Original happiness




 春である。
 一年で最も麗らかな季節である。
 春眠暁を覚えず、という格言(?)もあるくらいだし、現郎は目玉が溶け出す勢いで昼寝をしようと決め込んだ。
 が、しかし。
「現郎!外にに行こう!!」
「………………」
 そんな計画は、爆によってあっさり水泡に帰したのであった。

 と、言うわけで二人は庭を散歩する事にした。爆はまだちいさいのであれこれ連れて行くワケにもいかない。
 現郎の三歩くらい前を歩く爆は、きょろきょろと忙しなく頭を動かし、今にも駆け出しそうだった。
 だって、いっぱい動物はいるし、いろんな色で満たされてるし。
 こんな日にただ寝てたら勿体無い。
 しかしそんな爆とは対照に、現郎は今にも眠ってしまいそうな、ぼへーとした表情であった。
 と、一年で最も美しく咲き誇る花のなか、更に輝く色彩を持つ花を、爆は見つけて。
 嬉しそうにして後ろの現郎にも教える。
「現郎、花が綺麗だ」
 ――振り返り、その言葉を発した爆に、現郎の脳裏にフラッシュバックする映像があった。


      ――ねぇ、現郎。
         花がとっても綺麗―――


「……………………」
「……現郎?」
 返事を返さない現郎に、とうとう立ったま寝てしまったのか、と爆は声をかけた。
 それでも返事がない。爆はもう一度かけようとしたが、母親の声に遮られた。
「爆ー?おやつよー」
「……おやつだとよ」
 早く行くぞ、と肩車されてしまった。


 それでいいの?
 なんて

 それでいいからこうしている


「……現郎は……」
 天の作ったケーキを食べ終わり、執務室へ帰る現郎の後を、何故か爆はついてくる。
「母さんが、好き?」
「そりゃそーだろ」
 何を言い出すのか、と思わず目が点になりかけたが。
 あんなふうに穏やかで優しい人を、何処で嫌えばいいのか。
「そうじゃなくて。
 真と同じ意味で好きなのかと聞いているんだ」
「…………オメーがそう思ったんなら、そうなんだろうな」
「からかってるのか?」
「別に」
 しばらく二人は無言で歩いた。
 けど、爆がついてこれる速度だったから、無視はしていない。
「嫌だったか?母さんが結婚する時とか」
 オレが産まれた時とか。
「ん〜…………」
 現郎はぽりぽりと頭をかいて。
「特に何も思わなかったな」
「何でだ?
 好きな人が自分から離れるんだぞ?」
「別に他の奴と結婚したからと言って、永久に会えなくなるワケじゃねーだろ」
「そうじゃな……」
 と、現郎は足を止めて爆と向き直った。
 爆はそれを、解らないことばかり言ってるから怒ったのだと思い萎縮した。
 しかし、頭に載せられた手は温かく。
「なぁ、爆」
 優しく。
「俺は姫様の事が好きで。
 真の事をなんだかんだ言って大事な親友と思ってて。
 その二人がお互いを凄く好きと想ってて、結びついたんだ」

「どうして、嫌だと思わなくちゃなんねーんだ?」

「…………」
 爆はぼぉっと。
 現郎の、窓からの光を弾いている髪を見ながら、その意味を把握しようとした。
「……現郎の言ってる事、よく解らない」
 散々悩んで、出た結論だった。
「だろうな。オメー以外でも解らねーな。きっと」
 誰にも解らなくても。
 自分にしか解らなくても。
 それでも幸せだと言い切れる。
 ま。幸せなんて所詮は自己満足の結晶だし。
「オレは、現郎が他に好きな人が出来たら……」
 爆は思った。
 現郎がもうちょっと下に手を置いてくれてたら良かったのに。
 そうしたら、顔が隠れたのに。
「嫌だと……思う……」
「そうか」
 くしゃりと頭を撫でた。
「……俺も爆に好きなヤツが出来たら、その時には少しぐらい悲しいくらいは思うかな」
「……現郎以外好きにならないから」
 ぽつん、と言った。
「……本当か?」
「本当だ。約束するか?」
 と、小指を出す爆。
 思わず微笑んでしまいそうだ。いや、実際そうだろう。
 頭を撫でていた手で差し出された手を握る。
 爆が訝り小首を傾げる。
「俺はこんな子供騙しな約束はしねーんだ」
「だったら、どうすると言うんだ」
 爆は少しむっとしている。
 それも受け取り、現郎はシニカルな笑みを浮かべ、
「こうする」
 そうして爆を抱き上げ、そっと口付けを落とした。


 もし、自分が幸せに思う事も、相手が幸せだと思うなら
 ……それも幸せだね




ロイヤルは現爆です!とか言っておきながら爆くんの成長日記になりつつある中、ついに二人の仲進展!
爆はこの時6,7歳ですな。
次回からは色々甘くなる方向でv(しかしただのほのぼのになる率高し)