何故だか、不意に意識が浮上した。 何でだろう、と夢現に思っていると、上に掛けた布団が腹ぐらいにまで下がっている。 寒さと感覚的な心許なさのせいか、と思った爆は目を閉じたまま引き上げようと試みる。 が、それ以上はあがらず。 気休めに傍らにある体温に擦り寄ってみた。身体を横にして、抱きつくようにすれば温かい。 …………………… ………体温? 唯一の旅のパートナーの聖霊は自分が擦り寄れるまでの体躯を持っているはずがなかった。 じゃあ今ここで隣に寝ているのは何なんだ!? ガバァッ!とちゃっかり肩に腕が回っていたのを振り解く勢いで起き上がる。 隣の謎の人物はまだ寝たままだ。 あれだけ直ぐ横で大きな動きをしたというのに、結構寝汚いのかもしれない。 「……………誰……ッ!!!」 誰何の声が途中で止まる。 爆は瞬きをした。 目の前の人物を見た。 もう一度、瞬きをした。 で、ようやく現実を受け入れた。 最後見たときより成長はしているが、これだけは変らない昇ったばかりの太陽に照らされる、緋色の髪。 何で、何で、何で--------!!? 「炎---------!!!?」 早朝にしては若干非常識な音量で叫んだ。が、やっぱり炎は起きないですやすや安眠を続行させている。 「…………! 炎!オイ!起きろ!!何で貴様が此処に居るんだ!!!」 寝たままの肩をゆさゆさしても起きなかったので、今度は頬をビシビシしてみた。 叩く爆の手も痛くなろうという所で、よーやく炎が、なんとかようやく辛うじて目を開けた。 さすがに現郎と暮らしていただけあって寝汚い……等と思っている場面では無い。 何処か不機嫌そうに辺りを見渡していた炎の双眸が、爆を見つける。 「……………爆…… 朝早く煩いぞ……………」 どうやら夢と現実の区別がまたつていないようだ。 「朝早いとかそんな生優しい事取り上げてる場合じゃないだろ!! 貴様宇宙へ飛んだはずだろ!!国作りはどうした!!」 「……少し、黙れ……」 「ええい、まだ寝惚けてる………ッッ!!!」 矢継ぎ早に質問する爆に、炎は少しばかり強制的に黙らせた。 つまり………
この日、とある宿のとある一室でバシイイイイイ!!と聞いてるだけで痛くなる音が轟いた。
「……………ッ!!」 「…………」 炎の髪が赤いのは生れ付きだが、頬が赤いのは爆に引っ叩かれたからであり、そして爆の顔が赤いのは炎に……されたからであった。 「……爆?」 「……ようやっと目が覚めたようだな………」 どちらかといえば精神的疲労の為に肩で息をする爆は、振り絞るように言った。 「て事は、今のは現実か…………」 「そうだ………って。 今の口振りだと、お前はいつも夢の中であんな事をしているみたいに聞こえるが!?」 「いいじゃないか、キ………」 「わー!言うな!!わーわー!!!」 爆は真っ赤になり、炎の口を塞いだ。 その手を面白そうに見やり、悪戯に口付ければ、赤い顔がもっと朱に染まった。 「はは、真っ赤だな」 「うーるーさーいーぃぃぃぃぃッッ!!/// 貴様は何をしにきたんだ!!とっとと帰れ!!」 「何を……と問われてもなぁ……」 炎もまた困ったように頭を掻く。 「いつも通りに寝て、起きたら此処だった」 そして目の前に爆が居たから、口付けた、という訳だ。 「どうも……”爆に会いたい”、という気持ちが強すぎて無意識にテレポートしてたみたいだな」 大した事ではない、と言う炎に、爆は半ば感心しつつ呆れた。 「……ある意味凄いヤツだな」 「褒めてくれるなら一緒に来てくれ、爆」 「断る」 どさくさ紛れの炎の本気の告白は、それでも遭えなく沈没してしまった。 「オレはオレの、貴様は貴様の夢を叶える。 オレはまだこの世界を制覇していない。 だから----一緒には行けない」 「…そうか」 「……例え、このまま、離れ離れで死に別れても……後悔はしない」 「…………そうか」 ずっと側に居てくれたら、と思わない訳はない。 が、それで相手や自分を束縛するのはもっと嫌だから。 そんな自分たちを、他人はどう思うだろうか。 愚かだとでも言うだろうか。 でも。
これは自分の……”愛し方”でもあるから。
抱き締めてキスするだけが全てじゃない……と、思う。 「……俺も俺なりに覚悟は決めてるからな……そうなった時の心構えは一応しているつもりだ。 ただな、爆」 なんとなく目を逸らしていた爆は、呼ばれた事で目を合わせた。 「会えないまま死ぬ事はないよ。 もし俺が死んで魂だけになったら、俺はお前の所に行くだろうから。 転生なんか出来なくてもいい。 ………お前の元へ還りたい」 切々と語る口調は、本音の声だという事を、如実に語っていた。 それをまともに当てられ、爆の視線も宙を泳ぐ。 さっきから顔の温度が限りなく上昇しているように思えるのは気のせいだろうか。 「…………。 何を、馬鹿な………」 平常を装い、何かを言わねばならないのだろうけど、喉が塞がったみたいに言葉に詰まる。 あんな戯言言われたくらいで……どうしてこんなに鼓動が撥ねるんだろうか。 「そんなの……本当に出来るかどうか、解らんだろうが……」 どうか炎が気付きません様に、気付きません様に、と念じながら爆は言った。 「そうだな。けど、約束するくらいは、出来るだろう?」 そう言った後、炎の間に小指を立てた爆の手が掲げられた。 意味を掴みあぐねて炎がきょとんとしていると、爆がぶっきら棒に言い放つ。 「……約束、するんじゃないのか?」 あぁ、それで小指かと納得できた。 「いや……可愛いな、お前は」 「なッ…………!」 「ほら、約束するんだろう?」 おそらくは殴り為に繰り出された拳をやんわりと捕まえ、炎は爆の小指に自分のを絡めた。
爆のやり方で”約束”した後は、自分のやり方で”約束”するのもしっかり忘れなかったけども。
この日、再びとある宿のとある一室でバシイイイイイ!!と聞いてるだけで痛そうな音が轟いた。
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