、貴様!」 「笑わねぇよ!!嬉しいよ!!」 即座に返ったその答えに、爆がきょとんとする。 ちゃんと意味が解ったのは、俺に抱き込められて、キスされてからだろうな。 大丈夫。 お前の好きな俺のそっくりさんが出ている本は、ちゃんと汚れないようにしてるから。
「それでさ。 参考までにどういう所が似てる訳?」 俺も内容とかキャラとか知ってるけど、どーしても俺と結びつかない。 「えぇ、と。 まずはいつもぼんやりしてる所だな。 でも決める所は決めて、部下思いの所とか、しっかり見てる所とか…… 一番似ているのはやっぱり」 爆は俺を見る。 「垂れ目、だな」 「…………」 にっこりされてそう言われて、すごい微妙な気分でした。 ま、今まで変えなかったものを変えた理由が、俺に関してだから。 全部、よしとしましょう。 (あー、現郎にゃ後できっちり話しつけないと)
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