好きになってくれなんて言える訳がないので
言える事は
”嫌いにならないで”
「何つーの?まるで飼い犬状態?」
爆と街に買い物へ出かけたら、暫くして、此処で待ってろと言われた。
どこかへ向かう爆の後姿を見ている時に、掛けられた言葉。
「激か………」
「フツーさぁ、何処へ行くんだとか、どうしてだとか、訊くもんじゃねぇの?色々とよ」
一体何時から俺たちを見ていたのか(こいつの性格を踏まえると、尾行くらいするだろうし)、そんな事を言う。
「あれこれ詮索をかけるのは好きでないのでね」
なるべく普通の口調をと心がけたつもりなのだが、やはり内面の不機嫌さのせいで、突き放すような感じのセリフになってしまった。
「……あれから4年、か」
ふいに激が呟く。”あれから”が何をさすのか、言われなくても解る。
「たった4年だけど、もう4年だぜ?
何も出来なかった赤ん坊が、一人で立てて喋れるくらいにもなってる」
「……何がいいたい?」
「許してやれば?」
4年前までの自分を。
「……………」
黙った俺を見て、激が苛立たしげに髪を掻く。
「……爆は、もう終わらせてるぜ?」
「あぁ、でも俺は俺を許してない。
……俺が爆にあれこれ聴かない理由は、お前が思ってる通りだよ」
4年前----正確には、5年前。
俺には爆を騙したという負い目がある。
嘘をつく事はしなかったが、事実を全て語らず、爆が自分にとって都合のよい解釈をするよう、先導した。
「不安なんだ。俺には爆に軽蔑される要因が山ほどある。逆にされなかったのが不思議なくらいだ。
だから、爆に嫌われるような素振りは、一欠けらだって俺には許されない。
本当は醜態を晒さない為に、ずっと会わないのが賢明なんだがな。生憎、今の俺は時々爆の顔を見ないと、満足に前も歩けない」
「………そんな風に思われてるだなんて知ったら、爆はさぞかしご立腹だろうなぁー」
「仕方ないさ。自覚はあってもどうしようもない」
「あ、そ。でも」
ぽん、と激は通り過ぎる時に俺の肩を叩いた。
「”あれ”はちゃんとどうにかしろよ?」
-----”あれ”?
と、言われた途端。
青白い炎を連想させるような、静かで激しい感情が俺に降り掛かる。
その感情が示すのは、-----純粋な怒り。
それを発しているのは、勿論。
「………爆……」
用事を済まし、戻って来た爆が、其処に立っていた。
……沈黙が重いを通り越して、痛い……
非情な事に、あれだけかき混ぜるだけかき混ぜてくれた激は、あのまま本当に帰ってしまった。
……今度会ったら、殴る!
それはさておき。
どうにか会話のきっかけを掴もうとしている内に、とうとう爆の家まで戻ってしまった。
入ってよいものか、とも悩んだが、ドアを開ける時に俺の方をちら、と見たので入ってもいいのだという風に取った。
何度も泊まった筈の室内が落ち着かない。
「あー……爆?」
爆は先ほどから、黙々と買った食料品を冷蔵庫に移している。
「まぁ……なんだ。
さっきの事は別に……お前が気にする事は無いぞ?」
「気にするに決まってるだろう」
即答だった。
「貴様の事だぞ。気にするに決まってるだろう」
はぁ、と溜息をつく爆。体内に溜まった物を、吐き出すみたいに。
その吐息が震えていたのは、気のせいだろうか。
「……なぁ、爆。俺はどうしたらいい?」
どうしたら……絶対お前に嫌われない?
後ろから抱きしめたいのを、堪える。その資格は無い。
「どうもしなくていい。お前は、お前だ。どんなになってもな」
でも、と爆は続ける。
「オレに負い目を感じるお前は、……嫌いだ」
気が付けば、抱きしめていた。
頬の下にある手のひらに、ほたりほたりと涙が落ちる。
あぁ、やっぱり泣いていた。
「……オレは、貴様と対等になりたくて、1年頑張ったんだ」
「あぁ」
「それなのに、今度は勝手に落ち込んで。勝手に距離を作る」
「…………」
「何時になったら、オレは貴様に近づける………!」
「すまなかった……ごめんな、爆………」
「この、馬鹿……!」
喉に詰まるセリフの数々が、痛々しい。寄せた唇に零れた涙が、舌を刺激した。
「爆…………」
抱きしめて、抱きしめて………抱きしめて。
大丈夫。こんなにも近くに居るよ、と。
爆が泣き止むまで続けた。
爆から渡されたのは、シンプルなプレートが付いたネックレス。
あの時、一旦俺と別れたのは、これを取りに行った為だった。
それはいいとして。
「……何でなんだ?」
俺の中で禁忌とされていた、爆への質問をする。
「別に……やりたいと思ったから、やりたかったんだ。それだけだ」
本当にそれが理由らしく、言い終わった爆は顔を逸らす。
思い出せば、あれは何処かへ向かったというか、来た道を戻った、という感じだった。
露店がたくさん並んでいたから、その内のどれかだろう。
「プレート。文字入りのもあったんだがな、貴様の好きなのを入れられるように、無地のヤツにした」
「そうか……」
チャリ、と摘み上げ、プレートを目の前に掲げる。
「だったら……爆の名前でも入れるか」
その言葉に、爆はぎょっとし、顔を赤くする。
「なッ!馬鹿!そんなの入れるな!貴様のだぞ!?」
「だから、入れるんだろうが」
好きになって、だなんて
口が裂けても言えない時から、
ずっとずっと想ってました。
「俺は、お前が好きだからな」
貴方が好きです。
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