会話の間が持たなくて、とか。
喧嘩して気まずいとか、とか。
それならまだ何となく解るのに、こうして会話の途中を遮ってまで、抱きしめるのは何故なのだろうか。
「……オイ」
「ん?」
炎の胸と腕に挟まれて、何とも窮屈そうな不満の声が、隙間から零れる。
抱き締められるのは背後からだったり、正面からだったり。
今日は、正面だ。炎の着ている服の生地が、細かいところまで見える。
「話をしている最中なんだが?」
「ああ、勿論聞いてるぞ?」
何でも無い事のように言う。
「だったら、何で抱きしめるんだ!」
遠まわしに言っても拉致があかないようなので、直入にそう言えば、
「抱きしめたいからだ」
やっぱり何でもないように言う。
「-----だから!何で抱きしめたくなるんだ!」
「それは」
それでも炎は何でもないように。
「爆が好きだからだ」
言う。
う、と言葉に詰まる爆。まだるっこしいのは嫌いなのだが、こういう会話でのストレートな言い方は、嫌いというより困ってしまう。
「……好きだと、どうして抱き締めたくなるんだ」
「それは、……やっぱり好きだからとしか、言いようがないな」
顔は見えないが、炎が苦笑しているのが解る。
そういう言い方をされると、炎を抱き締めようとしない自分が、炎の事を好きでないみたいで、何だか気分が悪い。
いくらなんでも恥ずかし過ぎる内容だから、言ってはならないが。
「本当に、どうして抱き締めたくなるんだろうな」
炎が言う。
「……抱き締められている側としては、どうだ?」
「どう……って」
「嬉しいとか、気持ちいいとか」
「お、思う訳ないだろうこの馬鹿が!!」
顔を真っ赤に、言う爆。
「ッ、近くで喚くな………」
「貴様が勝手に近くに来させたんだろうが!えぇいもう離せ!」
ばしぃ!と強めに手を振り払い、炎から離れる爆。
そんな爆を、炎はやれやれ、とかいうセリフが聴こえそうな笑みで見る。
何か、完全子ども扱いで気に食わない。
爆は意趣返しをする事にした。
「……そんなに抱き締められてる感触が知りたいなら。
抱き締められてみるか?」
「誰に」
「……ほぅ、他にそういう相手が要るのか」
「あ、いや嘘だ。本気に取るな」
爆が一瞬本気の冷気を放ったので、炎は慌てて言い繕った。
そうして、ただ今爆は炎を抱き締めている。
自分より背の高い相手を抱き締めるのだから、少々姿勢に無理があるが。
「で?」
「ん?」
「”ん?”じゃないだろうが。感想はどうなんだ」
そうだなぁ、と普段では考えられない位置の低さで、炎の声がする。
「暖かいな」
「まぁ、これだけ密着すれば」
「あと、凄く近くに居ると思うな」
「……そうか」
「そうだな……何か、抱き締めているよりも近いかもしれないな」
「距離的には変わらんだろう?」
いや、と炎は短くその言葉を否定して。
「近くに居て欲しい、って抱き締められている分より相手に近いな。
それで、もっと抱き締めて欲しい、って思う」
「………………」
「爆もずっとそう思っていたのか?」
間をたっぷり空けてから、爆はそう思いたければ勝手に思ってろ、馬鹿。と呟いた。
そのセリフは素っ気無いが、爆に抱き締められている炎には、その鼓動までも聴き取れた。
たまには、抱き締められるのいいかもな、と。
炎は爆に包まれそう思った。
<END>
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